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日常編 第24話 死にかけのドッペルゲンガー

 彼への誤解が解けた。

 ヤツは俺が気流牙突でも泥棒でもないと理解する。

 コレにて一件落着。……と行きたいのだが……。

 一難去ってまた一難と言ったところだ。

 残念ながらドッペルゲンガーに俺の正体がバレた。

 現時点で考えられる最悪の結末と言ってもいい。


「お前は桜咲日々喜で間違いないな」


「違うと言ったら信じてくれる?」


「無理だな」


「……ですよね……」


「あらゆる観点から考えた結果、お前は間違いなく桜咲日々喜だ。今となって考えてみれば、部屋に入って来たときの動きも、プロの格闘家ではなく、ただの素人だった」


 ドッペルゲンガーと呼ばれる超常現象の主な目的は、同じ見た目をした人間を殺して、ソイツに成り代わることだ。つまり俺の前にいるコイツの目的は俺を殺すことである。

 現に俺は銃を突きつけられ、今すぐ殺されてもおかしくない状況化にいる。

 

「今回だけは、見逃してはくれないだろうか?」


「無理だ。俺はお前は逃がさない」


「トイレに行きたいな~」


「我慢しろ」


「救急車を呼びたいな」


「ダメだ」


「でも、はやく呼ばないとお前が助からない」


「俺の心配はするな。俺は死なないから大丈夫だ」


 会話が平行線。

 八方ふさがりである。

 この男、絶対に俺を逃がしたくないらしい。


「「……」」


 危機的状況ではあるが、コレは俺の作戦とも言える。

 名付けて『会話をしながら時間稼ぎ大作戦』だ。

 見たところコイツはドッペルゲンガーだが、肉体があるようにみえる。

 殴られれば痛いし、切られれば血も出る。血を失えば立ちくらみもする。

 幽霊や妖怪の類いかと思ったが、霊体とは少し違うようだ。

 そもそもドッペルゲンガーなんて初めて見たのでなんとも言えない。


「……うっ……」


 沈黙が流れる中、重い拳銃を持った男がバランスを崩す。

 彼は弱っていた。立っているのもやっとだったのだろう。

 目に見えて分かる彼の披露に、俺は不適な笑みを浮かべる。


「残念ながらお前の方がゲームオーバーみたいだな。ドッペルゲンガーさん」


「ドッペルゲンガー……?」


「ああ、俺と瓜二つの顔をした妖怪の類いだ」


「同じ顔……。まさか、俺の正体に気づいているのか……?」


「さっき顔を見たときに気づいた」


「さっき? あ、ああ、気絶している間に近づかれたときか。あのとき、俺の顔を見たのか」


「その通り。だから答えろ、お前も、桜咲日々喜なんだろ」


 この際、嘘はもういらない。

 俺は正直に自分の正体を伝えた。


「そうだ」


 彼はすぐに答えた。

 そして「なら話が早い」と言って床に座り込んだ。

 なぜ座るのか? なぜ余裕の表情なのか? なぜ?

 なぜなぜ考えていると、彼がわずかに顔を上げる。


「単刀直入に聞く。お前は俺を知っているか?」


「ハァ?」


 なぞの質問のせいで眉間にしわが寄る。

 

「なにを言っているんだ? 瓜二つの顔をしたヤツなんて俺は知らん」


「そうか」


 その返事に、彼は少し寂しそうな表情を浮かべる。

 続けて彼は「本当に初期なのか……?」と小声で言った。

 その言葉の意味が、今の俺には分からなかった。


「ならもう一つ聞いていいか?」


「な、なんだよ」


「嘘はいらない。正直に答えてほしい。お前はこれからどうする?」


「どうするって」


 正直に言っていいなら、正直に答えよう。


「まずはこの部屋から逃げる。そんで俺の部屋でお前に死なれたら困るので救急車を呼ぶ。その後は警察に行って助けを求める。数分後には警察とかも来るだろうから、お前に俺の無実を証明してもらう。そんでお前を不法侵入の罪で逮捕してもらう。おわり」


 コイツを助けたいから救急車を呼ぶのではない。

 男の地縛霊がイヤだから救急車を呼ぶのだ。


「そうか……やっぱり、あのときと同じ展開になってしまうのか」


「あのときと同じ展開? いやいや、こんな展開人生で初めてなんだが」


「そう、だな。それでいい。今はその認識で構わない」


 彼は切り傷の影響でゆがんだ顔でフッと笑う。

 その笑みからはどことなく悲しみが感じられた。

 希望を失ったような顔で彼は天井を見つめる。


「気流牙突の発頸をもろにくらって、体の内部はボロボロだ。出血も酷いし、視界も最悪、耳も遠いし、意識も朦朧。今の俺じゃ何もできない。情けないよな、【疾風はやて覇者はしゃ】と恐れられた俺が、ただの宗教の一員で人間のここまでボコボコに負けるなんて……。しかもなんだ? 桜咲日々喜とようやく再開できたのに、俺は死に損ない。逃がしそう」


