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歓楽等部も【無双】を目指すんで、そこんところヨロシク  作者: 椎鳴津雲
零の章 とある少年の日々
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零の章 第三話:覇王学園のあらすじ

 あの日、小学生だった俺が本屋を訪れた理由は、本を買いに来たというより、本を見に来たと言ったところだ。とくに目的があるわけでもなく、適当に店内をぶらぶらしていた。

 

「百合モノ、BL、おねショタ、んー。気分じゃないな。……そう言えば、この前ラノベ原作の作品が漫画化コミカライズしたんだよな。タイトルはなんだっけ?」

 

 確か『冴えない俺が異世界転生したら金髪エルフと黒髪ドワーフと緑髪ラミアと桃髪ハーピーと青髪アンドロイドと白髪ドラゴンと赤髪サキュバスが家に押し寄せてきた』だった気がする。タイトルからして読もうとは思えない……。


 ああーいう作品が売れるのはヒロインのキャラクターデザインが優秀なだけであって、ストーリーが面白いからではない。確かに内容がなくても女の子のキャラデザがいい作品は一時的に話題にはなるだろう。しかし、廃れて行くのも速い。

 一方で、内容もキャラデも面白い話は、何年経っても人の心に残り続ける。

 まっ、どんな方法であれ、業界は売れた者勝ちだ。売れた作者こそが正義。

 ラノベ原作のクソアニメと言われようが、アニメ化している時点で勝者だ。


「……漫画、か」


 当時の俺はあまり漫画を読まないタイプの人間だった。

 読んでいたとしてもそれは遠い昔の話。

 小学校一・二年生の頃とか。ゴロゴロだったり、ポンポンだったり、いかにも小学生が好きそうな漫画を読んでいた。なんとなくサタデーやチャンプは大人の読み物ってイメージがあったので読めなかった。だから学校の裏山に捨てられたチャンプを発見した時は、エロ本を見つけた気分だったのを覚えている。グラビアとかエロし。


 中学に入ると、俺はゴロゴロコミックを卒業し、少年チャンプデビューした。

 だけど、それもいつしか買わなくなり、自然と漫画自体を読まなくなった。


「でも、たまには漫画もいいかもな」


 ラノベに若干飽きていた俺は、小説休暇と言うことで漫画コーナーへと赴く。

 そこで俺は――【覇王学園】 と出会ったのだ。

 その出会いは本当に偶然。

 たまたま手に取った漫画がソレだったのだ。


「これは……面白そう」


 表紙を見たとき、一瞬で心を奪われた。

 決して上手とは言えないキャラデザ。

 でも作者の個性を感じる絵柄。


「どんな話なのだろうか??」


 表紙の感じからして格闘とかアクションとか武道ってイメージ。

 男塾みたいな感じなのかな? と思いながら、背表紙のあらすじを読んだなら……遠からずも近からず。多分この作者はあの漫画から影響を受けているに違いない。面白い作品からインスピレーションを受けることは悪いことじゃない。


「あらすじはどんな感じなのだろうか?」


 一巻を手に取り、裏表紙に書かれたあらすじを読んでみる。


 ―――――――――――――――――――――――

 あらすじ


 【喧嘩】【武術】【競技】


 これらを極めてしまったがために公式戦では戦う相手がいなくなってしまって生徒。人々は行き場を失った生徒たちのことを、極学生ローナーと呼ぶ。


 戦う相手がいなくなっても尚、彼・彼女らの血が騒ぐ。さらに強い相手と戦いたい。さらに上へと行きたい。高みを目指したいと願う日々。


 そんな生徒たちが、蜜に誘われる蜂のように覇王学園へと吸い寄せられていく。


 最強の生徒が最強の学園に集う最強の物語。最強と最強のぶつかり合い。


 これは、そこに籍を置く最強生徒たちの根性や友情、死闘を描いた物語である。

 ―――――――――――――――――――――――――


「へー。コレ、主人公は最強設定なのか?」


 そう思って読み始めたが、そうではなかった。

 覇王学園の主人公・九重キバは手違いにより最強の学園に入学してしまったなんの変哲もない、何も極めていない、ただの最弱でくそ雑魚な一般人だ。

 周りが最強なのに主人公だけが最弱。

 最弱なのに、物語が進むにつれて周りから一目置かれる存在となる。

 認められていく彼の姿や、経緯や出来事が格好良かったのを覚えている。


 覇王学園ってタイトル通り、本格バトルマンガなのに、ときどきギャグテイストになるのがなんとも笑える。なので、『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』とか『エンジェル伝説』が好きな人でも楽しめる作品――だと思う。

