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日常編 第12話 もしも世界に超能力が存在したのなら

 伏見さんの自称お友達連中に呼び出され、ボコボコに殴られ、好き放題された挙げ句に放置され、一時は気を失っていた。目が覚めたとき、周りのは誰も居なかった。一人になった俺はしばらく空を見上げ、一息ついたのちに帰宅することを決意する。痛みに包み込まれた体に無理をさせ、頑張って立ち上がった。そろりそろりと歩き始める。

 体育館裏から表へ出て、そのまま通路を歩いて正門の方まで向かう。

 何事もなければ、前方に見える正門を抜けて敷地外へと出るのだが……。


「……痛い……」


 運が良いのか悪いのか知らんが、校庭で野球の練習をしていた野球部の部員の球がピンポイントで俺に直撃した。ただでさえダメージを負っているのに、ここへ来ての追加ダメージはさすがに死ぬ。言うなれば死体蹴り。ポケモンならお先が真っ暗になってお金を失うレベル。


「……それにしても、不幸だ……」


 地面に一滴ひとしずくの水がポタリ。

 男は涙の数だけ強くなれる、はずだ。

 そう、それはまるでアスファルトに咲く花のように……。

 

「へい、ギークボーイ、ボール直撃で体は大丈夫かい?」


 安否を確認してきたヤツに、フリーザ様のあの台詞を授けよう。


「初めてですよ……ここまで私を――」


「うわーお!! ユーの顔はまるでパンパンスパパン、アンパンマン!」


 台詞を遮られたので再び言うことにした。


「初めてですよ……ここま――」


「手のひらを太陽に♪ すかしてみれば♪ ……って、お前の右手、怪我してる系!? 血が出てんじゃん! まさか野球のボールのせい?」


「……」


 クソだ。

 野球部部員よ、セリフは最後まで言わせろ。

 途中で遮るとか、ヒーローの変身バンクを邪魔する空気の読めない三下だぞ。高視聴率のアニメでも、視聴者が手のひらを返して批判するほど最低最悪の外道行為だ。


「……」


「ワオ、君の体にストライク。防具なしのモロデッドボールとかマジ痛そう」


 野球部のユニフォームを着た坊主モブが近づいてきた。

 ヤツは地面に倒れ込む俺の顔をジーとみている。

 モブ顔だが、きっとコイツも夜のベッドではホームランバッターなんだろう。

 一塁、二塁、三塁、次々とジャーマネの股間内角にボールを入れていく。

 それが運動部だ。運動部なんて肉食系男子の巣窟である。


 俺はリア充には屈しない。

 なめられたらお終い。

 強気で行こうじゃないか。


「おい、マジで大丈夫OK?」


「大丈夫だ、問題ない」


「問題ないならOK。その言葉信じてOK? ――って、すごい怪我系!?」


 モブ男は俺の全身を見て驚きの声を上げる。


「ウエイト、ウエイト、ウエイト。問題ないなんてそんな訳ないジャン!? めちゃくちゃ痣と血だらけなんじゃん!! おかしいな……普通にボールが直撃しただけでここまでなる!? あ、もしかして分裂する魔球が当たった!? マジかよ俺の隠れた才能開花!? これなら次の試合は俺のレギュラー回か? 俺の豪速球で相手選手は致命傷!」


 ところどころ韻を踏んでるのがうざい。

 あと相手に致命傷は普通に禁止行為だぞ。


「俺すげー、分裂する魔球。たった一投で相手はボロボロ!」


 そもそも分裂する魔球なんて存在しないのだからどうでもいい。

 コイツのくだらん妄想に付き合っていられるほど俺は暇ではない。


「君はべつにすごくない。これは別件で負った痣と血だ」


「マジ?」


「マジだ」


「それならいいけど。どちらにしろメッチャ腹とか痛そうじゃね? 顔だって痣だらけだし、目の上のたんこぶも痛々しいぜ。軽く救急車をテレフォンする?」


「いらない。気にしないでくれ。だからさっさと部活に戻ってくれ」


 どうにか立ち上がり、彼にボールを渡した。

 ズボンに付いた汚れをはらい、何事もなかったかのように振る舞う。


 今といいさっきといい、今日はやたらと制服が汚れる日だな。

 まぁ、汚したところで怒る家族なんて俺にはいない。


 その後、彼に「じゃあな」と挨拶し、再び歩き出した。

 男は「サンキューベリーマッチョ」と言って校庭の方へ。


「チャラ男だなー。見た目なのに陽キャかよ」


 きっとアイツは野球部のムードメーカー的な存在かもしれない。

 彼女もいるのだろうなー。もしかしたら今日もナイトゲーム?