 よく分からないが、彼の瞳から涙が零れていた。

 なんでこのタイミングで泣いているのか理解できない。


「なに、泣いてんだよ」


 ドッペルゲンガーの心配なんてしたくないが、つい言葉が出た。

 例え敵でも、目の前で泣いている人間をほうっておけるほど俺は小さくない。


「桜咲日々喜。信じてほしい。俺はお前の味方だ」


「味方? ……味方なのか?」


 確かに今の彼からは敵意をまったく感じない。

 でも信じろと言われても、彼は何度も俺に銃を向けてきた。

 そんな一度、いや、三度ほど俺を殺そうとした相手の言葉など……。


「誤解……なんだよな」


 そう、彼が俺に銃を向けてきた理由は、俺が気流牙突だと思ったからだ。

 それ以外でも、彼は一度だけ俺に銃を向けてきた。

 その理由は『部屋から出さないため』の脅しの道具として使った。

 どれも桜咲日々オレを殺すために向けてきた訳ではない。


「……」


「いきなりの出来事で頭がパニックになっているのも分かる。だが、全部現実なんだ。そして現実に『待った』はない。時間は有限である。こうしている間も刻一刻と時は過ぎていく。なので少しずつでいい。目の前で生きている出来事を、受け入れてくれ」


「受け入れてくれって言われても、何をどう受け入れろって言うんだよ」


「俺と言う存在。そしてこの惨状。全てには意味があり、全てが運命なんだ」


 意味ありげな言葉を並べて俺を丸め込もうとしているような気分になる。


「まずは俺を信じてくれ。俺は味方だ」


「それはさっきも聞いた」


「だから部屋から出ないでくれ。お願いだ」


 彼は頭を下げた。とにかく必死だった。

 ドッペルゲンガーを前に、俺は彼が分からなくなる。

 もしかしてドッペルゲンガーって誰も殺さないのか?


「部屋から出ないとして、何すんだよ?」


「お話をしよう」


「お話?」


 可愛い返しに目を見開いた。


「時が来れば、お前が気になっていることについても全て答える」


「え、全て?」


「ああ、赤裸々に全て、何もかも全部全部教える」


「マジかよ。最高じゃん」


 全てを話すと言うが、話すことなどあるのか?

 ドッペルゲンガーなんて相手を殺すだけの存在。

 そのはずなのに、彼は殺すべき相手の前で泣いた。

 その涙の意味を俺は知りたいと思ってしまった。

 それ以外にも、彼が使う力についても興味がある。

 人生で初めて接触した不可思議な存在。

 ここでお別れなんて、人生における損失だ。


「お話か。まぁ、お話なら、少しくらいならいいか。うん」


 自分にそう言い聞かせ、彼を警戒しつつ上体を下げた。


「座らないのか?」


「まだ完全にお前を信用した訳ではないからな。咄嗟に動ける体勢のままでいたい」


「そうか」


「で? 何を話すのか知らないが、お話がしたいならさっさとしてくれ。お前の命が危険な状況であることに変わりはない。もし本当にヤバいと思ったら救急車を呼びに俺は部屋を出る」


「……」


「おい」


「……」


「言ったそばから死んでんじゃないだろうな?」


「……」

 

 彼は息をしていなかった。


「言わんこっちゃない。バカに付き合った俺の末路だな」


 彼は死んで――


「……ッハァー!! ……ハァハァ……ハァ……死ぬかと思った」


 息を吹き返した。


「意外としぶといな。まぁ、その方がすぐに死なないからいいけど」


 最初こそ、彼とお話をする予定ではあった。

 彼の願い通り、部屋から出ないつもりだった。

 だけど彼のダメージは想像よりも大きい。

 このままお話をしても誰も得をしない。

 相手に背中を向け、部屋を出ようとした。


「俺とお話がしたいなら、まずはその体をどうにかしろ。しっかり治療を受けて、しっかり回復してからでも遅くないだろ。話は病室のベッドでいくらでも聞いてやる」


「それじゃダメなんだ。俺のお話は今日、15分後じゃあなきゃダメなんだ」


「15分後? えらく具体的な数字が出てきなた。なんで今じゃダメなんだ?」


「俺が繰り返してきた中で、ソレが最も成功率の高い時間だからだ」


 繰り返してきた、と言う気になるワードが飛び出てきたが、今はいい。

 ここで魅力的な言葉に耳を傾けたら、彼のペースに呑まれてしまう。


「何を言ってるんだ? 成功率もクソも死んだら話せないだろ」


「それなら心配いらない。俺の運命の砂時計は20分後、ソレまでは死なない」


 お話が15分後で、死期が20分って、ずいぶんとギリギリだな。


「お前が20分間死なないと言う根拠は?」


「根拠は俺だ。何百と繰り返してきたが、どの世界でも俺は20分間は生き続ける」


 まただ。

 また『繰り返してきた』と言うワードが出てきた。

 それは概念的な物なのか、実在する物なのか。

 試行錯誤や、研鑽と言うような物ではない気がする。

 この男、ただのドッペルゲンガーではなさそうだ。

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