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日常編 第11話 踏んだり蹴ったり

 目が覚めたとき、俺はふかふかの病室のベッドの上。


「知らない天井だ」


 そして綺麗なミニスカのナースに看病されていた――と言う訳もなく、残念ながら場面は変わらず体育館裏だ。背中に広がるは冷たい土の感触。一人、寂しく、取り残される。

 敗北者である俺は仰向けのまま、ボーっと空を見上げた。

 

「……口の中が切れてやがる……」


 血の味がした。


「……手のひらが痛い……」


 出血はしていたが、騒ぐほどのことではない。

 適当に包帯でも巻いておけばすぐに治るだろう。


「……それより……」


 あの連中は手加減を知らないのか?

 ガチで殺しにかかってきやがって、軽くキレそうだ。

 で、好きなだけ殴った挙句、ヤバくなったら逃走か?

 人気者だからって何をしてもいいとは限らないぞ。

 

「クソッ、弱者が吠えたところで負け惜しみにしか聞こえないな……」


 さっきのことを思い出したらムカついてきた。

 少しムカついたけど、同時に安堵した自分もいる。

 あの刃物。刺さったのが手のひらで本当に良かった。

 アレが腹とか心臓とかに刺さっていたらご臨終だ。


「痛かったけど、命あっただけましか」


 体育会系連中の一撃は重かった。

 当たり所が悪かったら、俺は死んでいかもしれない。

 覚悟を決めて放った拳も、誰にも当たらなかった……。

 

「俺って、弱いな……」


 ボソッと呟く。


 覇王学園の主人公・九重キバだったら、あんな連中なんてコテンパンだ。

 

「でも九重キバではない」

 

 逆転を望んでも、俺は漫画の主人公みたいにはなれない。

 漫画を読んだときに感じる『みなぎる力』は錯覚だ。

 北斗の拳を読んでも、キン肉マンを読んでも俺は強くなれない。

 強くなった気になるだけで、身体的能力は何も変わっていない。


「……」


 情けないな。

 12対1の勝負。負けて当然の喧嘩だ。

 弱い者は強い者には勝てない。これが自然の摂理。

 強者きょうしゃでなければ敵に抗うこともできない。


「……」


 そんなことを考え、少し寂しい気持ちになった。


「……帰るか……」


 伏見さんの隣の席になった時からこうなることは分かっていた。

 あの席になった瞬間から、クラスが俺の敵になる覚悟はしていた。 

 ゆえに、体育館裏に呼び出された今回の件も想定の範囲内。

 ただ、ここまでひどくボコられるのは想定の範囲外だった。


 生徒どもの集団リンチを、担任教師に洗いざらい話すのも一つの手だ。

 だが、そうなれば『伏見さんの隣の席にいることで起きたイジメ』と認識され、席を変えましょう、という流れになりかねない。そうなれば上流階級連中の思う壺だ。


「リア充ども、思い通りになると思うなよ。俺の心はまだ折れてはいない」

 

 喧嘩には負けたが、勝負には勝ったと言ったところだ。

 伏見さんが俺のことを友達と呼んでくれる限り、俺は死んでもあの席から離れない。

 ようやく手に入れた憧れの人の隣の席、そう簡単には手放さないぞ。


「――って!? イテテテテテ!?」


 痛みに耐えながら、ゆっくりと立ち上がろうとした。

 膝も肘も、腰も、あらゆる関節が悲鳴を上げている。

 おそらく全身があざだらけ、内出血とか酷そうだ。


「っはぁ……つまらない……」


 服についた泥や砂と言った汚れを払う。


「こりゃ、洗濯が必要だな」


 こうして俺は悔しさと決意を胸に秘め、頑張って歩き出す。


 ◆   ◆   ◆


 部活動を行う生徒の声を背に、真っすぐ正門へと向かっていた。

 痛みはあれど、歩けないほどの痛みではない。

 自分で言うのもなんだが、俺の体って意外と頑丈なんだよな。


「……。……それより、部活動連中の声がうるさいな……」


 校庭の方からはサッカー部や野球部の声援やかけ声が聞こえる。

 どうして好き好んで自分の体を痛めつけてまで努力するのだろうか?

 部活に所属している人間たちの考えることはまったく理解できない。

 部活に入る人間はどうかしている。マゾか物好きだ。

 べつに嫉妬をしている訳ではない。単純に理解できないだけ。


「……」


 だって考えてもみな。部活動と言えば夜の七時まで練習だ。

 部活なんかに入ったら夕方六時から放送されるアニメがリアルタイムで見れないじゃないか。録画すればいいっていう人もいるが、アニメはリアルタイムで見てこそ価値がある。ツイッターとかで、皆のコメントを目でフォローしながら同時視聴の気分で見たいじゃないか。

 しかも土日といった休日まで練習があるのだろ? 日朝にちあさのアニメも見れなくなるなんてありえない。プリキュアとプリチャンは俺の生き甲斐なんだよ。


 まぁ、アニメ部と言う部活が存在すれば、入ることを検討しないこともない。

 だが残念ながらそんな都市伝説のような部活はこの東京都東雲(しののめ)高等学校には存在しない。漫画部もラノベ部もないのだ。悲しいことだが、これが現実だ。

 あるのはサッカーとか野球部とか陸上部とか、なんかそんな感じの部活だけ。


「おかしな話だよな」


 美術部はあるのに漫画部はない。

 俳句・川柳部はあるのにラノベ部はない。

 PCを使う部活は複数あるのにユーチュー部はない。

 これらは何が違う?