 彼が高一だった場合、部の最年少だから、片付け役に抜擢。

 女子マネージャーと共にボールやバッドのお片付けタイム。

 それを仕舞うために体育倉庫に行ったはいいが、手違いで教師に鍵が閉められちゃったりして~。中に閉じ込められてしまった若きお二人。ムラムラするリア充野球坊主モブ男と可愛い美少女マネージャー。マネージャーが男のチャックを下ろしていく。抵抗するモブ男。


『だ、ダメだよ女子マネージャー! 俺たちはまだそんな関係じゃない!』


『いいえ、関係あります。野球部のボールやバッドの整備・管理をするのもマネージャーの役目。常に万全の態勢で部に挑んでもらわなければ試合では勝てません』


『うぅうう! 俺のボールをキャッチでバットが握られるぅううううう!』


 絶頂へと誘われる野球モブ。ホームランからのスライディング射精。


「……」


 それに比べて俺はなんだ? 

 高校二年生にもなって童貞。

 付き合った経験も何もない悲しき素人。


「……」


 リア充のことを考えていると、どうしても悲しい気持ちになる。

 アイツらなんかと比べたら俺は負け犬だ。雑草。下流階級。

 なんでもいいから部活動に所属しているヤツらを中流階級と呼ぶのなら、俺も勇気を出して部活に入れば、とりあえずは中流階級になれるのかな? そうなれば、少しでも伏見さんに近づけるような気がする。でもやっぱり上流と中流の間には越えられない壁があるのかな?


「部活かぁ……」


 本音を言うと、部活に入りたいとは思っている。

 けど俺はもう高校二年生だ。今更、入れる部活なんて存在しない。

 既に人間関係が構築されている空間に、高校二年生である俺がひょっこり入っても部外者扱いされるだけ。しかも俺はただの孤独者ボッチではない。学校でも悪い噂が沢山流れている問題児だ。悪い意味で有名人なのだ。そんな俺が、蜂の巣に中に入って精神的苦痛に耐えられるとは到底思えない。きっと毎日のように『アイツって例の噂のヤツか?』『キモッ、近づくなし』『ヤバい。変態菌がうつる』と影で言われるに違いない。


「ダメだ。耐えられない」


 辛い思いをするくらいなら、帰宅部の方がよっぽどマシ。

 去年も帰宅部。だから今年も帰宅部。たぶん来年も帰宅部。

 そうだ。去年と何も変わらない。今年も楽しい帰宅部人生なんだ。

 中流階級なんかにならなくていい、俺は俺のままでいいんだ。

 それに、帰宅部には帰宅部の魅力があり、楽しみ方がある。

 青春を犠牲に、オタクライフを満喫する時間を手に入れている。

 

「帰り道、ラノベでも読もうかな。よし、決定」


 早速、お昼時間に読む予定だったラノベをカバンから取り出した。

 タイトルは『ESPer学園』だ。超能力たちが織り成す学園の物語。


 その本を読みながら、俺は今日も下校することにした。


「……それにしても……脇が痛い……腕が痛い……足が痛い……腿が痛い……首が痛い……背中が痛い……尻が痛い……要するに全身が痛い……。明日までに腫れが引いてくれると嬉しい」


 痛みのせいで、なかなか文章の世界に入ることができない。

 ボコボコタイム然り、飛んできた野球部のボール然り、本気で痛かった。

 

 その痛みを俺は、受け入れる。


 きっとこれは運命なんだ。この痛みは数年前から決まっていた。

 人間っていうのは、生まれた時点でたいだいの運命は決まっていると言われている。金持ちの家系に生まれれば、子供も金持ちだ。貧乏な家系に生まれれば、子供もきっと貧乏になる。

 なら、どうすれば貧乏人が人生の途中で金持ちになれるか?


 答えは二つ。


 1:貧乏人がめちゃくちゃ勉強して、いい職に就く。結果的に金持ちになる。

 2:宝くじを当てて億万長者になることだ。まさにアメリカンドリーム。


 1も2も、もし生まれた時点で決まっていることだとしたらどうする?

 実力で金持ちになったと思っていても、本当はそうではなかったとしたら?

 運命によって決められていた出来事をなぞっているだけにすぎなかったら?

 宝くじも運で当たったかと思っても、実は当たることが運命だとしたら?

 俺がこの話をしていることも、ボールに当たることも、全部運命だったら?

 親が敷いたレールなんて言葉があるが、そもそも人生が神の敷いたレールだとしたら?

