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日常編 第21話 現実に慈悲の心なし

 部屋に居たのは俺と瓜二つ見た目をしたドッペルゲンガーだった。

 そして推測ではあるが、彼の目的は同じ姿をした俺を殺すこと。

 このまま俺が殺されれば、今日から彼が俺として生きるだろう。


 そうなれば――


「伏見さんの隣の席を、俺に奪われる。それだけはダメだ」


 上流階級どもにボコボコにされても尚、手放すことはなかった俺のオアシス。

 俺が俺だからいいとか、俺だからOKとか言う理由で奪われる訳にはいかない。


「……」


 一度こちらへと向けた彼の顔を、ゆっくりと下の方へと向ける。


「俯いたままでいてくれ。二度と顔を上げるな。こちらの声も届かないなら、それでいい」


 先ほどまでヤツの顔に触れていたが、とくに反応はなかった。

 全身に広がる痛みにより、顔の神経が鈍くなっているんだと思われる。

 はたまた気を失っていて気づかなかっただけかもしれない。


「何を……した? どうして俺に近づいた? 目的を言え」

 

 目的は言わない。言えば俺の命が危ない。


「……」


 さて、俺の目的は果たした。

 だから声でバレる前に無言になる。

 彼の正体に気づいた以上、この空間は最も危険な場所だ。


「……」


 考えている暇はない。

 今すぐここから逃げようと思う。

 さもなくば俺が影の存在に殺される。


 この男を放置すれば、俺の部屋で死ぬ? 知るか。

 さっさと逃げて救急車を呼べば助かるだろう。

 救急車を呼べば俺が第一発見者となる? 知らん。

 全部全部全部知らん。

 冷静に考えられる思考など今の俺にはない。

 とにかく今は生きることだけに集中だ。


「……」


 先ほど俺は『この件から手を引く!』と彼に伝えた。

 しかしタイミングが悪かったのか、彼の耳には届かなかった。

 不定期ではあるが、この男は時々気を失っていると思われる。

 

 もう一度伝えるか?


 ダメだ。声を発することは、俺の正体バレにも繋がる。

 俺が桜咲日々喜だとバレれば、気流牙突でなくとも殺される。


「……」

 

 ココは少し不審な動きにはなるが、無言で立ち去るのがベスト。

 ゆっくりと……ゆっくりと……彼の方へ体を向けたまま、警戒しつつ、後ろ向きで足を進める。向かう先はもちろん廊下。さっさと部屋から出て、1階へ降りて逃げよう。


「――っぬわ!? なにか!?」


 油断していた訳ではない。だが何かに足を取られて豪快に転倒してしまう。

 プニッとしらイヤな感じ……。イヤな感じ。切り落とされたヤツの左腕だ。


「またかよ」


 部屋に入った時も踏んでしまった。

 何度踏んでもこの不快感には慣れない。


「ハッ!! なんだ今の音は!? ついに本性を見せやがったな気流牙突!!」


「……」


「上等だ。来るなら来いよ。だがな、これだけは覚えておけ、俺は桜咲日々喜に会うまでは絶対に死ねない。追い詰められた者の本気を見せてやる。来るなら死ぬ覚悟で挑んで来い!」


「あーあ……。今の発言で確定しちゃった……お前マジでドッペルゲンガーなんだな」


 やっぱりコイツの正体は妖怪だ。

 しかもガチで目的が俺である。

 そんな俺を気流牙突だと思い込み、彼は俺に銃口を向ける。


「まぁ、いい。あの銃がただの脅しだと言うことは分かってる」


 どうせ撃ってこないだろう。


「とにかく今は逃げることだけ考えよう」


「どうせ俺に引き金を引く気力が残ってないとでも思ってんだろう。だがあめーぜ気流牙突、追い詰められた兎は、時として驚異的な力を発揮する。この銃は脅しの道具なんかじゃない」


 彼は歯を食いしばり、指先に力を込め、銃のロックを解除した。 

 嘘だろ。マジで発砲するつもりなのか?


「ヤバッ……この男は本気だ。俺の居場所がアヤカシの類いに奪われる……」


 この部屋に足を踏み入れた瞬間、俺は何度か死を悟った。

 だがソレは俺から見た一方的なもの。血に染まった階段も、血なまぐさい部屋も、倒れている隻腕の男も、俺が勝手に恐怖しただけ。蓋を開けてみればどうにかなる事態の数々だ。

 しかし今回は違う。銃口が俺に向けられ、ロックまで解除された。


 あとは引き金を引くだけ。


「この一瞬で、俺が殺される」


 コレは冗談ではない。

 そして今の彼には火事場の馬鹿力で最後の仕上げができる。


「俺は……自分の部屋で死ぬのか?」


 訳の分からないドッペルゲンガー野郎に殺されるのか?

 大好きな二次嫁たちに見守られながら命を落とすのか?

 これが弱肉強食の世界のおきてとでも言いたいのか?

 弱い桜咲日々喜は強い桜咲日々喜によって淘汰されるのか?


「死ぬ」


 死ぬってなんだっけ?

 死ぬって、人間としての機能が無くなるってことだよな。

 死って、その人の存在が消えることだよな。

 俺、ここで死んじゃうのか……?

 でも死んだら、何もできなくなるんだよな。

 暗い闇の中で、何も考えずに浮いている状態。

 アニメもない。漫画もない。ラノベもない世界。

 死ぬって、そういうことなんだよな。


 だったら――


「イヤだ……やっぱり俺は……死にたくない」

 

「誰だって死にたくない。俺だって死にたくない。だから殺すんだよ」


 銀色の拳銃。向けられる銃口。

 怖い。怖くて怖くてたまらない。

 今頃恐怖が押し寄せてきた。

 銃を向けられたことなんて初めてだ。

 鼓動が頭まで届く。呼吸も荒くなる。


「ハァ……ハァ……クソッ……ハァ……これだ。本日二度目の窮地。今度こそ」


 この展開だ。

 これこそが俺の望んだ最高のシナリオ。

 追い詰められてくれ、もっと俺を追い詰めてくれ!!


「ピンチを救う力! コイッ!」


 潜在能力爆誕!


 今こそ覚醒!!


 俺を助けてくれ!!


 力を解き放つ時!


 目覚めろ野生!!


「「……」」


 最大の試練。

 ここで能力が覚醒しないと俺は死ぬ。

 本当に本当に殺されてしまう。

 本当に本当に本当に目覚めないと死ぬ。


「「……」」


 だけど……。


「……何も……起きない? 何も……発動しない?」


 なんで力が溢れ出ない?

 なんで凄い力が漲らない?

 なんで能力が目覚めない?


「……なんで……なんでなんだよ……なんで……」


 神は俺を見捨てた。

 この現実に慈悲の心は存在しない。


「クソッ」


 薄々気づいていた。

 能力なんて存在しない。

 残酷な運命を突きつけられる。

 

 超能力なんて、現実に不満を持つ人間の作り出した虚像。

 異能の力があれば、自分はもっと輝けると思わせる希望。

 絶望した人間たちが救いを求めてたどり着いた拠り所だ。


 でも悲しきかな。そんな非現実的な物は存在しない。

 パンドラの箱さえ開けなければ知ることの無かった事実。

 残念ながら俺は開けてしまい、超能力が無いことを知った。

 弱者は弱者。相も変わらず桜咲日々喜で下流階級の雑魚なんだ。

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