日常編 第31話 辻褄の合う考察
もう一人の俺から『異世界へ行け』と言われた。
非日常を諦めていた状態だったので、そんなことを言われて喜んだ。
この世界も捨てたものではない。まだまだ未知が転がっているんだ。
だが、喜んでばかりはいられない。
確かコイツは、何も知らずに行けば無様に命を落とすとも言った。
「それで注意事項ってなんだ? 異世界に行くにあたって何を気をつければいい?」
「……」
あれ?
返事がない。
「まさか……今度こそ死んだ!?」
「……」
「ちょっと待てよ!? 今、良いところだろ!! 死ぬな!」
「安心しろ。生きてる」
「あ、よかった」
生きているようだ。
「……」
だが、何かが変だ。
急に黙り込み、顔も俯かせたままだ。
「大丈夫か?」
「すまない日々喜、波動の時限爆弾の制止に苦戦している。今すぐ異世界転移について教えたい。だがものすごく苦しい。だからもう少しだけ待ってくれないか?」
「もう少し?」
その少しで、全てが失敗に終わるかもしれない。
注意事項を聞いて異世界にいけなければ、その先は最悪の未来。
とはいえ、明るい未来の主導権は目の前に居る彼が握っていた。
ここで俺が『いや、待たない』と答えたところで意味がない。
そもそも彼が話せる状態ではないのだから、待つしかない。
「少しだけ待つ。だから約束してくれ。死ぬな」
「……」
彼は無言になり、呼吸と風に全神経を集中させていた。
「何もせずに待つのもアレだから、窓でも開けて換気するか」
部屋が血なまぐさい。
鉄分のような臭いが充満していた。
窓を開ければ臭いが外へと漏れる。
その恐れがあるから開けないでいた。
「だがもう限界だ」
どうせ玄関は血だらけ、バレるときはバレる。
「さて」
さっそく出入口付近から窓側へと向かう。
↓ スタ ↓ スタ ↓ スタ ↓
窓から外を覗き、敵がいないことを確認する。
「誰もいないな」
窓をスライドさせて開けた瞬間、生ぬるい風が流れ込んでくる。
「ああ、空気が美味しい。いつも吸っている空気が今日はとてもおいしく感じる!」
死を覚悟した後で、まだ生きていて、いつも通り息が吸える。
命って素晴らしい。生きていてよかった~。人生さいこー。
「この素晴らしい世界に祝福を!」
この世界だけではない。俺がこれから向かう世界にも祝福を。
「どんな世界なんだろ。わくわくするな-」
その瞬間が楽しみで仕方がない。
チートステータスとか授かって無双とかするのかな!?
くふふふ。ふふふふふ。楽しみだ。早く転生したい。
などど考えながら、窓の方へと背中を向ける。
柱に寄りかかり、腕を組みながら部屋の中心で座る男を見た。
「転移の話が楽しみ過ぎて忘れていたが、コイツはそもそも何者だ?」
桜咲日々喜ではあるが、未来から来た俺ではない。
「でもタイムトラベラーではある……あっ」
そこで俺は気づいた。
「まさかコイツ。異世界から来た俺で、未来から来たんだ」
つまり異世界にも桜咲日々喜と呼ばれる人間がいる。
異世界の日々喜は何らかの方法でこの世界に来た。
この世界に来た日々喜は、時間遡行をしている。
「全てが繋がった」
それなら同じ見た目なのに、俺ではないと言う発言にも説明が付く。
つまり俺がこれから向かう異世界と呼ばれる場所は、かつてこの男が住んでいた世界なのか?
「仮にその説が正解だとして、この世界に残った桜咲日々喜はどうなる?」
俺は異世界に行くのだから、殺される心配はない。
だが彼はどうだ? コイツはここに残るのだろ?
話からして、共に転移する訳ではなさそうに思える。
「残された彼は死ぬのか? それとも助かるのか?」
彼には『死なない』という確信があった。
その迷いのない自信はどこから来るのか?
「あ、未来からだ」
彼が未来から来たと言うことは、つまりそう言うことだ。
ここでは死なず、未来で過去へのタイムトラベルを成功させる。
「でもそれは正規ルートの場合だよな」
彼曰く、この世界線は何かがおかしいと言う。
気流牙突に襲われて左腕を落とした点も初展開。
第二波動をくらい苦しみに悶えたのも初展開。
何もかもが、想像できない方へと向かっている。
今こうしている間も、約束の時間を過ぎていた。
お話の時間が延びれば延びるほど運命は変わってしまう。
「俺たちが今いるこの世界は、軌道修正可能性なのか?」
とてつもない過ちを繰り返しているような恐怖感に襲われる。
「コイツの死期も、今までとは違う。他の世界の運命よりも早まっている可能性がある」
彼は『少し待ってくれ』と言った。
この時点で、バッドエンド確定演出だったかもしれない。
俺が取るべき選択は、無理してでも話を聞くだったかもしれない。
さっさと異世界に言っていてばハッピーエンドだったかもしれない。
ただ今言えることは一つ。
「死ぬなよ」
さっさと目を覚まして、成功にもっとも近い運命をたどってくれ。
俺は無神教だが、今回ばかりは都合良く神に祈ることにした。
ああ、神よ。どうかもう一人の俺を、話せる状態に戻してくれ。




