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日常編 第38話 0.00001%のハッピーエンド

 もう一人の俺からスマホを受け取り、とある写真を見せられる。

 そこに写っていたのは飛び降り自殺した女子高生だった。

 ジッと見つめながら写真について考えていると、彼がコレについて語り出す。


「彼女は運命に殺され、短い人生の幕を下ろした。俺はその日、その時間、その瞬間、スマホ片手にその場に立っていた。どうあがいても救えないと言うことは分かっていた。だから、俺は俺にできることをした。心を鬼にし、彼女の死後、その死を無駄にしないためにも、写真を撮った。その写真をメモリーズ・タイム・トラベルで過去の俺のスマホに送った」


「心を鬼にしてまで撮るような写真なのか?」


「撮る価値はあったと思う。後にも先にも、その写真は日々喜の強い原動力となりうる」


 首をかしげた。

 

「原動力? この写真の子が俺の原動力。んー……写真の子が、7月7日に死ぬ子だと言うことは分かった。それはお前にとっての大切な人で、俺にたっても大切な人……俺の知り合いで、尚且つ女性の人と言えば――神崎姉さん?」


「だから違うって言ってるだろ」


 ですよね。


「そもそもあの人は社会人だ。制服なんて来てない。着ていたとしても家でこっそりだ。もっと冷静に考えてみろ、他にも女性の知り合いがお前にはいるだろ」


 俺の知り合い。


 学生。


 女性。


 大切な人?


「……」


 これらの要素から導きだされる人物は――


「……」


「……」


『おはよう、桜咲くん』


 優しいあの人の柔らかい声が過ぎる。


「……え……?」


 とある女子生徒の顔が思い浮かんだ。


「……」


 いや。

 いやいや。

 まさかな。

 

「そんなはず……ないよな……」


 冷や汗が流れ出す。

 最悪で最低なことを考えてしまった。


「……アハハハハハ……俺は誰を想像してんだ……」


 想像した人物は、俺にとってとても大切な人物だ。

 

「……大切な人物? 死ぬのは大切な人物だと言っていた……」


 だけど、そんなはずはないと必死に自分に言い聞かせる。


「日々喜。そう言うことだ。その写真が、ただのデータではなくなっただろ」


「……」


 スマホを握る手に力が入る。

 真剣な眼差しで写真を凝視する。

 否定したい。

 お願いだから俺の考えを否定してくれ。


 なのに写真を見れば見るほど、あの子に見えてくる。

 

「……なんで……」


 写真に写る女子生徒の右腕には学級委員の腕章。

 似て非なる物かと思ったけど、そうではなかった。

 彼女の腕には、レトロな赤い時計があった。

 これらの要素が、知り合いにあまりにも似ていた。


「……違うよな? これは何かの間違いだよな?」


「いいや、日々喜。7月7日。三人の生徒が命を落とす。俺と、お前と――」


 話の流れでなんとなく察した。

 彼が答えるよりも先に結論へとたどり着く。

 スマホを持つ手が震えだす。聞きたくない。

 これを聞けば、俺はきっと悲しみに押しつぶされる。


伏見ふしみ理美りみだ」


「……」


 この写真の女性は別人だと思いたい。

 だけど、謎の男は言ってしまった。

 あの人の名前を口にしてしまった。

 間違いない。もう否定できない。


 間違いなく写真の人物は俺の尊敬するあの人。


「……」


「死因は、後頭部に強い衝撃を受けることによって引き起こされるショック死だそうだ。ただ、ショック死以前に、頭が砕けているので、転落死などにも該当する」


「……」


 世界が真っ暗になった。


 ………………


 ……………


 …………


 ………


「……そう……なんだ……」


 長い沈黙のあと、俺は間抜けは声を漏らす。

 あの子が死ぬ理由? 飛び降り自殺? 他殺?


「伏見さんが死ぬ? あまり面白い冗談ではないな」


「冗談だったら嬉しいんだがな……。正直俺も信じたくない。でも7月7日に死ぬと言う運命は変わらない。事故、他殺、不注意、様々な死に方があるが、多くの場合が高い所からの飛び降りだそうだ。その写真は、一回目のあの日、飛び降り自殺直後に撮った写真」


 彼の言葉に気が動転する。


「う、嘘だ!! 伏見さんが自殺なんてあり得ない!!」


 気づけば俺は叫んでいた。


「否定したい気持ちも分かる。だけどこてが現実なんだ」


 伏見さんが自殺? 写真の女の子が伏見さん?

 あの人は俺にとっての唯一の友達で、大切な存在でもある。

 俺とは違い、順風満帆で幸せな人生。死ぬ訳がない。 

 

「自殺なんてあり得ない!」


「本当にそうか? なにかSOSはなかったのか?」


「……」


 自殺はない――ともいいきれない。

 完全に否定できない自分がいる。

 正直、心当たりがあった。

 今朝のHRで伏見さんが呟いた『死にたい』と言う言葉。

 彼女はきっと誰にも言えない悩みを抱えている。


「……」


 俺は伏見さんの近所にも関わらず何も知らない。


「今の俺は初期の日々喜……つまり、前回の俺は、伏見さんを救えなかった」


「前回だけではない。前々回も、全然前回も伏見理美は救えていない」


「それが運命だから……なのか?」


「ああ、運命は強い」


「……」


「だが絶望する必要はない。今のお前が歴代日々喜の中でもっとも最強に鳴れば、伏見理美が死ぬと言う運命も変えられる」


 敵は運命。

 でも伏見さんは自殺。


「少し変じゃないか?」


「なにがだ?」


「敵は運命、でも伏見さんは自殺。伏見さんの友達になり、心の支えになれば、運命と戦うことなく、彼女を救えるのではないだろうか?」


「実はな、そんな簡単な話ではないんだ」


「……?」


「自殺はあくまでも死因の一つに過ぎない。仮に彼女の友達になり、自殺を防げたとしても、運命によって彼女は殺される。高層ビルの看板が直撃したり、電車に轢かれて即死したり」


「……そんなの無理ゲーだろ。俺、タイムリープもの好きだからよく分かる」


「タイムリープものが好きなら、0.00001%のハッピーエンドのことも知ってるだろ」


「途方もない戦いが始まる……。ちょっと、頭が痛くなってきた」


「途方もない戦いだが、最後には必ず伏見理美を救う未来が待っている」


 俺はスマホ顔を上げ、部屋の中央で座る彼の方を見た。


「本当に俺が強くなれば、伏見さんを救えるのか?」


「ああ」


「……そうか……」


「これで分かっただろ。お前は何がなんでも強くならないといけない。自分のためだけではない。伏見理美のためにも強くならなければいけないんだ。落ち込んでる暇なんてない。悲しんでいる時間なんてない。俯いている時間すらも無駄だと思え。ネガティブな気持ちになったら、そのその写真を思い出せ。お前が伏見理美は救わないと、お前もあの子も死ぬ」


 タイムトラベラー日々喜から伝えられた3カ月後の未来。

 それは俺が思い描いていたようなキラキラした日常ではない。

 相反する物。もっと残酷で、もっと悲しい辛い現実だった。

 だが、どうやら悲しんでいる暇はないらしい。

 俺が頑張らないと、俺の人生はバッドエンドまっしぐら。


「伏見さんの居ない世界なんて……考えられない」


 それに俺もまだ死にたくない。

 だから、頑張るしか道は残されていない。

 歯をかみしめ、両拳に力を込めた。


「あ、俺のスマホ壊すなよ」


「ごめん」


 スマホを彼に返し、決意の眼差しで再び拳に力を込める。

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