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日常編 第13話 超能力のない平凡な世界

 俺は超能力が登場する物語が好きだ。

 絶対可憐チルドレンや禁書目録と言った本格的な能力を扱ったジャンルから斉木楠雄のΨ難やモブサイコ100と言った超能力ギャグ作品まで、幅広い視野で様々な超能力モノを読んできた。未来日記とかヒナまつりとか、うえきの法則とかも好きだ。

 あとはデスノートやスクライドとか……スクライドはメカか。


「能力が現実にも存在したらいいな-」


 などと常々考えてしまう。


「でも、現実には超能力なんてないんだよな」


 この世界に超能力が存在しない理由。

 それは、必要とされていないからなのではないだろうか?

 水中に潜りたければ潜水艦を使えばいいし、空を自由に飛びたければ飛行機やヘリコプターを使えばいい。体力を使わずに移動したければ車やバイクを使えばいいし、重い物を持ち上げたければ重機を使えばいい。病気の治療をしたければ薬を飲めばいいし、膝をすりむいたら絆創膏でも貼っておけばいい。ベホマズンがなくても、怪我なんてものは自然と治る。


 人は科学で満足している。

 わざわざ超能力を欲する必要なんてないのだ。

 それでもなお超能力を望む人間がいるのだとすれば、それは俺のように人生に不満を持っている人間であり、脳内の空想を科学で実現できるほどの知力を持っていない人間だろう。

 知力や体力が自分の理想に追いついていない。だから超能力を求める。

 超能力がこの世界に存在していたら、世界も少しは楽しいのだろう。


「まっ、ない物を求めても何も始まらない。想像しただけでむなしいだけだ」


 それでも求めてしまう。

 期待してしまう。

 願ってしまう。

 この世界のどこかで、超能力は実在しているのではないだろうか?


 たまに超能力者(自称)が行方不明の子供を見つけると言う番組がやっているが、痕跡をたどるだけで結局番組内で子供は見つからず――それっぽい言葉で締めて番組は終了。

 中国でも念動力(笑)を使える男の映像が出るが、所詮はインチキ。

 チャイナクオリティーのマジックショー。

 思いっきり足で糸を引いてるやん!? とツッコミを入れたくなる。


「ある訳がねーんだよ。そんな非現実が……」


 退屈だ。退屈だからこそ、何か楽しいことを考えよう。


「そうだな」


 ないものではなく、あるものを見よう。

 それがまさにアニメである。

 オタクであれば、人生の大半を二次元に費やしたい。

 今までも、これからも、俺はオタクライフを堪能する。


「今日は何を見て現実を忘れようかな」


 そうと決まれば早く帰って撮りためたアニメを見なきゃ(使命感)。

 今期は豊作だからテンションが上がるぅ↑↑↑

 わーい! すごーい! 他にも沢山の癒し枠があるぅうううう。

 学園生活で病んだ心を包み込んでくれる優しいアニメ、ちゅき。


 ◆   ◆   ◆


 つまらなそうな表情を浮かべながら歩く東雲市の下校道。

 毎日のように楽し気なイベントを期待するが――何もない。

 死神の女の子が現れることも、街角で美少女とぶつかることもない。

 何年も待ち続けているけど、本当に何もない。

 この町は東雲市。初音島ではないんだよな……。


「まぁ」


 こんな何もない平凡な街だが、自慢できる箇所が一個だけあったな。

 それが、最寄りの駅からとある遊園地まで電車一本で行けることくらいだ。

 あの遊園地には、ゲーム版シュタゲ・比翼恋理のだーりんに登場した背景(プール)のモデルとなった場所があるからな。そこだけが誇らしい。個人的にあのプールは聖地なので、毎年夏になると『聖地であるプールに行かなきゃ』と思う……のだが、思うだけで絶対に行くことはない。

 リア充の巣窟であるプールに一人で行くなんて自殺殺行為だ。

 だから行かない。行ったら多分心が壊れて泣きながら帰ってくる。

 ちゅっちゅラブラブを見ていると嫉妬の炎で溶けそうになってしまう。


「ファ*ク! リア充!」


 それに、夏は夏コミへと行くためのお金が必要だから、できるだけ無駄な出費は避けたいのだ。優先順位を考えると、聖地プールよりも夏コミの方が上である。


 ↓   ↓   ↓

 

