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日常編 第7話 幸福ランチタイム

 お昼ご飯の時間。

 道端順子が伏見さんをお昼に誘ったが、なぜかお断りされた。

 その後、彼女は「気を付けてね」と吐き捨てて仲間たちのもとへ。

 道端さんが信じられないと言う相手とは誰のことなのだろうか?


 まっ、俺には関係のないけど。

 さて、さっさとお昼にしよう。

 今日は学食へGOだな。

 立ち上がろうとしたとき――


「ちょっと待って桜咲くん。なぜこのタイミングで立ち上がるの?」


 伏見さんが声をかけてきた。


「はい?」


 首をかしげると、伏見さんも首を傾げた。


「なぜって、学食へ行ってご飯を食べるため、ですけど」


「いや、え? あの……。今の流れ、もしかして気づいてないの?」


「何が、ですか?」


 意味深な発言に俺は首を右から左へと傾げた。


「そうね。まぁ、直接アナタに言った訳ではないから、分からなくても仕方がない……のかしらね? でも話を聞いていたのなら、分かりそうなものだけれど、鈍感難聴系男子?」


 彼女は身体をこちらへと向け、俺の目を見ながら言ってきた。


「桜咲くん。迷惑でなければ、お昼一緒に食べない?」


「なんで俺とお昼を?」


「なんで?」


 その返しが予想外だったのか、彼女は考え込んだ。


「なんで? なんでと言われても困るわね。なんでかしら」


「だって伏見さんには文系の帰宅部の男子と言う先客がいるですよね?」


「そうね」


「伏見さんはその方とご飯をお食べに」


「本当に気づいてないの?」


「???」


「アレ、桜咲君のことよ」


 へー。


「なるほど。桜咲君という人か。伏見さんと一緒にお昼ご飯が食べられるなんてその桜咲君と呼ばれる文系の帰宅部君は相当幸せな男だな……あれ?」


 妙だな。


「おうさき? 桜咲ってどこかで聞いたことあるような……」


 聞き覚えのある苗字。

 毎日聞いているような気がする。


「アナタは寝ぼけているの? 自分のことを君付けなんて少し変よ」


「自分のこと……桜咲君……え、まさか――お、俺!?」


「そう」


 WHAT!?

 驚きのあまり脳内がビッグバン。


「え、えぇ!? 伏見さんが言っていた先客って俺のことかよ!?」


「そう。てっきり順子ちゃんと私の会話を聞いていて理解していたのかと思ったわ」


「いえ、あの、えっと、聞いてはいましたが……まさかお昼に誘おうとしている相手が俺だなんて、現実味がないというか、まだ夢のような感覚で頭がふわふわ時間タイムで」


「けいおんね」


「え?」


 ……ん?


 俺の中の場が凍り付いた。

 驚く俺に対して彼女は「なんでもないわ」と咄嗟に誤魔化した。

 だが間違いなく伏見さんはアニメのタイトルを口にした。

 だけどオタクではないはずの伏見さんの口から出るはずがない。

 分からない。今の発言は本当に『けいおん』だったのか?


「今、何か言いましたよね?」


「なんでもないわ。本当になんでもないの」


「ふわふわタイムって知ってます?」


「知らないわ。何かのおかしかしら」


「本当ですか?」


「本当に知らないわ。知らないわ。知らないわ」

 

 伏見さんが知らないBOTと化した。

 この話題の返事は『なんでもないわ』しかないだろう。


「それよりお誘いの話。やっぱりダメかしら? 桜咲君っていつも一人でご飯を食べているから、誘ったら迷惑なことは重々承知。でも隣の席になった訳だし、仲良くしたいかなと思って。一緒にご飯でも食べて、お話でもできたら嬉しいわ、なんて」


 少し動揺したが、すぐに言葉の意味を理解する。

 美少女とランチ。なんて夢のような響きなんだ。

 伏見さんに誘われたが――喜ぶことなかれ。


 P.S. 俺は別にボッチ飯が好きな訳ではない。

 本当はみんなとワイワイ食べたい人間なのだ。

 ただコミュ障だからそれができないだけで……。


「俺は別に構いませんが……俺なんかとお昼を共にしたら伏見さんの評価まで下がってしまうんじゃないでしょうか?」


「友達とお昼を共にしただけで下がる評価に意味なんてないわ。周りの意見なんて関係ない。私は桜咲君とお昼を共にしたいからお誘いしているの。これは他でもない、私の気持ち。だから迷惑でなければ、一緒にお昼を食べてください」


 伏見さんがここまで言ってくれている。

 そんな彼女の思いを無下にはできない。

 断ったところで『はい』と言うまで引き下がってくれないだろう。

 だから俺は彼女のお誘いに応えなくてはならない。

 俺が出した答えは――


「こんな俺で良ければ、共にお昼を食べましょう」


 伏見さんの表情がパァーと明るくなった。

 お、おう。

 まさかこんな笑顔を俺に向けてくれるなんて思わなかった。

 これじゃまるで俺を誘うことを緊張していたようじゃないか。


「良かったわ。内心断られたらどうしようかとドキドキしていたのよ」


「いやー伏見さんのお誘いを断る男子はいないと思いますよ」


 その後、俺と伏見さんは机と机を合わせたお見合いスタイルにした。


 ◆ 5分後 ◆


 購買で買ってきたパンを頬張りながら、前方に座る伏見さんを見ていた。

 夢のようだ。憧れの人と一緒にご飯を食べられるなんて……。

 待て。もしかしてこれは、夢の中なのではないだろうか?


