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日常編 第18話 部屋に転がっていたソレは……

 自室のドアを開けた瞬間、血なまぐさい空気が全身を駆け巡る。

 この悪臭のせいで、反射的に瞳を閉じて鼻を押さえてしまった。


「――ウッ」


 動けない。

 全身を刺すような臭い。吐き気がする。

 玄関や廊下で漂っていた血の臭いが可愛く思える。

 一瞬にして相手の領域に飲み込まれてしまった。

 戦闘において相手のペースになるのはまずい。


「こんな状況で眼を閉じたらアカンだろ!」


 自分に言い聞かせるように俺は叫ぶ。

 ここは侵入者のいる部屋だ。

 少しの油断が命取りとなる。


「アナザーなら死んでた」


 今の一瞬で殺されてもおかしくはない。

 しかし俺は不幸中の幸いか、無事に生きていた。


「……」


 死ななくて良かったー、と安堵する。

 一時は油断してしまったが、すぐに意識を部屋の方へと向ける。

 木刀を部屋の方へと向け、気持ちを切り替えた。


「来るなら来いよ侵入者。俺には木刀が――っえ?」


 部屋を目の当たりにしたとき、その光景に言葉を失う。

 木刀? 俺が持ってる武器なんて……ゴミカスだ。


「な……なっ……ななななな!?」


 部屋の全貌が明らかになる。

 俺の部屋に筋骨隆々の男はいなかった。

 凶悪な笑みを浮かべる殺人鬼もいなかった。

 血だらけになった囚われの姫もいなかった。

 獰猛な動物も、魔改造された異界の物もいない。


「……」


 視線の先の先にあったモノは……倒れた誰かだった。


 頭を向こうの方へと向け、足下をこちらにした状態で倒れている。

 その人物の周囲は体を囲むように血が垂れ流れている。

 その服は血で染まっており、何を着ているのか分からない。

 

「骨格的に……男か? 身長は……俺と同じくらいか?」


 顔が見えないので、年齢等の情報は一切得られない。

 分かることと言えば、玄関の血も階段の血も、部屋中の中心に垂れている出血も、全部全部全部がコイツのもので間違いないと言うことだ。他の可能性が考えられない。


「……」


 見た感じ、急に襲いかかってくる気配はないな。


「……」


 木刀を握りしめ、俺は一歩前へと踏みだし――


「ん? ぬわっ!?」


 なにかを踏んだ?

 弾力のある何かで、中心には芯のあるような何か。

 イメージ的に言えば、漫画肉のような物だと思う。


「今日はよく何かを踏む日だな」


 などど思いつつ視線を下げると……。


「……嘘……だろ……」


 自分が何を踏んだのか、見た瞬間に理解した。


「男の……腕だ」


 そう、男の腕だった。

 部屋に入った瞬間、男の姿に違和感は覚えたはいた。

 うつ伏せに倒れており、その両腕は体の下に隠されている。

 倒れたときに自分の体を支えるために前に突き出し、そのまま体の下に挟まったのかと思っていた。右腕はそうかもしれない。だけど左腕だけが変だった。明らかに切断されているように見えたのだ。気のせいだろう、などと思っていたが……今ので分かる。気のせいではない。


「腕が斬れてんだ。そりゃ、血だって……」


 血が……血が噴き出して……血が流れて……。

 人生で初めて生で切り落とされた人の腕を見た。

 見たくなくても、自然と視線が言ってしまう。

 切断された生々しい断面の部分を直視してしまう。


「……うっ……」


 切断された腕だと認識した途端、恐怖がいっきに押し寄せてくる。


「……あ……あぁああ……ああああああああああああああああああああああ!」


 腕が斬れた場合、その人が生存する確率は何パーセントだろうか?

 出血? 止血? 包帯で巻く? 熱で断面を焼いて血を止める?


「お前!! 生きてんのか!! 生きてんなら返事をしろ!!」


 家に帰宅したときに聞こえていたうめき声も今は聞こえない。

 想像したくないが、この男はもう死んでいるのかもしれない。


「なんで俺の部屋に人間の死体が!? あ、あるんだよぉおおおおお!?」


 恐ろしすぎて腰を抜かしてしまう。

 こんな光景、ネットでしか見たことがない。

『絶対に検索してはいけないシリーズ』で見つけた単語を、興味本位で検索して後悔した光景に似ている。ドアを開けて後悔した。この光景はそれほど衝撃的で残酷だ。


 現実。


 これは現実。目に見えている物が真実。全てが本物。

 嘘でした! なんて都合のいい展開は存在しない。


「……ハァハァハァ……ハァハァ……」


 身を潜めていた汗が一気に流れ出す。

 開いた口が塞がらない。

 こんなに取り乱した経験は初めてかもしれない。


「初めての経験?」


 つまりこれは初体験《LOVE》ってことか。

 

「――って、冗談を言ってる場合か。俺が俺にキレそうだ」


 動揺しすぎて頭がパニックになっている。

 自分でも驚くほど、今の自分は正常ではない。

 悪党は想像していたが、死体は想定の範囲外。

 なんでこのパターンを想像しなかったんだ。


「弱々しいうめき声が聞こえた時点で察するべきだった。あの時点でコイツはもう虫の息」


 落ち着け。落ち着け。落ち着け。落ち着け。

 ひとまず整理しよう。整理するくらいの脳みそは残っているはずだ。

 で、だ、あの、その。この血はヤバい。死ぬ量に違いない。

 

「違いない、ではなく、もう死んでんだよ。帰宅したら部屋に死体がある」


『なんでここに先生が』ならぬ『なんでここに死体が』だ。

 

「死体発見現場に出くわしてしまった。第一発見者は俺だよな」


 警察は間違いなく無実な俺を疑ってくるだろう。

 誰も殺していないのに……犯人にされてしまう。


「どうする」


 今更救急車を呼んでも、俺が第一発見者であるという事実は覆らない。

 そもそもこの部屋に来る前に救急車を呼んでいても、俺の部屋に死体が転がっている時点で救急隊員たちも俺が殺したのではないかと疑う。警察も市民も俺を疑う。どんな行動をとったところで、この男の死体が俺の部屋に潜り込んだ時点でゲームオーバーだったと言うことか。


「冤罪で逮捕されるなんて悲しい結末はイヤだな」


 自分が助かる方法を必死に考えた。


「なにも見なかったことにすればワンチャン俺が助かるのでは?」


 救急車や警察を呼ばずに、自分で死体処理をすれば問題解決。

 

「いや、死体を放置したら、次第に腐敗が進み、腐敗臭で近所の人にバレる」


 窓を閉めても、その臭いは強烈。壁をもすり抜けるて漂う。


「冷蔵庫に人の死体を隠す? 隠したところでそのあとはどうする?」


 バラバラになんてできないし……八方ふさがりだ。

 どう考えても俺は警察に逮捕され、無実の罪で牢屋行き。

 高校二年生であり、未成年なので罪が軽くなる?


「そもそも俺は誰も殺してない!!」


 それはそう。


「クソッ、木刀意味なし。……思っていた展開と違う……」

 

 逃げ場のない絶望に人生の終焉を受け入れた。

 一度見てしまった現実から目を背けることはできない。

 死体が俺の部屋にある時点で俺はもう詰んでいる。


「こんなんじゃ、覚醒イベントなんてない……。俺が望んだ非現実的はこんな現実味のある事件現場ではない……。もっと心躍る展開を想像したんだけどな……」

 

 どう転んでも俺の人生が終わる。

 第一発見者となった時点で、俺の未来は明るくはない。

 後先考えず、好奇心だけで首を突っ込んだ俺への罰なのかもしれない。

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