 そう考えると、なんだか人生がとてもつまらない物のように思えてくる。


「帰宅部も運命、ボールの直撃も運命、伏見さんの悩みも運命、全部全部運命なんだ」


 なんの能力もない、運動神経もそこそこ、学力に至っては下の中ぐらい。

 神は俺を見捨てた。神は平凡な人生とくだらない運命を与えてくれた。

 このまま何もせずに人生を歩めば、それは運命任せになってしまう。

 特別なイベントもなく、高校を卒業して、就職して、結婚して、etc.


「理想的な人生だけど、俺は山も谷もない人生はなんだか嫌だな」


 もっと壮絶で波乱万丈な人生を歩みたい。

 なんかスケールがどでかくてド派手なスゴイ感じの人生だ。

 人が経験したことのないことをやって、周りから『すっごーい』とチヤホヤされたい。

 テレビとか出て、雑誌とか載って、有名人になって、小説とか出して印税ガッポリ。


「……ふっ……」


 なんの力もない今の俺じゃ、到底かなわない夢だな。

 でももし力があれば、そんな夢も叶うのではないか?

 外力。例えば超能力とかあれば俺の夢は実現できる。

 俺がこの世界には存在しないはずの能力を使いこなす超能力者だったら、俺が体育館裏でボコボコにされる運命も、正門へと向かう通路でボールに当たっていたという運命も、簡単に改変することができたのかもしれない。


【サイコメトリー】があれば、連中の拳やボールの軌道も予知ができた。

【サイコキネシス】があれば、連中の拳やボールを念動力で止められた。

【テレポート】があれば、殴られる前に、簡単に攻撃を回避できただろう。

 それにボールが俺に当たる前にスッと左右に移動して避けられたはずだ。


「いや、ボールは後方から飛んできたからサイコキネシスとテレポートがあっても、避けられなかった可能性が高いかもしてないな」


 あのモブ男子生徒が『危ない、後ろ!』と言ってから俺は振り向いた。

 ボールに気付いた頃にはもう直撃していた。

 たとえサイコキネシスやテレポートがあったとしても、能力を発動する前に当たっていただろう。予知以外の能力者は、使ったところで認識していなければボールに当たる。

 しかし、上記の3つを全てを手に入れることができたら?

 斉木楠雄のΨ難に出てくる斉木楠雄みたいに多Ψ(たさい)な動きができる。


「能力者になりたい」


 男子が戦隊ヒーローに憧れるように、女子が魔法少女に憧れるように、俺は超能力者に憧れている。超能力ってーのは本当にすごい。自分が思い描いた空想がなんでも実現できる、

 

 以前何かのアニメでこんなセリフを耳にしたことがある。


『自分の人生の中では、自分がこの物語の主人公だ』って。


 もしかしたら、この物語の主人公は俺なのかもしれない。

 超能力が使える人間の一人。みんなが憧れる主人公ヒーロー

 能力を利用すれば伏見さんを助けることだってできる!!

 みんなを笑顔に! 称えられるようなそんな人間になれる!


「なーんて。そんな訳ないか」


 手を天に高く掲げたが――何も起きなかった。

 唯一起きたとすれば、手のひらの血が垂れてきた。


「……っはぁー。運命とは残酷だ」


 くだらない夢物語。俺が主人公だったらもっと人生が楽しいはず。

 沢山のヒロインに囲まれて、超絶ハーレムで一夫多妻が許されている。

 主人公最強設定で、あらゆる部活の部長どもを蹴散らしていく俺ッ!

 12体1でもおくすることなく、挑まれた喧嘩で全員を返り討ち。

 皆から『あの男、帰宅部のくせに……強い』と言われたりして……。


「クフフ」


 優越感。充実感。幸福感。ウハハハッハ、最強設定! 最高!


「――って、何を言ってんだ俺は」


 人生の転機なんて俺の運命にはない。

 ある訳がない。

 なぜあり得ないかって? 

 答えはこれが現実リアルだからだ。

 この世界には夢も希望も存在しない。

 あるのは税金と将来に対する不安。

 人生なんて終わりのコンテンツ。

 高校卒業後のことなんて考えるだけで怖くなる。

 就職、老後、年金、保険、仕事、責任、土下座。

 未来なんて辛いだけ。平凡街道まっしぐら。


「イヤだな」


 そんな現実的なことを考えながら俺は独り通学路を歩いていく。

 帰ったら辛い現実を忘れさせてくれるような日常アニメを観よう。

 ああ、なんだか今日はすっごく疲れたような気がした。

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