「どうしたの桜咲君? 私の口にご飯粒でもついてる?」


「あ、いえいえ、何もついてません」


 夢ではなさそうだ。

 ゆえにこの時間はプライスレス。


「もぐもぐ」


 彼女は割と質素な手作りお弁当をパクパクと食べていた。

 食べ方がお上品だ。あと食べる姿も美しい。……可愛い。 

 入っているオカズはハンバーグ。あとはサラダとお米とか。


「そのお弁当って、伏見さんが自分で作ってるんですか?」


 気になったので尋ねてみた。


「そうよ。まぁ、ほとんど晩ご飯の残り物だけれど」


「へぇー。晩ご飯の残り物なんだ。じゃあ、晩ご飯も自分で?」


「そうね。そういう桜咲君はお弁当とか作らないの?」


「んー……お弁当もいいなーとは思うんですけど、やっぱりコンビニや購買で買ってくる方が一番楽かなーって」


「栄養が偏りそうね」


「でも晩ご飯は自炊しているので一日の栄養バランス的には平均的かと思います」


「なるほどね」


 何が『なるほど』なのかは分からないが、とにかくなるほどなのである。


「……」


「……」


 ここで会話が一旦途切れた。

 俺も彼女も食事に集中する。

 無言ではあるが、不思議と気まずくはない。

 むしろこの無言の時間が愛おしい。

 なんだかドキドキする。

 とはいえ、ずっと無言なのもなんだか悪い気がする。

 話題を探さなければいけないという使命感にかられる。

 話題。話題。話題……。


 話題を探していると、伏見さんの腕時計が目に入る。


 これだ。


「そう言えば伏見さん」


「なにかしら?」


「その腕時計って、なんだかすごく古そうな特徴的なレトロな時計ですね」


「腕時計」


 ナイスチョイスをしたのか、伏見さんの表情がキラキラと輝きだす。


「貴方もファッションヴィンテージヴォーグ女性ダイヤル層レッド&ブラックレザーストラップブレスレットクォーツアナログレディースカジュアルパーティー腕時計に興味があるの?」


 なげー。

 何一つ覚えることができなかった。

 早口言葉か何かですか?


「腕時計に興味があるというか、伏見さんに興味があるというか」


「私に興味があるの?」


「あ、べつに変な意味はないですよ!」


 勢いとは言え、つい変な発言をしてしまった。

 話題を続け、今の発言を無かったことにしよう。

 えっと、えっと、伏見さんと言えば――


「時間厳守である伏見さんだから、もっとハイテクでGPSとかBLUETOOTHとか付いてる電波時計をしているかと思ってました。なんでゼンマイ式のレトロな時計なのかなーって」


 簡単に壊れることはないだろうが、レトロな古時計なんていつ壊れるか分からない。

 俺だったら耐久性のある最新のGショックとか買っちゃうかな。


「桜咲君の言いたいことも分かるわ。確かに電波時計ならもっと正確な時間が分かるかもしれない。でも、本来私には時計なんて必要ないのよ。正確な時間は、この頭の中に入っているから」


「へぇー。すごいですね」


 伏見さんには脳内時計があるのか。

 ちなみに俺に腹時計がある。

 正確かどうかは知らないけど。


「でも、じゃあ、なんで時計なんてしてるんですか?」


「半分ファッションみたいなものね。なんていうか、これがないと落ち着かないのよ」


「大切なものなんですね」


「そうね」


 彼女は腕時計へと視線を落とし、寂しそうな表情を浮かべてしまった。


「これは、お爺ちゃんの形見だから……。手放せないのよね」


「形見……?」


 二人の間にすごくセンチメンタルな空気が流れる。

 楽しい話をしようとしたのに、なんでこんな暗いムードになった?

 あのレトロな腕時計がお爺ちゃんの形見だったなんて知らなかった。

『形見』と言うことは、お爺ちゃんはもう天国へと行ってしまったのか。

 しかも伏見さんの様子から察するに、この子はお爺ちゃん子だった。

 そんな辛い過去を思い出させるような発言をするなんて俺のバカ!!


「伏見さん。すいません」


「ううん。悪いのは私。ダメね。楽しいお食事中に昔のことを思い出して寂しい気持ちになるなんて。沈黙を破るために頑張って話題を振ってくれたのに、その思いを無下にしてしまった。反省するわ」


「いやいやいや、反省なんてしないでください! 悪いのは俺の方ですよ!」


「いや、私の方よ」


「いやいや、俺のせいです」


「私」


「俺です」


 こんな謝罪の応酬をしていたら埒が明かない。

 だから俺は考えた。

 この沼から抜け出すためにとるべき最善の策。


「なら、二人とも悪いということでどうでしょう?」


「賛成ね」


 そう言って伏見さんは優しく微笑んだ。


「でもおじいちゃんが少し羨ましいですね。形見を大切に使ってくれる伏見さんがいるなんて。きっと天国にいるお爺ちゃんもすっごく喜んでいるはずですよ」


「そうだといいわね。おじいちゃん天国でも元気にしているかしらね」


「はい。きっと毎日天国の温泉に入って、くつろいでいるはずです!」


 伏見さんは口元に手を当て「クスッ」と笑った。


「やっぱり桜咲君は面白いわ。暗い気持ちがどこかへ行って元気になったわ。ありがとう」


 一時は暗いムードでどうなるかと思ったが、軌道修正成功。

 二人の間にいつも通りの何気ない雰囲気が流れ始めた。


「そういえば桜咲君。食べ終わったらでいいのだけれど、今朝話していたお笑いの動画を見せてくれないかしら? なんだか楽しい気持ちになりたい気分なのよね」


「もちろん観ましょう! きっと笑えますよ」


 食事後も伏見さんと時間を共にで来るなんて……俺は本当に幸せだ。

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