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日常編 第29話 風見流・指鉄砲

 色々と考えた。今後の人生とか、今後の展開とか。

 その結果、俺の人生にはあまり光がないことに気づく。

 このままだらだらと生きていても変化は少ないだろう。


「なら、いっそのこと飛び込むのもありだ。あと1分くらい。いいよ。付き合う」


「そうか」


 幸せな未来が約束されているなら、俺はその道を進む。

 多分辛いことも沢山あるだろうけど、きっとこの選択を後悔することはない。


「……」


「……」


 時を待っていると、そばで座っていた男の体がビクッと反応する。


「どうした? ジャーキングか?」


「動くな」


「――!?」


 真剣な口調。

 一気に場の空気が張り詰める。


「ど、どうしたんだよ?」


「敵が来た」


「敵!?」

 

 その言葉に目を見開く。

 俺も警戒はしていたが、まったく気づかなかった。


「敵はどこに居るんだ!? 外か? 廊下か?」


「部屋の中だ」


「まさかの返答!? すでに部屋の中に!?」


「風見流・指鉄砲」


 彼がデコピンを行うと、その指先から空砲のような何かが飛んだ。

 その弾は床めがけて放たれ――敵へと直撃する。


「それが敵……なのか?」


 床に居たのは、一匹のゴキブリだった。

 彼が放った空気の何かが当たり、ゴキを一撃で退治する。

 おそらく、長らく閉ざされていた隣の部屋を開けたことにより、ゴキブリの封印が解かれたのだろう。ゴキブリの巣窟に花鶏ちゃんを置いてきたのか……あとで消毒しないと……。


「それはそうと、今のは何?」


「ただの風だ」


「風……? 風を飛ばしたのか?」


「ああ」


 さも当然のように言っているが、今のは普通ではない。

 今まで生きてきた中で風を飛ばすヤツは見たことがない。

 俺が部屋から出ようとした際も、風で転倒させられた。

 コイツは間違いない。風を使う超能力者だな。


「それも風見流なのか?」


「ああ」


「風見流って風を操る能力なのか?」


「違う。ただの武術だ」


「ただの……武術?」


「ああ」


「ただの武術で、風を飛ばしたりできるのか?」


「ああ」


 にわかに信じがたい。

 だが彼が『そう』と言うのであればそうなのだろう。

 この話は、またあとでゆっくり聞くことにしよう。


「でもすごいな。なんでゴキブリの正確な位置が分かったんだ? お前、目が見えてないんだろ」


「動きを把握するのに目なんて必要ない。風が全てを俺に教えてくれる」


「風の動き? それも風見流か?」


「そうだ。ゴキブリの鼓動が、呼吸が、波動が、風を伝い、俺に全てを知らせる」


「ゴキブリが動いたときに発生する風の動きで位置が分かったってこと?」


「ご明察。体が痛くて頭は上げられない。視界は真っ暗だ。だからこそ、全神経が空間の方へと向けられている。そのおかげで、微かな空気の揺れも感知できる」


「風見流ヤバすぎ」


「そうだろ。自慢の武術だ」


 風見流、なんて優秀な流派なんだ。

 俺も時間ができたら教えてもらおうかな。


「あ、2匹目のゴキブリが入ってきた」


「任せろ」


 虫ころが入ってきたが、すぐにUターンして逃げようとする。


「逃げそうだぞ」


「逃げようとしても無駄だ。振動で位置が分かる」


「あ、ゴキブリが飛んだ!? 飛んだ場合はどうなる!?」


「どうもならない。空中の震動で敵の位置が分かる。風見流・指鉄砲」


 パシュンッと飛ばされた風がゴキへと直撃して打ち落とす。


「すげー、風見流スゲー」


 心から感動していると、もう一人の桜咲日々喜は微笑んだ。


「懐かしいな」


「なにが?」


「この空気感。少し思い出した。最初に会った頃のお前は、確かこんな男だったな。生きることに貪欲で、目的のためなら死んでも死にきれない男。その一方的で破滅願望的な物も持ち合わせ、追い詰められることによって秘められた力が覚醒すると信じて疑わない」


 破滅願望か。確かにその四字熟語が正しいかもしれない。

 自分的に破滅する気は無いが、端から見ればその通りだ。


「人見知りで警戒心が強いくせに、すぐに人を信じてしまう」


 彼の言い方は、まるで以前から俺を知っているようだった。

 だがここだけの話、俺は本当に彼とは初対面である。

 しかも彼は未来から来た俺ではないので他人だ。


「銃を構えていた俺を前にしても、お前は俺を攻撃しなかった。優しさだな」


 断じて優しさではない。

 攻撃なんかしたら撃たれてしまう。

 誰だって大人しく降伏するだろ。


「相手が悪党ではないと見抜いた。その目は本物だ。お前は優しい。誰かのために戦うことができる人間はそうそういない。今回の世界でも、俺を信じてくれてありがとう」


「な、なんだよ急に、褒めても何も出ないぞ」


「お前とは長らく数々の試練を乗り越えてきた来た。だからこそ、今のお前が初期ステータスだと言う現実を受け入れられなかった。それはとてもショックで、とても残念なことだ」


 人をゲーム開始時のレベル1の主人公みたいに言うな。

 そもそも初期の俺ってなんだよ。

 試練を越えたってどういう意味だ?