 そして何より特徴的なのが、その漫画の絵柄のタッチだ。

 作者が本気で漫画を描けば、きっとめちゃくちゃ上手いのだろう。

 けど、あの人はあえてキャラの特徴を強調する描き方をしている。

 ヒロインたちも綺麗より可愛い系が多く。全員特徴的である。

 メインヒロインに至ってはデザインが雑で、色気の欠片もない。

 だけど……かなり好き。

 なんか雑だけどすごく可愛く見える。

 毎日のように美化された美少女を見ていた俺の概念が崩れる。

 これが新たなる可愛さ。新たなる可愛いの概念……。 

 ヒロインを書く上で大事なのは上手さじゃない――個性だ。

 個性的であり、可愛く描かれていること。そこに惹かれた。

 決して目が同じで髪型だけを替えた量産型ヒロインではない。


「デザイン好き。ストーリー好き、サブヒロインたちも好き」


 覇王学園は格闘漫画ではあるが、女性キャラ率の方が圧倒的に多い。

 主人公:1 ヒロイン=7 

 読者層メインターゲットが男性なので、女性キャラが多いのは納得である。

 しかし、個人的にこの漫画は他の作品とは一線を画していた。

 他の漫画家が読者を喜ばせたり、人気を得るためだけに女性キャラに不自然な露出をさせる中、覇王学園の作者だけは最後まで不自然な露出を描かなかった。


 露出を描えがいたとしても、ナイフで服を切られた時に見える傷と肌くらいだ。

 服だけを溶かすスライムもいないし、殴られても服だけが破れることもない。

 リアリティ。この作者は徹底的に自然な肌の露出にこだわった。

 あと高ポイントなのパンチラシーンだ。

 昨今の漫画だと、不自然な風でいともたやすくスカートが捲れる。

 しかし、覇王学園は違った。風でパンツが捲れることはない。

 普通にフワッとなるか、ヒロインがスカートを押さえるか。

 パンチラのバーゲンはない。そこにリアリティを感じる。

 なら、この漫画にはパンチラシーンが全くないのか? 


 いいや、ちゃんとある。


 階段を見上げたら眼に入ってしまうパンツ。女の子が転んだ時に見えてしまったパンツ。着替えを覗いてしまった時に見えたパンツ。自然な流れで入るパンツイベント。なんと言うか、俺はあの漫画から作者のこだわりと生き様を感じた。


 もちろん異論は認める。


『攻撃を受けただけで服が消し飛ぶからいいんじゃないか!』

『服だけを溶かすご都合主義のスライムの何が悪い!』

『スカートは微風でも捲れる! そんなの常考!』

 などと言う人もいる。いわゆる読者へのサービスだ。


 確かに俺も、都合のいい時だけ吹く強風はいいと思う。

 ヒロインの柔肌は見ているだけで目がニッコリだ。

 ただ俺は、不自然に町中を駆け巡る、スカートをめくるほどの風が嫌なんだ。

 そんな風が毎日吹いていたら、それはもう天の災害レベルだろ。


「あと」


 相手に殴られただけで服だけが消し飛び、パンツとブラジャーがあらわになるシーンもリアリティがなさ過ぎて冷める。毎度『ギャグかよ!!』とツッコミたくなる。

 そういうサービスで頬を染める人もいる一方で、俺みたいにやりすぎパンチら伝説に対してあきれる読者もいる。何事もほどほどがいいということだ。

 心の中で『分かる分かる』と自己を肯定しながら再び本探しを始めた。

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