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日常編 第25話 瓜二つが故に

 俺と同じ容姿、同じ声、同じ雰囲気を持つこの男。

 他人の空似とかそんなレベルではない。

 彼の正体は正真正銘の俺と同じ桜咲日々喜であった。

 そして彼の目的は俺と『お話』をすることである。

 しかし訳ありなのか、頑なに15分後を意識している。


「時間が来るまで、何が何でも時間を稼ぐ。なのでお前を部屋から出す訳にはいかない。同時に、誰もこの部屋に入れる訳にはいかない。俺を助けに来た救急隊員だろうが、助けに来た警察官だろうが例外なくいれない。もちろん気流牙突など死んでも部屋に入れない」


「へぇー」


 誤解とは言え、彼は俺のことを気流牙突だと思っていた。

 そして俺は易々と普通にドアを開けて部屋に入った。

 誰も入れないと言うが、既に誰か入れているんだよな……。

 本人は気づいていないようなので、言わないことにした。


「俺は常に正しい選択をする。それに背く者には容赦しない」


「ふーん」


「それでもこの部屋を出て、救急車を呼ぶと言うなら」


 背後にいる男が何か言い始めた。


「俺はこの銃で」


 銃で?


「部屋に入ってきた救急隊員を全員――」


「全員?」


「ぶっ殺す」


「……」


 ぶっ殺すと言ったのか?


「出血と怪我で思考までぶっ壊れたか? 成功に近い運命だか、選択だか知らないけど、死んでしまったら意味がない。お前は目的は俺とお話をすることなんだろ? 死人に口なし。死んだら俺と話せないだろ。まずは自分の状態を理解してから発言した方がいいぞ」


「俺は死なない」


「そのソースはお前自身だろ。その時点で信憑性に欠ける」


「誰であろうとこの部屋には入れない」


「かたくなだなー」


 どうして彼はここまで徹底的に第三者を入れたがらないのか?

 自分の命が危険にもかかわらず、救急車を呼んでほしくない理由。


「うーん」


 ドッペルゲンガーの現状を整理し、その理由を探し出す。

 この男は血だらけの状態で俺の部屋にいた。

 だけど救急隊員を呼んではいけないと言う。

 この二つの情報から導き出される答え。

 

「危機。リスク。怪我。敵。隠れる。疑い……。……なるほど」


 案外簡単に答えへとたどり着く。

 推理小説も守備範囲内で助かった。

 因みに忘却探偵シリーズの掟上今日子の備忘録はオススメだ。

 生徒会探偵キリカSと霧ノ宮先輩は謎が解けないも好き。


「ラノベの話は今はどうでもいい」


 オタクの部分が出てしまった。

 さて、この事件、名探偵日々喜が秘密を明かそう。


 コイツは気流牙突に命を狙われている。

 それが救急車を呼ばれたくない問題とどう繋がる?

 おそらく彼は盗聴を恐れているからだろう。

 もし俺が電話して、気流牙突が盗聴していたら?

 彼はこの家を特定し、この男を殺しに来る。

 この男は、それを恐れているのだと思う。

 この推理。信じるか信じないかはアナタしだい。


「なるほど、お前は盗聴を恐れているんだな」


 名推理に対し、彼は答えた。


「それだけではない。それに付随する数々の問題を恐れている。救急車を呼ぶとき、お前は自分の住所を言うだろ? しかも救急車を呼ぶと言うことは、怪我人が家にいると言うことだ。加えて、お前は電話で俺の特徴について話す。全身が傷だらけで、左腕が切り落とされた男。このタイミングでそんな情報を口にしたら、一発で怪我人の正体が俺だと気流牙突にバレる」


「たしかに」


「仮に気流牙突が盗聴していない場合でも安心はできない。彼が平和維持機関の本部に俺の情報を流している可能性も考えられる。平和維持機関は今や巨大な宗教団体。どこに構成員が隠れているか分からない。もちろん病院にも、警察にも平和維持機関の連中はいるだろう」


「誰も信じられないと言うことか」


 結論、この部屋からお前が出て行け。

 死ぬならよそで死ね。

 一応彼に逃げる気があるか聞いてみる。


「ちなみにお前はこの部屋から出る気あるか?」


「ない。15分後のお話のあとでならいくらでも出るがな」


 うん、よそで死んでくれる可能性はゼロ。

 15分待てば出ていくらしいが、彼の命がもつのか?

 無理だろ。もって今から5分がいいところ。

 このまま救急車を呼ばない訳にはいかない。


「コイツを追い出したい。救急車も呼びたい。でも気流牙突には来てほしくない」


「気流牙突だと!?」


 すると男の体がビク!? と反応した。

 彼は力を振り絞り、少しだけ首を傾げた。


「どうしてそれを知っている? ……まさかお前、記憶が戻ったのか?」


「記憶?」


 記憶が戻る。つまり記憶が失われた状態を意味する。

 十数年間の記憶を遡ったみたが、欠如している記憶はない。

 小学校の記憶も中学校の頃の記憶も高校の記憶も全部ある。

 どこかに頭をぶつけて記憶喪失になった経験も一度もない。


「そんな訳ないか。ドラゴンブレスの余波である光の羽が頭に直撃した経験もない」


 よって俺の記憶には喪失した部分はない。

 記憶が戻ったのか? という質問は戯れ言だ。

 そもそもなんで今更、気流牙突と言う名前に反応する?