 芸術・創作という観点から言えば、全く同じじゃないか。

 違う点を強いて言うならば、世間からの扱いだろう。

 ラノベやアニメコンテンツを蔑んだ目で見るやからはいる。

 この高校にもオタクを軽視する生徒は存在する。

 もちろん同じクラスの道端順子グループもアニメ否定派だ。

 俺がオタクという理由だけで、犯罪者だのロリだのすぐに決めつける。

 オタクが何をした? オタクがこの世界の悪みたいに扱いやがって……。


 アニメは『子供が見るモノ』と言っている連中は、まず日本のアニメが世界的にもどう認められているか調べてから物を言えって話だ。アニメのターゲットなんて様々だぞ。子供が見るアニメ、高校生が見るアニメ、マニアが見るアニメ、大人が見るアニメ、81禁アニメ。

 アニメは必ずしも子供が見るモノではない。

 ガンツやアキラを子供に見せてみろ。多分一ミリも理解できないぞ。


「まぁ、非オタアニメアンチパリピに言っても何も始まらないか」


 アニメ否定派を否定しても、奴らの価値観が変わる訳ではない。

 俺がオタクである以上、理解されずに蔑まれるのは覚悟の上だ。

 そもそもリア充ピーポーに好かれようとは思っていないし、オタクを嫌う人間と仲良くしようとも思ってはいない。俺らは永遠に交わることのない存在。平行線上のホライゾンだ。


 アニメやラノベをバカにされても無視。相手にするだけ時間の無駄。

 言わせたい人間には言わせておけばいい。

 真のオタクは波風立てず、スマートに行くものだ。

 それに自分が楽しければそれでいいじゃないか。アニメ見て、抱き枕を買って、中野へ行って、秋葉原へ行って、スマホでアイドルのリズムゲームやって。


 これが――


「俺の人生だ!」


 正門前で俺は大きく両手を広げる。なんだかティーチになった気分。


「オタクの夢は――終わらねぇ!」と野球部の声援よりも大きな声で叫んだ。


 羞恥心なんてない。恥ずかしさは幼き頃にネットの海に捨ててきた。


「……イテテテテ……」


 調子に乗って両出を上げたせいで、先ほどボコられたときに痛めた全身が悲鳴をあげた。

 この痛み、もしかしたら骨が折れてるかもしれないな。


「……ん?」


 あばら骨付近を抑えていると、男子生徒のサムシングな声が耳に届く。


「あ、わりぃ、そこの男子! そこの平凡そうな陰キャなユー!」


「陰キャラ男子? 俺のことか?」


「サノバビッチ、あのオタク男子、しばし監視、寝ぐせさえファッキー、視線感知 、ねっ、いい感じ?」


 なんでRomantic Now風の言い方なのだろうか?

 そもそもコイツは、つまり何が言いたいんだ?


「野球のボールがそっちに飛んだから避けてぇー! ねぇ、いい感じ? へい、汝? 当たるまで何時? 当たれば即死、良ければ安死。危険なことに変わらない感じ?」


 当たれば即死? 野球ボール? 飛ぶ? 避ける? 


「……まさか……」


 おそらく背後からボールが飛んできているのだろう。

 変な替え歌を口ずさむ前にそれを先に言ってほしかった。


「避けられる訳ないだろ!」


 こうして考えている間も、すぐそこまでボールが迫ってんだろ?

 野球のボールか。所詮は小さき白い塊、俺の右手に宿る竜の前では無力。

 本気を出せば野球ボールなど一瞬で消し炭だ。封印されし力を使うトキ!


「闇より現れし炎龍の子よ。我が――ぐふっ!」


 台詞を言い終わる前に野球部の攻撃を受けた。


「OH……NO……」


 野球部野郎が放ったボールが、たぶん時速131kmで飛んできたのだ。

 お前は室伏広治かよ! ――とノリツッコミを入れたくなる。

 ボールは腹部に食い込み、一瞬にして痛みが全身を駆け巡る。

 驚きと衝撃で体が茹でられたロブスターのように反り返った。


「いってぇえええええええ!!」


 腹をおさえて倒れ込む。

 アスファルトの上でのたうち回った。


 丁度わき腹!!

 脇腹!!

 無防備なわき腹はダメ!!

 脇スナッ!!

 脇! 脇! 脇腹!!

 

「ぬわぁあああああああああああああ!」


 痛い。

 マジで痛いんだって!

 野球ボール半端ないって!!

 ボコられた痛み+(プラス)野球部の剛速球の痛み。

 1+1は2ではない。3倍にも4倍にも痛みが膨れ上がる。

 痛すぎてもう生きるのが辛くなってきた。

 意識が飛びそうになったが――気合いで持ちこたえる。

 この野球部、覚えておけよ。いつか泣かせるからな。

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