表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/58

日常編 第36話 決定的に足りない物

 互いに頑張ろうと言い合い、二人の絆を深める。


「だが」


「だが? なに?」


 彼の表情から笑顔が消え、真剣な物へと変わる。

 今までいろんな顔を見てきたが、これは初めてだ。

 まっすぐと、こちらの目を真剣な顔で見ていた。 


「今のお前では強くなれない」


「強くなれないから、異世界に行くんだろ?」


「今のお前では異世界に行っても強くなれない!」


 なんで二回言うんだよ。


「え、でも、え、じゃあ、どうやって強くなればいいんだよ? え? ハァ?」


 一度持ち上げて下げるパターンですか?

 彼が何を言っているのか理解できない。

 異世界に行けば、誰でも強くなれるんだろ?

 過酷ではあるが、その分リターンも大きいって話だろ。

 俺は覚悟を決めた。強くなると強い覚悟で言葉にした。

 何が足りない? 覚悟も気合いも今の俺にはある。


「強くなれない? 何を言ってるンゴ? 今から俺を異世界に飛ばすんだろ? そして俺は修行するんだろ? んで強くなって戻ってきて、二人で牙突を倒すんだろ?」


「そうだ。でも今のお前ではダメだ。絶対に強くはなれない」


「『絶対』とまで言い切るのかよ!? ずいぶんと強い言葉を使うじゃないか」


 何回言うんだよこの人。

 動揺。困惑。絶句。真顔。

 好き勝手言われていらだちを覚えた。


「強くなれないを連呼してるけど、俺が強くならないと二人とも死ぬんだろ? お前は何がしたいの? 死にたいの? そこは『お前は強くなれる!』って言うのが普通じゃない? わざわざ俺の志気を下げてどうすんだよ。俺……泣くよ。メンタルはガラスのハートなんだぞ」


「すまんな。誤解を生むような言い方をして」


「誤解?」


「べつに強くなれないと言っている訳ではない。今のお前では強くなれないと言うことだ」


「今の俺では?」


 意味深な発言である。


「ああ。今のお前には決定的に足りないモノがある」


「ほう」


「それがない状態で向こうの世界に行っても、すぐに負けて、落ち込んで、悲しんで、挫折する」


「ふむ」


 意地悪で言っている訳ではなさそうだ。

 きっと彼は俺の知らない俺も見てきている。

 だからこそ、そう言える根拠があるんだと思う。

 このまま行けば、敗北した別世界の俺の二の舞なのか。


「たしか、異世界の修業は過酷とか言っていたもんな」


 過酷な試練か。

 つまり今の俺には過酷な試練に耐えられる何かがない。


「その決定的に足りない物があれば、俺は強くなれるのか?」


「ああ、保証する」


 強くなれる物。

 それは具体的な物なのか?

 それとも超能力的な物なのか?


「まさか! 都合のいいチートスキル」


「違う」


「全属性の魔法が使える杖とか!」


「違う」


「なんでも防げる最強の盾とか!?」


「違う。全然違う」


「違うのか」


 俺ツエェーを期待したが、やはりそうではないようだ。


「あ、今の俺じゃダメなら、魔法少女に変身すればいいとか!?」


「……」


 呆れて声も出ないのか、彼が黙り込んでしまった。


「ツッコミがなくなると、それはそれで寂しいものを感じる。まぁ、冗談はこれくらいにしれ、俺に圧倒的に足りない物ってなんなんだよ?」


「難しく考える必要はない。純粋に、心の持ちようなんだ」


「心の持ちよう?」


「そう。率直に言うと、今のお前には強くなりたいという意志が足りない」


 意志が足りない?

 おいおいおい何を言うかと思えば、そんなことか。


「意志ならあるだろ。いきなり余命宣告をされ、3ヶ月の命と言われ、無残にぶっ殺されると聞いた。それでも『死にたくない』と言う答えを導き出し、生きるために異世界に行くことを決意した。向こうの世界から戻ってきて気流牙突に喝。コレが強い意志と言わずなんという?」


「足りない」


 足りないのか。


「『来期のアニメが見たい』とか、『楽しい日常を送りたい』とかでも足りないのか?」


「全然足りない」


「なら、どうすればお前の言う【強くなりたいと言う意志】が得られるんだ?」


「それは……。……」


 彼は黙り込み、重苦しい空気を身にまとう。

 今更何をためらうと言うのだろうか?

