零の章 第四話:やっぱり俺は異能バトルモノが好き
引き続き本屋を歩きながら、目の端にアダルト本が映り込む。
18禁コーナーではなく、普通の棚に置かれたエロテックなエチエチ本だ。
小学生だった俺にとっては刺激が強く、無意識に頬が緩んでしまう。
だがその本の帯を見たとたん、その笑顔もスッと消えていく。
「なになに? 『おかずが欲しいならこの本で抜け!』だって……」
当時の俺は半ば逆張りオタクのような者だったので、抜けと言われたら抜けない。親に勉強しろと言われたら、勉強しなくなくなる現象と同じようなものだ。
「こういうのってなんか好きじゃないんだよな」
女性がわざとらしく裸にされているシーンを見ると、編集と漫画家に『お前らオタク読者は女の子が裸になれば喜ぶんだろ? ほら、興奮しろよ萌え豚ども!』って言われているような気がして萎なえる。だから個人的な意見ではあるが、不自然なお開はだけは好かん。
安易に肌色を出さないと言う点で、俺は覇王学園と言う学園格闘漫画を高く評価している。
バトル描写もリアルで、超能力とかチートではなく、ガチの拳と拳・体と体のぶつかり合い。ヒロインもサブヒロインも最強、脇役も先輩も先生も最強。
聞いたことのない拳法が続々と出てきて新キャラが登場するたびにドキドキする。
実在する武術も登場すれば、作者の考えた訳の分からない武術も登場するので面白い。
冒頭の大乱闘武道会の激しい戦闘シーンは今でも鮮明に覚えている。
全校生徒参加型の頂点を決めるサバイバルバトル。周りが激しくドンパッチやる中、なんの力もない最弱の主人公が呆然と立ち尽くして怯えているシーンは好きなシーンの一つだ。
『どうして僕は……ここにいるのだろうか? ヤバイ……逃げなきゃ僕は死ぬ。野生の勘――と言うか、弱者である僕の本能がそう告げた。でも……逃げ道がない!?』
主人公は頭では分かっていても、恐怖で足がすくんでいた。
右を見ても戦う格闘家、左を見ても戦う格闘家、前や後ろも同様。上を見たら上空で戦う生徒たち。足元からはなんか地下で戦っているような音が聞こえる。一歩でも動けば間違いなく戦闘に巻き込まれる。彼は死を覚悟していた。まるで天変地異の中に取り残された唯一の人間。
この後、主人公がモブ敵に襲われそうになる。それをヒロインが助ける。
『バカ! 戦場で立ち尽くす者がどこにいる!!』と怒られるシーン好き。
誰もが自分のことしか考えずに頂点だけを目指す戦場でヒロインは人を助けた。
それは格闘バカが通う学校において前代未聞のこと。
こりゃ、惚れるよ。主人公同様、俺もそのヒロインが好きになったもん。
あと、その、あの、メインヒロインも好きだけそ、サブヒロインも好き。
とくに嵐山イミルが猛烈にスコなのだ。
理由は単純。ここだけの話、俺の好きなクラスメイトに似ているからである。
なんか彼女が登場するたびに心がドキドキして――
「はぁ~~~尊い。可愛さが尊い! メガネ萌えぇえええええ!!」
好きな女の子と性格が似てる。惚れない方がおかしい。
イルミちゃんが初登場したのは四巻。しかも四巻の表紙だ。
ほぼ全巻一巻ずつ持ってるけど、四巻だけは三冊持ってる。
「思い出した。表紙がきっかけでストーリーが気になり、その冒頭がきっかけで作品に惹かれ、キャラデザのおかげで大切に思い、ヒロインの可愛さで心を奪われた」
あと展開も好きだ。スポコン努力物は俺の好物である。
物語を通して成長していく主人公。応援せざるを得ない。
「格好いいよな」
・変な路線変更や読者の声に影響されない一貫したテーマ。
・人気が落ちた時でさえ露骨なエロに逃げず、最後まで貫き通した自然な露出へのこだわり。
・着衣エロへの執念。着衣おっぱい。あの人の描くヒロインのおっぱいが俺は好きだ。
あの作品は漫画でありながら、作者の生き様を描いた物語と言っても過言ではない。
「でも……」
自分の信念を貫き通した結果、残念ながら人気が伸びずに打ち切られた。
因みに巻数は全部で10巻。一巻以外は全部初版で買っている。
確かに打ち切り漫画の仲間入りはしたけど、それでもあの作品は俺の心に大きな影響を与えてくれた。俺も九重キバのような男になりたい! 誰かを守れるような男になりたい!
そう思わせてくれた。覇王学園と出会っていなければ今の自分はいない。
「……でもまぁ……俺は主人公にはなれないんだけどね……」
守るべき友達も家族もいないので、覇王学園の主人公のような人間にはなれない。
守るべき者がなければ、誰かを守ることなんてできない。当たり前だ。
つらいよね。現実はアニメの様にはいかない。
因みに覇王学園連載終了後、俺は漫画を読まなくなった。
なんだか面白い作品はあるけど、心に火をともす作品とは出会えなかった。
あの日までは――
それは何気ないある日のこと。たまたまコンビニに行ったときの話だ。
適当に店内をブラーっとしてたら、とある漫画の表紙が目に入る。
パッとしない主人公、弱そうで、細くて、雑魚そうな主人公だった。
なのになんだか興味が湧いた。俺には分かる。この作品は面白い。
だから一巻を買って読んでみた。
露骨な露出も際どい女性の裸もない。胸の大きなキャラはいるけど、性的な感じがしない。女性キャラも皆が可愛くて、男キャラも格好良くて好きになれる。
一気にファンになった。俺の心に再び生きるための炎がともる。
その本のタイトルが『僕のビッグボーディングスクール』だ。
英雄を目指す生徒たちが切磋琢磨する姿を描いた登場人物の成長物語。
やっぱり思う。漫画に必要なのは露骨な性的描写ではなく、ストーリーやキャラの魅力や関係性なのだと。エロはあくまでもおまけ。それに頼ってはいけない。
覇王学園は打ち切りエンドだったけど、ビボスクには長く続いてもらいたい。
もし終わる時が来るのであれば、そのときは最高の形で終わってほしい。
バクマンの新妻エイジが自分の漫画を最高の形で終わらせたように……。
とまぁ、俺は現代異能学園バトルモノが大好きだ。そう言う世界に憧れる。
さて、好きな漫画・アニメについての話はこれくらいにしよう。
多分そろそろ目覚まし時計が鳴る頃だろうし、起きる準備でもするか。
なんと言うか、目覚ましよりも早く起きた朝ってーのはとても気分がいい。
さぁ、今日も新たな一日を始めよう。