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日常編 第33話 秒で部屋がサスペンス

 部屋にいた男が爆発してしまう。

 不発を願ったが――爆発してしまった。

 コレも牙突の発頸・時間差波動爆弾の影響だ。


 その光景に困惑を覚えた。

 突然の非現実に唖然とする。

 普通、人体はこんな風に爆発などしない。


「最悪だ。秒で部屋がサスペンス」


 360度飛び散った彼の血が、大事なアニメグッズを赤く染めた。

 ポスターは専用のビニール袋に入っているので血は拭き流せる。

 輝夜るなちゃんのフィギュアは隣の部屋に避難させた。

 ただし、この部屋に残されたフィギュアは真っ赤である。 


「大好きな花鶏ちゃんを避難させておいて良かった。でもベッドやシーツが悲惨なことに」


 後手後手だな。

 爆発すると分かっていたのだから、彼を押し入れにぶち込んでおけばよかった。

 

「結果論」


 まさかこんな広範囲かつ高威力で爆発するとは思わなかった。

 予想ができなかった時点で、対策などできるはずもない。


「言ったところで全てが遅い。あの頃の部屋はもう戻って来ない。ああ、真っ赤だ。なんで俺の部屋がこんなことになるんだ。もう一度確認するが、これは夢ではないんだよな?」


「……」


 相手が返事をしてくれることはなかった。

 当たり前か。彼は血飛沫ブシャーで死んだのだから。


「最悪。突然の死とはこのことだな」


 何の変哲もない平日。

 帰宅したらとんでもない光景。


「こんなことになるとは思わなかった」


 大体の人間が、事件が起きてから後悔する。

 車での事故。どうして運転してしまったのか?

 食あたり。どうして食べたてしまったのか?

 ガチャで爆死。どうしてガチャを回したのか?

 殺人現場。どうして俺は帰宅してしまったのか?


「……」


 起きてしまったことだ。今更喚いても何も始まらない。

 自分の瞼や顔に付着したヤツの血を恨みを込めて拭き取る。

 そのおかげで視界が良好になる。見たくない現実が見えた。

 

「ああ……あ……。あれ? 塊がある?」


 ヤツは爆発したが、原型はしっかり残っていた。

 部屋中に飛び散った血は表面的な物だと思われる。

 推測ではあるが、血管が破裂した、とか?