 平和維持機関のことも、気流牙突のことも、拳銃のことも、もう一人の俺のことも、風見流のことも、メモリーズタイムトラベルのことも、もう一つの世界のことも、俺は全部知った。

 最初は驚いたが、今では日常の一部だ。何を言われても驚きはしない。


「何を渋る? 俺はなんでも受け入れるぞ。今の俺にはその覚悟がある」


「違うんだ。これは日々喜の問題じゃない」


「……ん?」


「いや、俺も日々喜か。つまり、日々喜の問題であることには間違いない」


 彼の問題と言うことだろうか? 


「この事実を告げることは残酷で、俺の心の方が……ツラいんだよ」


 彼は悔しそうに歯を噛みしめる。

 俺は黙って彼を見守ることしかできなかった。

 この男はタイムトラベラーだ。俺よりも辛い経験をしてきたに違いない。

 そんな男が渋るほどの辛い事実。いったい何を告げるのだろうか?


「今の日々喜が初期の日々喜だと知ったとき、言わなきゃいけないと言うことは分かっていた。だが……最後にこの事実をお前に伝えたのは、何回目のお前だ?」


「知らない」


「何度か同じ時間を繰り返せば、口に出さずともお前はこの事実を記憶する。そのおかげで、俺はこの事実を口に出さなくて済んでいた。言わなくていいと安堵していた」


「……」


「だけど、今日、俺は、また、同じ台詞をお前に告げなければいけない」


 今にも泣き出しそうな声で、彼は覚悟を決めた。

 瞳から零れたしずくを拭き取り、彼は静かに告げる。


「3カ月後、命を落とす人物がもう一人いる」


「もう一人……?」


 この物言いだと、きっとそれは彼に深く関係している人物だ。

 家族か、仲間か、恋人か、大切な人か、かけがえのない存在。


「お前にとって、すごく大切な人なんだな」


「俺にとってもそうだが、俺以上に、お前にとっての大切な存在だ」


「え、俺にとっての大切な存在?」


 狭い交友関係で思い当たる大切な存在と言えば――


「まさか、従姉の神崎姉さん?」


「違う。あの人の死は運命よって決められたものではない」


「……違うのか……。――と言うか、今のはどういう意味だ? 運命によって決められたものではない? じゃあ、運命によって決められた死があるのか……。……あ、運命?」


 そういえばコイツは『平和維持機関は中ボス、ラスボスは運命』と言っていた。

 その言葉の意味が、ここへきて初めて理解できたかもしれない。


「大切な物を運命によって奪われる。だからお前は同じ時間を繰り返しているのか?」


「……」


 彼は静かに頷いた。


「運命を変える……。でも世界は神のシナリオによって同じ結末へと収束すると言う話を聞いたことがある。過程を変えたところで、結末は変わらない、なんて説もある」


「たとえそうだとしても、俺は運命に抗う」


「大切な人を死と言う運命から助けるためにか?」


「ああ」


 彼の大切な人で、俺にとっても大切な人。

 神崎姉さんではないことは確定している。


「誰だろうか……?」


「答えにたどり着くことはないだろう。とりあえずコレを見てくれ」


 そう告げると、彼は勉強机の下へと手を伸ばす。

 何を出すのかと思えば、それは青いケースのスマートフォンだった。


 ■■■■■■■

 ■■■机■■■

  ■   ■

  ■ →→□スマホ□


「部屋に逃げ込んだとき、ポケットから飛び出してしまった」


「へぇー」


 彼のスマホは俺と同じ推しアイドルのスマホケースだった。

 それは某Vtuberグループの三期生・兎羽ぺこなのものだ。

 俺もヤツも両方、桜咲日々喜なので、センスが同じなんだろ。

 ただ、ヤツの方はお正月衣装のぺこなのケース。

 対して俺は初期衣装のバニーモチーフスマホケースだ。

 などと考えながら、彼が取り出したスマホを見つめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