 さっきから二人で何度もその名前を言っていただろ。

 記憶を喪失してんのは俺じゃなくてお前だろ。


「その反応。戸惑い。息遣い。態度。記憶が戻った訳ではないのか」


 なぜかすごく残念そうな反応をされる。

 さっきも思ったが、コイツの反応はなんなんだ?


「その顔、『俺を知ってるか?』と聞いてきたときもしてたな」


「そうだったか? そういえば、そんな質問もしたかもな」


「俺とお前は初対面のはず。なのにお前は俺を知っているような話し方をする」


「初対面……まぁ、そうだよな。初対面だもんな」


 まただ。また彼は悲しそうな顔をする。


「部屋に入ってきたときの反応で、記憶がないことは薄々気づいていた。少し先の未来で見たあの光景は、嘘ではなかったのか……。今度こそハッピーエンドを期待したんだが……どうたら運命がリセットされてしまったようだ。悲しいな。だがコレも現実か……」


 記憶がない?

 薄々気付いていた?

 少し先の未来で見た光景?

 今度こそハッピーエンド?


 ここに来て意味不明さに拍車がかかった。

 彼は謎だが、彼の発言が更に謎を与える。


「ここからまた長い戦いが始まる。あと何回繰り返せば成功にたどり着けるのか」


「長い戦いってどういう意味だよ? 繰り返す? 何を繰り返すんだ?」


「話は15分後。時が来れば全てを話す」


 もったいぶる彼の発言にいらだちすら覚え始めた。

 何が15分後だよ。そうやって何も話さない作戦だろ。

 言うなら言え、言わないなら言わないでくれ。

 ぼそぼそと情報を小出しにされると余計に気になる。


「時が来たらじゃなくて、今すぐに話せよ。成功率とかなんの話をしているか分からない。だからこそ知りたい。何も知らないまま『部屋で待て』とか都合が良すぎるだろ」


「……」


「お前がただのドッペルゲンガーではないことは分かる。なにか得体の知れない物と戦い、得体の知れないことをしていることは分かる。でも全貌は何も分からない。お前は何者で、何が目的で、なんで俺の部屋に居るんだよ。そしてなんで気流牙突に狙われる」


「15分後。二度は言わない」


「二度どころか、三度も四度も同じ台詞を聞いたんだが……」


 15分後か……。待ち続けるなんてできない。

 

「少しでいいから教えてくれ。例え15分後の話が大事だとしても、15分経つ前に言えることくらいあるだろ。全部とは言わない。ヒント的なことくらい教えてくれよ」


「……」


「クソッ、またお得意の死にマネか? どうせまた息を吹き返すんだろ? アホくさ」


 付き合いきれず、部屋を出ようとする。


「待て」


「待ちません」


 今度こそ。

 今度こそ本気で彼の言葉を無視する。


「桜咲日々喜。何か勘違いしていないか?」


 無視無視。


「お前も気流牙突に狙われているんだぞ」


「……え?」


 無視できない発言が飛び出す。

 爆弾発言とはこのことを言うのか。

 すぐに踵を返し、彼の元へと駆け寄る。


「待て待て待て、え、待てよ。なんで俺がヤツに狙われる?」


「考えてみろ、気流牙突は桜咲日々喜を狙っている。そしてお前も俺と同じ桜咲日々喜だ」


「あっ」


 間違いない。確かに俺は桜咲日々喜だ。

 だけどドッペルゲンガーの方とは違う。


「アイツが狙っているはお前であって俺ではない」


「果たして相手がソレを信じてくれると思うか?」


 分からない。

 話を聞く限り気流牙突は相当の手練れだ。

 そして戦闘力も高く恐ろしい男と言える。

 そんな男を前に命乞いして助かるのか?

 

「ダメだ、コイツと瓜二つである時点で詰んでる」


 別人なんて言葉を信じてくれる訳がない。


「……無理だ。殺される未来しか見えない……」


「だろ、だからおとなしく時間まで待て。それでも部屋から出ようなんて思うのであれば……」


「ど、どうするんだよ?」


「容赦なくお前をフィギュアを殺すからな」


 聞き捨てならない言葉。


「フィギュアを……殺す?」


 俺の部屋はいわゆるオタク部屋だ。至る所にアニメグッズがある。


「タペストリーも殺す。等身大パネルも殺す。ぬいぐるみも殺す」


「お前、自分が素晴らしきサイコパスだってことに気づいてる?」


 大事な二次嫁を人質に取られた俺は追い詰められた。


「卑怯者め。大事な二次嫁を人質に取るなんて最低だぞ!!」


 飛び交う銃弾。弾け飛ぶ血。傷ついていく二次嫁たち。

 大切な嫁たちが傷つく姿なんて俺は見たくない。

 これは脅しではない。この男は本気でやりかねない。

 

「難題だらけのジャストザウェイユーアー。お前の目的は本当になんなんだよ……」


「最初から言ってるだろ、15分、いや、14分後のお話だ」


 一分経過したが、まだ14分もある。

 もしかして俺の部屋で死ぬことが目的なのでは?

 なんかコイツ、ただのドッペルゲンガーではなさそうだ。


「一つだけ聞きたい」


「なんだ?」


「お前の目的は、俺を殺すことか?」


「それは違う」


「そうか」


 だからと言ってなんの解決にもなっていない。


「……」


 今まで問題や苦労から逃げて来た俺の前に、初めて訪れた大試練。

 クリア報酬はなんだろうか? ジュエルか? 魔法石か? クリスタルか?

 突破する方法が見えてこない、それでも諦めずに思考をフル回転させた。

 きっと何かるはずだ。皆が生きて、皆がハッピーになれる方法が!

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