表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歓楽等部も【無双】を目指すんで、そこんところヨロシク  作者: 椎鳴津雲
零の章 とある少年の日々
3/58

零の章 第二話:好きなジャンルと好きだったジャンル

 遡ること数年前。


 俺がまだ小学生で、オタクであることを隠していた時期の話だ。

 おそらく日曜日だった気がする。俺は普段通り本屋へと赴いていた。

 あの日の俺は苛立ちを覚えていた。ラノベの棚がどの出版会社も『異世界転生モノ』で、内容もあらすじも似たような作品ばかりだったからだ。異世界に行ったら○○、異世界で○○やってみた、異世界で○○と天下統一、異世界異世界エトセトラ。現実がつらいのはわかるが、異世界モノが多すぎる。

 

 もちろん俺も異世界転生は好きだ……いや、好きだった……。

 そう、過去形。

 異世界転生ブームが到来してからの数ヶ月、俺は飢えたライオンのように異世界転生モノの小説を読んだ。書籍、キンドル、カクヨム、なろう。

 まだ見ぬ世界と創造の斜めを行く作品にワクワクしていた。


「こんな世界があるんだ!」「この作者の世界観すき」「異世界転生おもしろい!」


 ただ、次第にそんな興奮も薄れていった。


「また似たような話か……」「あれ? この物語、Bの出版会社から出てるAって作品でも見たぞ」「またなんの努力もしないハーレム主人公かよ……」「神様に力を貰ってステータスオールMAXとか本当にチートだ」「まず主人公が好きになれない」


 異世界転生のバーゲンセール。

 多い。多すぎる。テンプレート過ぎる。手垢だらけだ。

 あれも、これも、どれも、それも、どこかで見たことのあるような物語。

 もちろん読み進めて行けば、作者の個性とか、キャラクター性とか、ヒロインの性格で差別化はできている。だけど、まず似たようなタイトルの時点で、その本を読もうとは思わない。

 なので出版社と作者は試行錯誤を重ねる。どうすれば本を買ってもらえるか?


 そこで彼らがたどり着いた答えが、あらすじをタイトルにしよう作戦だ。


 あらすじがタイトルになっている作品で有名な物がある。スーパーマンドリル文庫から出ている、平井健三先生のデビュー作。そのタイトルが――


【俺の名前は白井雄介。彼女持ちだ。しかもその彼女とはなんと俺の幼馴染←(可愛い)←(ここ重要)。勇気を出して告白してよかった。あの選択のおかげで今がある。これで俺の学園生活はバラ色だ……と思ったのに、付き合ってみらた幼馴染の裏の顔を知ってしまう。清楚系幼馴染ヒロインかと思ったら束縛系メンヘラヒロイン!? おいおいマジかよ。これじゃ夜も眠れねーぜ。と言いつつ今日はいろいろと疲れて眠かったので普通に寝た。鳩の鳴き声で目覚めると、知らない天井だ。なななんとそこは異世界だった。え、スマホもテレビもないファンタジー世界に迷い込んだのか!? とってもラッキー牧場。可愛いヒロインたちと出会ってハーレム主人公ルートまっしぐら――のはずが、まさかメンヘラ幼馴染が俺を追って異世界まで来ちゃった。なんという執念。お母さんでもお姉さんでもなく、メンヘラ幼馴染同伴の異世界ライフ。この世界にはエルフもグラスランナーもいるのに目移りできない……。俺も殺されて相手も死ぬ。トホホ。恐ろしいが、これも現実か。束縛系幼馴染メンヘラと紡ぐ俺のトホホなハーレム物語が今、始まる(僕はキメ顔でそう言った)というのが序章】


 信じられないと思うが、これがタイトルだ。

 タイトルというか、あらすじというか、地の文と言うか……。

 いや、まぁ、タイトルで差別化を図りたい意図はわかる。

 だがこれはタイトルと呼べる代物なのだろうか?

 なんでもかんでも長くすればいいって問題ではない。


「そこまでしてでも、出版社が異世界モノを出したいのには理由がある」


 簡単な話だ。

 出せば売れる。

 異世界転生をベースに物語を書けば売れる。

 似たような物語でも、世代が異なればその人にとっては新鮮な物語。

 オタクならともかく、スナック感覚でラノベを読んでいる人間が全てのラノベを網羅しているとは思えない。つまり、似たような物語が発売されても、Aの作品とBの作品のバックボーンが類似していることに気が付く人は少ないだろう。


 極端な話、『ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上』と言うセリフをベースに新たな物語を描いたとしよう。主人公を女性から男性に変えただけでも作品は劇的に変わる。キャラクター配置も少し変えて味付けしたら、こうなる。


『俺の名前はデュフルヘルム。強欲の魔王だ。あくどいほど欲が張り、欲するものはすべて手にしてきた。レア装備、高い地位、強い召喚獣、無敵要塞である自作ダンジョン、雑魚どもからの素晴らしい嫉妬と殺意。最高の気分だ。カンストした俺に手に入れられないものなどない――と死んでゲームの世界に転生するまで本気でそう思っていた。死の間際、俺は無我夢中で叫んだ。エッチするまで死にたくない。そこで俺は気付いたんだ。ワイ、童貞やん。ゲームの中では無敵、でも現実では弱者だ。キモイデブで、清潔感のかけらもない男だった。でも、今は違う。なぜなら今の俺は、本物の魔王デュフルフヘルムだからだ。え、俺、格好良すぎ!? この世界に俺を愛してくれるエルフ、アンドロイド、獣人族、鬼人がいたら俺のところに来てくれ。魔王デュフルヘルムは現在絶賛彼女募集中、以上!』


 オタクではない普通のラノベ読者であった場合、これがハルヒをもとに練られたあらすじだとは気が付かないだろう。むしろ「ナンコレ面白そう!」と言い出すかもしれない。実際自分で考えていて面白そうだとは思ってしまった。 異世界モノを書けば編集も作者も読者も嬉しい。

 需要があるからこそ、この異世界転生ブームは数年経った今でも続いている。

 人は常に生まれ、常に死ぬ。古参の読者が飽きれば、新参者が新たに本を買う。

 だからこそ、異世界転生を題材にしたラノベは常に補充されている。

 30代のオタクには彼らのラノベ黄金時代があり、20代のオタクにも彼らの黄金時代がある。そして10代のオタクにも彼らだけの黄金時代があるのだ。


 このように、歳を取ればとるほど似たような小説があることを気付く。

 だが、昔のラノベに興味がない10代のオタクたちは昔のモノを知らない。

 だから「マッドマックスが北斗の拳のパクリ」とか言い出す連中が現れるのだ。


 まぁ、つまり何が言いたいのかと言うと、異世界転生に飽きた俺は、いわゆる ”ターゲットではない” 人間になってしまったと言うことだ。別に異世界転生が悪だとは思わない。悪いのは自分。歳を取り、飽きてしまった自分こそが悪なのだ。


 もちろん視野を広くして本屋を散策せれば、異世界転生以外のジャンルも沢山売っている。ミステリーだったり、アクションだったり、部活モノだったり。

 ただ、やっぱり昔と比べたら異世界もの以外のジャンルは激減した。


 なのに業界全体の売れ上げは昔とあまり変わっていないらしい。


 つまり、異世界モノ以外の作品が消滅しても、ライトノベル業界は特に困らないのだ。異世界転生以外ジャンルは、業界のおまけ見たいな扱いになってしまった。


 あぁ~たまには『はがない』や『のうりん』のような普通の現代学園ラブコメでも読みたいな。また現代モノのブームが来ないかなぁ……。などと思う今日この頃。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