表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/58

日常編 第37話 少し先のつらい現実

 彼は自分のスマホを切なそうな表情で見つめていた。


「お前のスマホが今の話となにか関係あるのか?」


「その中には、辛い現実が入っているんだ」


「つらい現実?」


 彼は片手でスマホを操作し、何かを探していた。


「ちょっと待ってな。今探すから」

 

 探し物? サイト? 動画? 文章?

 フォトギャラリーでも見ているのだろうか?

 気になったので、素直に尋ねることにした。


「辛い現実ってなんなんだ?」


「写真だ」


「写真か」


「……あった……」


 スマホの画面を伏せ、彼はそれを俺の方へと差し出してきた。


「言っておくが、見る前にちゃんと覚悟しろよ」


「覚悟?」


 写真ごときで覚悟も何もないだろ。

 などと思いつつ、彼からスマホを受け取る。


「スマホをひっくり返せば、辛い現実とやらが写っているのか?」


「ああ」


 写真一つで俺が意志が強くなるとは思えない。

 まぁ、いいか。とりあえず写真を見よう。

 彼の忠告を無視。覚悟することなくスマホを返す。


「……!?」


 画面に写る写真が、容赦なく俺の視線に入ってくる。 

 そこに写る異常な光景に目を疑う。

 ぐちゃぐちゃになった肉の塊と周囲に広がる血痕。

 覚悟していなかったので、余計に精神的ダメージが大きい。


「うわ、最悪。……グロ画像じゃん」


 こういう写真を見せる時は、事前に言ってほしい。


「あ」

 

 いや、言ってたか。

 彼は親切に『覚悟しろ』と忠告してくれていた。

 覚悟しなかったのは俺のせい。今回は俺が悪い。


「で、な、なんだ……これは……?」


 写っていた人物の頭が……砕けていた。

 中の脳みそが流れ出し、血が飛び散つている。

 これは辛い。写真から目を背けたくなる。


「……うわっ……吐きそう……。高画質だから余計に気持ちが悪い」


 対峙して座る彼は、ジッとスマホの方を見つめていた。


「……」


 この写真がとても重要な何かだと言うことが分かる。

 目を背けることなく、真剣に見ろという圧を感じた。


「見るけどさ……グロい……。見たくないけど……見る……」


 死体は制服を着ている。

 つまり生徒だと思われる。

 スカートなので女子だと分かる。

 

「なぁ、もう一人の俺。これ……美術部の卒業制作とかじゃないよな?」


「本物だ」


「だよなー……これが辛い現実とやらだもんな……」


 飛び散る血。

 死んだ人間の写真。

 哀れな女子生徒。

 これらは全て現実だ。


「……うっ……」


 吐きそうになった。


「あ、ダメだ……もう限界」


 俺には辛すぎる。

 写真から眼を逸らした。


「日々喜、目を逸らすな。しっかりと現実を受け止めろ」


「受け止めるって何を? なんで死んだ女子生徒の写真なんて見せるんだよ? こんな見せたところでなんの意味もない。強くなりたいという意志も湧いてこない。無意味」


「それは写真を真剣に見てないからだ」


「真剣に見たよ。女子高生の写真だろ」


「もっとよく見ろ」


 彼がこの写真を見せたことには必ず意味がある。


「真剣に見たら、何かが変わるんだな?」


「ああ、お前は強くなる」


 彼がそういうなら俺は彼を信じる。

 再度覚悟を決めて、再び写真を見た。


「……んー……」


 背景はコンクリート。

 おそらく横になっている。

 砕けた頭。流れ出す血。

 

「高い所から落ちたような写真だな」


 死因は飛び降り自殺だろうか?

 もしくは高い所から事故で落ちたのか?

 それとも誰かから突き落とされたのか?

 はたまた重機に頭を踏まれた可能性もある。


「いや、それは違うか」


 重機だった場合、もっと頭が潰れているはず。

 今回は激しい衝撃により頭が砕けた写真だ。


「やっぱり分からない。真剣に見たけど何も変わらない」


「人の目には興味のある物しか入らない。そして興味のない物は眼中から消す生き物だ。お前にとって、今のその写真はただの写真でしかない。所詮はスマホのデータと言える」


「……うん……なるほど?」


 彼はゆっくりと腕を上げ、スマホを指さした。 


「日々喜、何か気づいたことはないか?」


「気づいたこと? ただの女子高生の亡骸にしか見えないが……」


「本当にそうか?」


「……う、うん……」


 何度見ても、何度考えても、何度拡大しても、ただのJKだ。


「ヒントは日付だ」


「日付?」


 再び写真へと視線を向けるが、日付などどこにもない。


「あっ、タップすれば出てくるか」


 ポチッと画面をタップ、すると写真の詳細情報が出てきた。


「日付、日付は……えっと、ん?」


 写真の日付が、3ヶ月先の日付、7月7日になっていた。


「もしかしてこれ、3ヶ月先の未来で撮ってきた写真なのか?」


「……。……ああ」

 

 やはり、と言ったところだな。


「メモリーズタイムトラベルは、未来から過去に記憶のデータを送る発明だ。データであれば、写真でも動画でも未来から過去に送ることができる。ここまで言えば分かるよな?」


「なんとなく」


 半分くらいは分かったと思う。


「この写真の女子高生は7月7日に死んだ。それをお前が撮影した。そう言うことだろ?」


 死体の写真を撮る。

 字面だけ見ると、ただの悪趣味なサイコ野郎だな。

 でもこの行為には必ず意味があると思う。

 ただ、この写真の意味が、今の俺にはまだ分からない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