日常編 第35話 支え合う存在
今は4月。
そして俺が死ぬ日が7月7日。
このまま行けば残り3カ月の命。
突然の余命宣告に絶望しかなかった。
だが、俺は一人ではない。
目の前にいるコイツは、俺を救うためにこの時代に来た。
今は赤の他人だが、近い将来、俺らは深く関わることになる。
ありがとう。ありがとう。俺を救いに来てくれてありがとう。
「俺がのび太で、お前がドラえもんか」
「ドラえもん? 少し違うな。お前も戦うからお前もドラえもんだ」
ダブルドラえもん。
「……うん……。そう、だよな。俺も戦うんだよな」
「お前と俺が手を組めば、向かうところ敵なし。最強コンビの誕生だ」
「……」
「どうした?」
1+1=100みたいなキン肉マンのような理論。
でも最強であるコイツと違って、俺は弱い。
異世界で鍛えてこいと言われたが限界は見えている。
だって3ヶ月だろ。少し筋肉が付くくらいだ。
「最強コンビって言うのは、最強と最強が手を組んだ時に使える言葉だ。お前はいいだろう。風見流と言う武術が使えるからな。だけど俺はどうだ? 頭が良い訳でも運動神経が良い訳でもない。お荷物どころか、足を引っ張ってしまうかもしれない」
「今はそうかもしれない。だけど人は強くなれる。俺だって最初から風見流が使えた訳ではない。どこにでもいるただの弱い人間だった。だけど師匠である荻野風林先生のお陰で強くなれた。沢山修業して、沢山苦労して、沢山努力して風を見極める力を得た。経験者は語る。力がないなら鍛えてばいい。弱いなら強くなればいい。足手まといだと思うなら、足手まといにならないように努力すればいい。お前には強者の素質がある。他でもない、俺が言ってんだ。だから自分を信じてくれ。3ヶ月が短いと感じるだろう。だけど人は3ヶ月で劇的に変われる」
「……」
「日々喜。『無理』『不可能』『俺にはできない』と言うのは簡単だ。諦めればそれで試合終了。だけどこれは変われるチャンスだ。このまま日常を送って3ヶ月の喜びを得るか、非日常に飛び込んでその先の人生を得るか。決めるのはお前だ」
努力してこなかった俺が、努力する切っ掛けを得た。
自分の死期が分かった。俺は追い詰められた人間だ。
本気になれば、死に物狂いで修業ができるはず。
このまま死を待つ? 俺はそんなつまらない男か?
それとも死期に抗い、見苦しく努力する人間か?
「俺は――」
答えなんて最初から出てる。
「生きたい。今期のアニメだけじゃ満足できない。来期のアニメも、来々期のアニメも来々来期のアニメもみたい。だから……強くなりたい。死にたくない」
拳に力を入れる。
「君もヒーローになれる!」
今までここまで言ってくる人は、人生で一人もいなかった。
ここまで俺を信じ、期待し、鼓舞してくれる人なんて初めてだ。
だけど、俺は冗談抜きで弱い。臆病者だ。強くなんてなれない。
ツライことから逃げ、勝負事を嫌い、逃げ続けてきた人間だぞ。
そんな人間が、異世界に行っただけで劇的に変われる。
にわかに信じがたいが、今は彼の言葉を信じるしかない。
顔を上げ、決意を込めた眼差しをヤツに向けた。
「3ヶ月で……結果にコミットできるのか?」
「ああ。ライザップできる」
確実に強くなれるなら、俺は飛び込む。
強さを身につければ、俺はもう誰にも負けない。
伏見さんにふさわしい人間になれるかもしれない。
「決めた。強くなるために異世界に行く!!」」
明るい未来のために!!
俺は異世界に行って努力する!
「……」
笑顔満点な俺とは裏腹に、もう一人の俺から笑顔が消える。
「どうした?」
「お前よりも……心配なのは俺の方なんだよな」
バトンタッチと言わんばかりに今度は彼がネガティブなことを言い出す。
「なんでそんな顔をするんだよ?」
「お前にはまだ伸びしろがある。でも俺は違う。この世界には、俺に風見流を教えてくれた荻野風林もいない。俺の風見流は、これ以上強くならない……。言うなれば今が最高地点だ。なのに俺は気流牙突に負けた。この先何度再戦しても、アイツに勝てる自信がない」
肉体の強度が俺とはまるで違うから忘れていたが、やっぱり彼も桜咲日々喜なんだ。
口ではポジティブなことを言う、でも本当は誰よりもネガティブで怖がりなんだ。
「ずいぶんと弱気なことを言うんだな。俺を鼓舞したときのお前はどこに行った?」
「そりゃ、弱気にもなる。俺の状態を見ろ。互角と言うことは、一つのミスが命取りになると言うことだ。確実に勝てるようにならなきゃ、意味がないんだよ」
彼は相手に一度敗北している。
だからこんなにも暗い雰囲気なんだと思う。
勝負事をしない俺には分からない敗北と言う感情。
一度負けた相手に勝てるのか?
一度敗北した男が本当に俺を守れるのか?
一度逃げて来た人間がまた戦えるのか?
正直、彼の心情など知ったことではない。
相棒には強気になってもらわないと困る。
だから俺は言う。
「お前は強い。目的のためなら、どこまででも頑張れる男だ。だから自信を持て」
「……」
「俺はこれから別世界に行く。そして特訓してくる。せっかく強くなって帰ってきても、相棒が弱きだったらイヤだ。だから顔を上げてくれ。大丈夫、お前もきっと強くなれる」
「でも」
「でももクソもない。自分の限界を自分で決めてどうするんだよ」
「自分の……限界……?」
その言葉に彼は顔を上げる。
「自分で言ってただろ。勝てなければ勝てるようになればいい。怖ければ怖くなくなるほど鍛えればいい。傷つきたくないなら、強固な肉体を手に入れればいい。まさか、全部口だけなんて言わないよな。自分で言ったんだ。自分の言葉には責任を持て」
「……」
言葉が心に届いたのか、彼は仰向けの状態から、上体をあげてあぐらをかいた。
「なに弱気になってんだろうな。一度敗北したくらいで情けない。すまんな、ボコボコにされたせいで思考が後ろ向きになっていた。もう大丈夫だ。ありがとうな、日々喜」
互いの顔から暗い表情がなくなり、前向きな気持ちになった。
「ところでなんだけど、俺は今から異世界に行くんだよな」
「ああ」
「修業しに行く訳なんだよな?」
「ああ」
「3ヶ月で強くなれるってことは……かなりスパルタなんだよな?」
「お前にとってはかなり過酷だと思う。だが乗り越えた先には必ず希望がある」
「かなり過酷なんだ……」
梁山泊に入門するくらい過酷な修業なのだろうか?
「一歩間違えれば、心が絶望に呑み込まれて立ち直れなくなるほど過酷だ」
「うわーお」
「だけど、大丈夫。お前が絶望したら、俺がその闇からお前を救い上げる。そのために俺はここにいる」
数秒前まで絶望していた人間の台詞とは思えないな。
とはいえ、前向きになってくれたのなら結果オーライだ。
これからどんな未来が待っているか分からないが二人三脚で頑張ろう。