 その影響で全身の傷が先ほどよりも増えていた。

 言うなれば『SAW』と言う映画だな。

 傷の量が、そんな感じでとてもグロテスク。


「すごいな、血管爆発の影響で制服が消し飛んでる」


 信じられない。

 気流牙突、恐ろしいほどの絶対殺すマンだ。


「重症のさらに向こうへ プルスウルトラ」


 自分で言ってて笑えない。

 重症の先って『確実な死』じゃん。

 今のは少し不謹慎が過ぎた。ごめん。


「机の中に絆創膏はあるけど、それでカバーできる傷の数ではない」


 彼が牙突と対峙した時点で、運命の歯車は狂っていた。

 狂った歯車は、俺らが予想する運命とは異なる。

 ヤツの言葉を信じ、救済を諦めた者への天罰か。


「やっぱり救急車を呼ぶべきだったかな」


「――ゲホッ……ゲホッ…………ハァハァ……ハァ」


「おっ!?」


 男が吐血した。

 木っ端みじんになり肉片となったかと思われた。

 しかし彼は見事に生きていた。なんたる生命力。


「大丈夫か!? 爆発したのによく生きてんのな。タフさがゾオン系悪魔の実の覚醒みてーだ!」


「……」


「あ、ダメだ。返事がない。やっぱり死んだのか」


 ここで彼が死ねば、全てが終わる。

 仮に気流牙突が俺を殺さなくても、俺が社会的に終わる。

 殺人鬼の罪で捕まり、無実の罪で少年院に入れらる。

 少年院に入れられれば、俺の事が町中に広まってしまう。

 町中に広まれば、もちろん伏見さんの耳にも届く。

 そんなの嫌だ……伏見さんに失望されたくない。


『桜咲くんってそんな人だったんだ。失望した』


 そんなこと言われたくない。思われたくもない。

 周りに見下されたくない。蔑まれたくない。


「どうにかしないと」


 気持ちを切り替える。

 捕まらないための方法を考えないと俺の日常が終わる。


「警察を説得? それとも逃亡? ――隠ぺい?」


 隠ぺい工作と言う完璧な単語が脳裏を過った。

 すべてを元に戻し、何も無かったことにする。


「部屋の血をどうにか洗い、次に死亡した日々喜をどこかに隠そう」


 隠せば警察に疑われることはないし、逮捕されることもない。

 悪い噂が学校中に流れることもない。

 悪い噂が流れなければ、伏見さんに嫌われることもない。


「そうか、これが俺のハッピーシュガーライフ」


 最高に最悪で悪に満ちた計画を思いついた。

 さとうちゃんに最大の感謝を捧げる。


「フフフフフフフフ」


 不敵な笑みを浮かべて瀕死野郎へと視線を向けた。

 不敵な笑みを浮かべ、不敵な笑みを浮かべ……不敵な……。


「ダメだ。次に何をすべきか思いつかない。不敵な笑みしか行動デッキがない」


 俺は悪党でもなければ、完全犯罪者でもない。

 こんな状況は人生で初めて。頭の中が真っ白だったりする。

 人が死ぬシーンなんて映画でしか見たことがない。

 具体的に彼はまだ死んでないけど。死んだも同然だ。


「ああ……不幸だ」


 ようやくファンタジーみたいな人生が始まると思ったのに……。


「異世界にも行けない、宗教団体の野郎に命を狙われる、まだお話すら聞いていないのに既に日常にはもう戻れない……。俺が何をしたっていうんだよ。ただ学校へ行って、好きなことの隣の席になって、ただ帰宅しただけなのに……こんなのあんまりだ」


 全てを隠蔽して学校へ行っても、俺はもう俺ではない。

 伏見さんの隣の席に座っていても、考えることは今日のことだ。

 死体が見つかったらどうしよう、隠蔽がバレたらどうしよう。

 常に逮捕されると言う恐怖に支配され、怯える生活が始まる。


「死体が見つからないようにしよう」


 覚悟を決めた。


「隠ぺいってことは、まずこの死体をどうにかしないといけないのか」


「落ち着け。……俺はまだ……死んでないぞ……」


「もう時期死ぬだろ。俺から見たら死体も同然だ」


 腕を組んで考える。

 解体以外の方法が思いつかない。

 解体……解体聖母……解体するよっ。

 ジャックママのセリフだな。

 今年こそ年末ガチャで絶対に当てる。

 

「ピックアップの話はどうでもいい。今はこの件。でも解体かぁ……」


 我ながらかなりグロいことを考えていると言う自覚がある。

 解体なんて簡単に言うが、自分にはそれができる自信がない。

 そもそもこの家には、人間の体を小さくするレベルの包丁がない。

  

 結論。


「無理だ。どう考えても無理にきまっている」


 人の解体なんて、アニメだからできること。

 それを現実でやろうなんて無理に決まっている。

 あんなニンジンみたいに体が斬れる訳がない。


「解体がダメなら、プランBだな」


「話を聞け。俺はまだ死んでないぞ」


 解体なし。

 ありのままの状態で隠すことにしよう。

 


