日常編 第9話 くだらない区別
放課後、俺は伏見さんの友達と思われる連中に呼び出されていた。
「ちょっと面かせよ」
「はいはい」
抵抗しても無駄だと思い、潔く黙って体育館裏へと連行されていくことにした。
たどり着いた先にいたのは2人3人くらいの少数――ではなく、驚くことに2年2組の上流階級どもがオールスター集合の全員参戦状態だった。絵図だけ見たらスマブラSPだな。
サッカー部のエースで、キング佐藤のあだ名を持つ佐藤冀求や坊主はもう時代遅れ、ツーブロックでも野球はできる。球界の貴公子と呼ばれてる静谷静矢。他にも演劇部のプリンス、陸上部の鷹飛検針、柔道部の大田原などなど。
部活の時間であるにも関わらず、暇なのか知らんが体育館裏にいる。
見たところ男性が12人で、女性が1人だけいる感じだ。
そしてその女性と言うのが、このグループのリーダー・道端順子である。
ヤツらは俺の方を睨みながら、拳や指をボキボキと鳴らしていた。
なぜ彼らがこんなにも攻撃的な顔や態度をしているのか?
理由は一つ。俺が伏見さんと仲良くしているからだ。
連中は『伏見理美とは関わるな』と言ってきたので、丁重にお断りした。
その結果――
「お前たち!! このゲロブタ野郎をボコっておしまい!!」
「ひゃっはぁああああああああああああ!」
道端順子の合図で俺vs12人のバトルが始まった。
↓ ↓ ↓
戦闘開始から一分後。
「……」
無念……。
ボッコボコにボコされた俺は、無様な状態となっていた。
体育館裏の冷たい土の上に倒れ込み、殴られた腹を押さえる。
倒れるつもりなどなかったが……うっかり倒れてしまった。
油断した訳ではない。自分の力を過大評価した結果だ。
いや、それを油断と言うのか……。
「……」
想像とは少し違うが、概ね予想通りな展開にはなった。
万が一にも俺が勝つなんて展開は現実には存在しない。
「いてぇ……」
相手の人数があまりにも多すぎる。
1体12って、アニメじゃねーんだから勝てる訳ねーよな。
あっけなく倒された俺に対して連中は嘲笑した。
「なんだコイツ。やっぱ雑魚じゃねーか。ペッ」
「かかってこいや! とか言っちゃってさ。ダサッ。ダサすぎて笑いがとまらねー」
「アハハハハハハ弱い犬ほどよく吠えるとはこのことだ!」
「ガハハハハハッハ」「ブハハハハッハ」「ドワワワワワワワ!」
男子連中が何か言ってやがる。
笑いたきゃ笑え。
弱者を笑う者ほどダサいモノはない。
俺から言わせれば、お前等の方がよっぽど雑魚だ。
群れることで自分が強いと錯覚しやがって……。
うずくまった状態のまま、俺はヤツらを睨んだ。
「おい、なに睨んでんだよ!! 雑魚が!!」
「――ぐっ」
睨みが気に入らなかったのか、サッカー部のイケメン野郎が俺の顔面をまるでボールのように思いっきり蹴ってきた。今ので口内がキレたのか、口から血が垂れる。サッカー部の蹴りは半端ではない。辛うじて意識は繋いだが、もう少しで視界が真っ暗になるところだった。
そんな俺を、リーダー格である道端順子は見下しながら微笑んだ。
「これで分かったでしょ下流階級。てめーみたいな雑魚が、私ら上流階級と仲良くしちゃいけねーんだよ。私らはクラスにおける上の上。喧嘩も強くて、権力もあって、スポーツもできて勉強もできて、なんでもできる上位の存在。そんな私らの仲間である理美ちゃんと仲良くしようだなんて愚かな話。自分の立ち位置を理解しなよ。ゲ・ロ・ブ・タ」
汚物を見るような目だ。
正直、この女は1年の頃から気に入らなかった。
だけど刃向かえば痛みが倍になって返ってくるので何もできなかった。
だから俺はコイツらと関わろうとせず、教室の隅で細々と過ごしていた。
しかし今は違う。伏見さんを切っ掛けに関わってしまった。
そして関わってしまった以上、この壁から逃げる訳にはいかない。
「ほんと、くだらねーな」
「なに?」
道端さんの発言が気に入らなかった。
上流階級とか下流階級とか中世ヨーロッパかよ。
俺は力を振り絞り、もう一度立ち上がった。
その火事場の馬鹿力に相手の男子連中が目を疑う。
「おい、コイツ、立ったぞ!?」「嘘だろ。ボコボコにしたはずだ」「俺の蹴りも効いていたはず」「タフなんて言葉じゃ説明が付かねー」
イケメン野郎共と同様に道端順子も驚いていた。
それと同時に怒りを覚え、男共に喝を入れる。
「お前ら、手加減したんじゃないだろうね!!」
「え、いや」「違うよな」「本気だったけど」
「コイツ全然私らことを恐れてないじゃん! 私はボコボコにしろって言ったんだけど!!」
「お、おれは手加減なんてしてねーよ。お前は?」「俺もしてない」「お前は?」「してない」
動揺しだす連中に、俺は率直な思いをぶつけてやった。
「お前らさ、恥ずかしくないの?」
「「「ハァ?」」」
「上流階級とかさ、下流階級とか。そんなこと言ってんの2年2組のお前らだけだぞ。他の教室に行ってみろ。だーれもそんなこと言ってない。陰キャとか陽キャとかなら分かる。でも上流階級って笑える。外国の貴族でもないのに『上流階級』って本当に草しか生えない」
俺は小馬鹿にするかのような仕草でクスクスと笑う。
「なんだと……てめぇ」
「それに、確かに伏見さんは優等生だし、スポーツもできるし、成績的にはお前らの仲間なんだろうと思う。でも彼女は決して誰かを見下したり、貶めたり、脅したりなんてしない。伏見さんは立場的には上流かもしれないけど、彼女は一度たりとも自分から『私は上流階級の人間だから偉い』なんて言ったことはないはずだ」
「それが、なんだってーのよ」
「お前らは友達として、伏見さんの言葉に耳を傾けたことはあるのか? 伏見さんが俺と仲良くしたくないと言ったのか? 伏見さんが俺は友達にふさわしくないと言ったのか? 違うだろ。あの子はな、俺を一人の人間として扱い、『友達』と呼んでくれた」
「うるさい!! それが気に入らないって言ってんのよ。下流の分際で調子に乗りやがって!」
「伏見さんが俺のことを嫌いになったのなら潔く身を引こう。だがな、あの子が俺のことを『友』と呼んでくれる限り、俺は伏見さんの隣の席から移動するつもりはまない」
「クッ。お前ら。いたぶりが足りないようだから、もっとやっちゃいなさい!」
俺は間違っていない。
自分の思ったことをコイツらに言ってやっただけだ。
「順子ちゃん、ガチでボコっていいんだな?」
「構わないわ。分からせるためには暴力が一番友好的」
「あいよ。覚悟しろゲロブタ」
道端順子の合図で、一方的な暴力の第二ラウンドが始まる。
今度こそ倒れないと覚悟を決め、俺は拳を構えた。




