日常編 第30話 お話の時間・異世界
気流牙突の技である時限式波動爆弾が発動し始めた。
それを取り付けられたもう一人の日々喜は苦しみを覚える。
このまま爆弾が解除できなければ、彼の体は爆発する。
「本当に大丈夫なのか!? 大事な話の前に死ぬなよ!?」
「大丈夫だ。だから俺を信じろ」
彼は瞳を閉じ、スゥーと大きく息を吸い込んだ。
「風見流! 風結び!」
そう呟くと――
シーン。
大きな音を立てていた彼の鼓動が正常さを取り戻す。
「音が、落ち着いた?」
「あ、ああ」
どうやら止めることができたようだ。
あまりのあっけなさに、肩透かしを食らう。
もっと苦戦する物だと思っていた。
「そんなに簡単に止められる? 焦る必要なかった?」
「安心するにはまだ早い。コレは応急処置にしか過ぎない。1秒後か、15分後か、30分後か……いずれ爆発すると思われる」
「アニメで言うところの尺稼ぎか」
「言い方が気に入らない。どちらかと言うと問題の先延ばしと言ってほしい」
先延ばしも尺稼ぎとあんま変わらないだろ。
「ますます無駄話をしている時間はなさそうだな」
「ああ。でも爆発しない可能性もある。このまま不発に終わってくれると嬉しいんだがな」
「それはそう」
とても前向きな考えだ。
しかし、世の中には必ず良い未来と悪い未来がある。
「最悪の未来を想定した体で話してもらえると助かる」
「理解した。必要なことだけ教えろと言うことだな」
「ああ」
対峙していると、男は顔を俯かせる。
クッと口をかみしめ、残った方の右手で自分の胸部を押さえる。
「どうした?」
「ちょっと待ってくれ。ダメかもしれない。想像よりダメージが大きい。今の風見流・風結びで体力をゴッソリ持っていかれた。木枯らしや風鉄砲もやるべきではなかった」
バカじゃん。
じゃあなんでやった、と心の中でツッコミを入れた。
「俺の正体は……目的は……えっと……ココへ来た理由は……」
男は意識が朦朧とし出したのか、呂律が回らなくなっていた。
喋りたいのに、思うように伝えられないと言う状態だと思う。
それでも頭を押さえ、必死に話をまとめようと努力している。
「芋づる方式にするか?」
「無理だ。質問形式にしたところで何も変わらない」
彼はハァハァと乱れが呼吸を必死に整えようとしていた。
「ゆっくり話したいが、間に合わないかもしれない。だからまずは要点だけを掻い摘まんで真実と今後の展開について話す。もし俺が数分後も生きていたら、じっくり教えてやろう」
「お、おう」
「まず、俺はある目的のために未来から来た。その目的を達成するためには、この時代を生きるお前の力が必要なんだ。だから俺はこの時、この瞬間、この時代のお前に会いに来た」
「ある目的って何?」
「残酷な運命を変えるためだ」
それはそうか。
未来から過去に戻ってくる理由なんてそれしかない。
過去の過ちを正したり、失敗を無かったことにしたり。
「でも俺の力が必要ってどういう意味だよ? 俺はどこにでもいるただの一般高校生だぞ。尾獣も宿してないし、悪魔に実も食べてない。そんな俺に何ができる?」
「今のお前じゃ無理だ。だからこそ無理じゃない人間になってもらう」
「俺に風見流を教えてくれるのか!?」
「違う。武術を身につけた所で一般人より少し強くなれるレベル。必要なのは強靱な肉体と屈強な精神。お前にはこれから人間を超えてもらう」
「……?」
意味深な発言に一瞬だけ硬直した。
「え、人間を超える……? 怪物になれってことか? モンスターポイントか?」
「そういう訳ではない。普通の人間の肉体のまま、身体的能力を鍛えてもらう」
「俺を軍にでも入隊させるつもりか? スパルタ教育的な?」
「いや、お前が行くのは軍ではない」
彼は顔を上げ、かすんで目で俺を見る。
「異世界だ」
「……い、せかい?」
彼のお話を聞いた。
顎に手を当てた。
話を整理する。
日々喜、異世界へ行け。
「ふむふむ」
異世界へ行って人間を超える身体的能力を身につけろ、とな?
「なるほど、なるほど」
異世界……。
異なる世界。
異質の場所。
「それって……異世界転生じゃん!?」
テンション爆上がりボンバー。
「転生ではない」
「この際、転生だろうが、転移だろうが、転界だろうが、どうでもいい。お前は今から異世界に行くんだろ? それって、俺がなんだかんだ憧れている非現実的なイベントじゃん!」
「テンション高いな。頭に響くから声を荒げるな。もう少しトーンを下げてくれ」
「そりゃ高くもなるだろ! 帰宅したら部屋が血だらけで、自室はパッと見、殺人現場。踏んだり蹴ったりで絶望しかない人生。このまま何も起きずに終わるのかな……と思った途端、そこへ来ての異世界転生の話。コレはもうワクワクが止まらない!」
「だから転生ではない。転移だ」
「最高じゃん! はやく異世界に行きたい!!」
しかも異世界に行けば、俺が気流牙突に狙われる可能性はなくなる。
「まぁ、落ち着け。何も知らずに行っても、無残に殺されるだけだ」
「え、異世界って死ぬの……?」
勝手に異世界は俺ツエー無敵ご都合主義世界だと思っていた。
「何も知らなければな。だが怯える必要はない。誰だって死ぬときは死ぬ。それに、どんなに世界一安全な街と言われた場所でも、そこにテロリストがいれば人は死ぬ」
「確かに」
「注意事項を聞けば、死ぬ確率が減る」
「はい」
血だらけの男=非現実。
銀色の拳銃=非現実。
波動を使う気流牙突=非現実。
これらは全て、俺から見た非現実。
しかし全てが現実であったのだ。
つまり今の話も現実なんだ。
「異世界」
この男が口にした『もう一つの世界に送る』と言う言葉も現実だ。
この男は俺を知っていた。この家が桜咲家だと知って入ってきた。
「この男の言葉には、何一つ嘘がない」
「まだ見ぬ世界に心が躍るだろ?」
「躍る!」
俺は目を輝かせ、彼の方へと尊敬のまなざしを向ける。
理想の未来を運んできた彼はまるで天使のように見えた。
これから俺が向かう世界は、どんな場所なのだろうか?