 そんなことを考えていると、いつの間にか自分の家に着いていた。

 東雲高校から歩いて15分くらいの所にある二階建ての一軒家。

 防犯のため、全方向が1メートルほどの高さの柵に囲まれている。

 どこにでもありそうな特別感のない普通の一般住宅だ。


「……」


 道路と敷地を隔てる柵を開ける前に、俺は一度立ち止まる。

 スッと顔を上げ、隣の家へと視線を向けた。

 そこには、この家と同じ形の、壁の色だけが違う家があった。

 こちらの家は薄いブラウンだが、向こうは濃いブラウンだ。

 その隣に建っている家こそが、伏見家の家である。

 表札にも【伏見】と書いてあるので間違いない。


 その家はいつも静かで、一年中家族の声すら聞こえない。

 どうやら伏見さんの両親は共働きで、あまり家に帰ってこないらしい。

 彼女の父は有名な会社の社長。コメンテーターとしても有名だ。包み隠さずズバッと核心を突くコメントが視聴者にウケているらしい。今でも朝のニュース番組で見かけることがある。


「ただ俺はあの人、アンチコメントしか言わないからあまり好きじゃないんんだよな。でも見た目だけはいいんだよな」


 ビシッとした黒いスーツがよく似合うハンサムな男性。道端順子の言葉を借りて言うなら上流階級。高校生の娘がいるとは思えないほどのイケメンレベル。


「名前はなんだっけ? 戦国武将みたいな……あ、政宗まさむねだ」


 最初に聞いたときも戦国武将かよって思ったな。

 

「母親は」


 高級ブランドのデザイナーだった気がする。

 ファッションにはあまり興味がないので詳しくは知らないが、本屋さんへ行くとそのブランドの本とか売っているのをよく見かける。あと母親自身もモデルとして雑誌の表紙を飾っていることがある。スラッとしたモデル体型と、唯一無二の美貌。天は彼女に二物を与えた。


「名前は伏見節理(せつり)。女性の名前は忘れない」


 学校でもたまーにファッション大好き女子がその名前を口にしている。


「多忙であまり帰らない二人だが、一度だけ会ったことがある」


 それが数年前の話。

 俺や伏見さんがまだ小学三年生だった頃の話だ。

 伏見家が京都から東京へと越してきたときに彼女の両親とお会いした。

 第一印象は真面目な人。礼儀もさることながら服装も佇まいも、とにかく気品あふれる人たち。子供ながらにして俺は『この人たちはエリートだ。逆らってはいけない』と肌で感じ取った。蛙の子は蛙と言うが、獅子の子もまた獅子である。親が優秀なら子も優秀。

 やはり生まれた時点で、伏見さんと俺とでは住む世界が違う。


「違うからなんだって話だけど」

 

 とにかく伏見家のお二人は多忙な人たちなので、ほとんど家にいない。

 だからあの家は静かで、伏見理美という女子生徒は一人で住んでいる。

 一人だから、俺と同じような孤独者ボッチの臭いがするのかもしれない。


「知っている情報はこれくらい」


 それ以上のことは何も知らない。

 だけど焦ることなかれ。

 俺は彼女の隣の席になった。 

 これからゆっくりと互いのことを知っていけばいい。

 もっと仲良くなって、相談に乗って、助けになってあげればいい。


「だけど仲良くなっただけで、本音を明かすような仲になれるのか?」


 そこが最大の疑問だ。

 友達の少ない俺が、もっとも悩むポイントがそこである。

 お昼の時間に面白動画を見ているだけで、親睦が深まるとも思えない。

 

「確かに」


 このままじゃ楽しい時間を浪費するだけで心の距離が縮まらない。

 それはとても良くない。俺は伏見さんに頼られる人間になりたい。

 そのためにはまず、伏見さんに相応しい人間にならなければいけない。


「だけど……伏見さんに相応しい男ってそもそもどんな男だ?」


 イケメン? 優しい? 金持ち? 頼りがいがある人?


「わからん」


 いろいろ考えようと努力はしたが――今までの人生の中で考えたことすらもなかったトピックスなので何も思いつかなかった。インプットとアウトプットが圧倒的に足りていない。  

やはり分からないことがあったら、アニメ大先生から学ぶのが一番。


「ふむふむ、今日は癒し系を見る予定だったが、作戦変更だ」


 家に帰ったらまず、アニメストアで『イケメン』と言うキーワードで検索しよう。

 そうすれば恋愛作品が一覧で出てきて、かなり参考になるはずだ。

 ハウルとか、風早くんとか、花沢類とかも参考になるかも。


「よし」


 そうと決まれば、俺、GOホーム。

 柵を開け、自分の家の敷地内へと足を踏み入れた。

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