「お前はいったい何者なんだ? なんで俺を知ったような口調で話す?」


「お前を知っているからだ。何日も、何ヶ月も、何年も前から」


 何度考えても、こんな男を俺は知らない。

 だが、この物言い。間違いなくタイムトラベラーだ。

 さっき俺は『未来から来た俺か?』と彼に質問をした。

 もちろん答えは『ノー』だったが、それは俺か否かの問題。


 つまり――


「お前は未来から来た人間なのか」


 彼は顔を上げ、フッと笑みを浮かべた。


「その質問に対する答えは、イエス、だ」


 やっぱり、そうなのか。

 コイツは俺だ。でも未来から来た俺ではない。

 しかし未来から来た人であると言うことは確定。


「さて、そろそろ時間だな。お前に俺の全てを話そう」


 彼は覚悟を決め、全ての真相を話すことを約束した。

 これから俺はいったいどんな真実を耳にするのか?

 拳に力が入り、まだ聞かぬ話に鼓動が速くなっていく。


「どきどき」


 ついに時間となった。

 男はスーと大きく息を吸い、はぁーと吐き出した。

 真相についてのお話が、今、始まる。

 俺の顔がこわばり、彼の方へと体を向ける。


「まず、風見流の素晴らしさについて話そう!」


「いやいや、それよりも先に話すことが沢山あるだろ!」


 武術自慢なんて今はどうでも良い。

 ボディビルダーがジム自慢するようなモノだ。

 それに風見流については、先ほど聞いた。

 デコピンで空気を飛ばすなんて指鉄砲。

 俺を転倒させた木枯らしと言う風の技。

 他にも型があるのだろうが、今は知りたくない。


「そうか……。話したかったのに……」


「そんな余裕はないだろ」


 実際、タイムリミットは5分くらいしかない。


「それで、何を知りたい?」


「え、質問形式なの? すらすらと世界の全てを教えてくれるのかと思った」


「す、すまんな。本当はそうしたい。でも頭が回らない……」


 彼の顔が青ざめていき、姿勢も徐々にぐったりし始めた。

 余裕そうに見えるが、やはり体へのダメージが彼を苦しめる。


「うまく内容が整理できないんだ。だから質問をされ、芋づる形式で記憶を引き出すことにした。だから質問してくれ。なんでも答える」


「いきなり言われてもな。何を聞けばいいのやら……。あ、好きなアニメキャラはいる?」


 今はどうでもいいだろ。

 もう一人の日々喜の推しキャラを知ってどうする!?


「アイマスの双海真美かな」


「同士よ。よく分かってらっしゃる」


 やはりコイツは俺で間違いない。

 でも俺であって、俺ではない。


「次は……どんな質問をすれば……」


 顎に手を当てて考えていると、ぐったりしていた彼の姿勢が元に戻る。


「やっぱり大丈夫かもしれない。双海真美のことを考えていたら元気が出てきた」


 さすがアイドルマスター。

 癒やしの効果半端ない。


「で、話す内容が整理できたのか?」


「若干な。また意識が朦朧もうろうとしたらダメかもしれないが、ソレまでは大丈夫だと思う。だから今のうちに、真実について話そう」


 さらっと言ったが、彼はときどき意識が『朦朧』とするらしい。

 それってかなりヤバい状況なのでは? と思ってしまった。


「まずお前が気になっている俺の正体についてだ。答えよう。俺は」


 ドキドキしながら待っていると――


「……うっ……!!」

 

 彼が急に顔をしかめ、自分の心臓のあたりを押さえた。

 

「ど、どうした!? 苦しいのか!?」


「く、苦しい……。なんだ……この痛みは……なんで今更痛みが!?」


 先ほどまで平然としていたもう一人の俺がいきなり痛みを訴え始める。


「何、何が起きてんだ?」


「まさか……あのときの……クソ……痛い……あれのせいか」


「心当たりでもあるのか? 刺身にアニサキスでも入っていたのか?」


「違う。犯人はあの野郎だ」


 あの野郎。おそらく気流牙突のことだろう。


「アイツから逃げようと決断したとき、ヤツは俺の体に変な波動を流し込んだ。そのときに言っていた言葉が『逃げ切ったところでお前はもう助からない。なぜならお前の体に波動の時限爆弾を仕込んだ。その名も第二波動だ。せいぜいあがくがいい』だった気がする。あのときはノーダメだったのでハッタリかと思ったが、あの時限爆弾発言は本当だったのか」


「じじじじじじ時限爆弾!? なんでもっと早くソレを言わない!?」


「ただの脅し文句だと思っていた……。現に先ほどまで、俺の体には異常は起きなかった。だが、コレは……マジの爆弾なのか? 急に痛みが俺を襲い始めやがった」


「こっちが聞きたい! 本当に……爆弾、なのか?」


 彼の鼓動が、まるで時限爆弾の秒針のような音を立てる。

 ドッ、ドッ、ドッ、ドッとここからでも聞こえてきた。

 異常だ。異常で異質で異様な事態が展開される。


「ヤバいんじゃないか!? 俺、イヤだぞ、爆死だけはイヤだからな!」


「安心しろ。気流牙突は波動の時限爆弾と言っていた。波動とは波の動き、波とは風、風見流を駆使すれば時限爆弾の爆破時間をズラせるかもしれない。風の流れを感じれば……」


 口では簡単そうに言う。だがソレはかなり至難の業なのでは?

 波動の爆弾。つまり爆弾処理班的なことをやるのだろうか?

 名探偵コナンでも見たことがあるが、非常に難しい行為だ。

 相手の爆弾の特徴を理解し、誤爆しないように解除していく。

 彼を助けたいという気持ちはある。でも今は信じることしかできない。

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