「焼却炉とか?」


 死体を燃やした場合、悪臭を通報されて逮捕されてしまう。

 海に死体を投げ入れた犯人も、数日後に死体が浮いてきて逮捕。

 庭に埋めた犯人も、山に埋めた犯人も、もしろん逮捕された。


「ありのままの状態で隠すことも簡単ではないのか」


 悪いことをすればいつかはバレて逮捕される。


「ん~~~~? んー……ん? んーーー……」


 その後、作戦B、作戦C、作戦Dカップを考えたが、最終的な答えは逮捕。

 素人である俺が完全犯罪を成功させる方法なんてない。


「無理だぁあああああ! 何も思いつかない。どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう」


 さすがの俺もガチで焦り始めた。

 自分の置かれている状況をさらに理解する。

 シュタゲに出てきた阿万音鈴羽の気持ちが分かった。

 失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した……。

 頭の中が一つの単語で埋め尽くされる。

 何も考えられなくなり、絶望が繰り返される。

 何かしないと、本当に精神的に病んでしまう。


 手遅れになる前に、心の救済を求めた。


「可愛い二次嫁で現実逃避だ」


 錯乱したときこそ、二次嫁を見て落ち着こう。


 サッ、と天井のマルチクロスへと視線を向けると――


「……赤い……」


 スッ、と壁のアニメポスターへと視線を向けると――


「……赤い……」


 セッ、と大好きなラノベ全10巻は――


「……赤い……」


 ソッ、とベッドへと視線を向けると――


「赤い。全部赤い。癒しは死んだんだ」


 抜け道のないトンネル。


「おとなしく逮捕されるしかないのか……」


 イヤだ。ガチでイヤだ。

 アニメの見れない更生施設なんてイヤだ。

 異世界に行きたい。ワクワクしたい。


「ぐすんっ……泣けてくるぜ……」


「泣くにはまだ早い。その涙は、ハッピーエンドまで取っておけ」


 先ほどから彼の声が普通に聞こえる。


「そいえばお前、まだ生きてたの?」


「そもそも死んでない。勝手に人を殺すな」


「でも体が爆発したんだろ? 血も飛び散ってるし、死んでもおかしくないレベル」


「ああ、自分でも信じられない……。俺が荻野おぎの風林ふうりん師匠の一番弟子でなかった死んでいたかもしれないな。修行は厳しかったが、そのおかげで生き延びることができた」


「荻野風林?」


「俺の師匠の名前だ。俺に風見流を教え、究極の肉体になるまで鍛え続けてくれたご老体。彼の稽古は過酷を極めた。おかげで俺の肉体は、波動爆発にも耐えられるほど強固な物となった」


「すごー。でもいくら究極の肉体でも、血は出るんだな」


「当たり前だ。ボディビルダーだって弾丸で撃たれれば血は出る。それと同じ」


「で、どうやって垂れ流されている全身の血を止めるんだ?」


「左腕の出血を止めた時と同じ。風見流・風鎖を使う。そらがダメなら風結びだ」


 違いが分からないが、分かったところで彼の怪我が良くなる訳ではない。

 今はとにかく、彼が回復することが信じて見守ることにした。


「よしっ」


 彼は全身に薄い風を纏い――


「ハッ!!」


 風で傷口から流れ出す血を止めた。


「おお」


 初めてこの技を見たが、やはり武術の域を超えている。

 俺でも習えばできると言うが、到底無理な気がした。


「スゲー」


「血は止まったが……クソッ……苦しいじゃねーの……。マジで痛かった……今のは本当に死ぬかと思った……人生で一番痛かったかもしれない……牙突……マジでアイツだけは許さない」


 大技を耐え抜いたからといって、すべてが終わった訳ではない。

 彼の体内、つまり臓器へのダメージは回復していないのである。


「安心しろ。俺は死なない」


「それは分かってる。べつに疑ってはいない」


「本当か? さっきは相当取り乱していたように見えたが」


「もう大丈夫だ。お前が未来から来ている時点で、ここで死なないことは分かっている」


「……あ、ゴメン、やっぱ俺死ぬかも……」


「せっかく信じたのに秒で裏切られた!? 死なない運命はどこへ行った!?」


「冗談だ。ゲホッ」


 彼は吐血し、制服の袖で血を吹いた。


「……いや、半分冗談だ。50対50で俺が死ぬ」


「意外と高確率!?」


「うん。でも死なないよう努力する」


「頼むよ。お前に死なれたら困るんだから」


「……ああ……気をつける」


 彼は仰向けになり、大の字のように体を広げる。

 もっとも、左腕がないので大の字ではないが……。

 楽な状態となった彼は、天井を見ながら深呼吸を行う。

 今の彼からは先ほどまでの苦しそうな雰囲気が感じられなかった。

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