日常編 第5話 お昼ごはんは誰と共に?
伏見さんと道端順子がお昼ごはんについての会話を繰り広げる。
会話の内容は『一緒にご飯を食べよう』と言うものだ。しかし伏見さんの返事はNOと言うことで二人の会話はあっけなく終了。これで道端順子が諦めて立ち去るかと思いきや……。
「とーこーろーでーさー。二人っきりで食べるってことは~~~誰かな?ー」
どうやらこの二人の会話はまだ終わってなかったようだ。
「理美ちゃんは今日~誰とお昼ご飯を食べるのかな~? 気になるな~気になるー。教えて教えて、あなたの気持ち!」
道端さんのリアクションがすごくオーバーだった。
そして声がデカい。そばにいるだけで頭が痛くなる。
「フフッ、道端さん、リアクションが少しオーバーよ」
うわっ。
俺が思ったことを伏見さんが口にしたのでドキッとした。
やはり皆、道端さんのこの動きを見て思うことは同じなのか。
続いてヤツ小悪魔的な表情で「もしかして~彼氏とか~?」と口にした。
しかし、伏見さんは動揺することなく焦ることなく「違うわ」と即答する。
さすが伏見さんだぜ。友人のふざけた発言にも平常心を貫く姿勢好き。
「なーんだー彼氏じゃないのか~。つーことはー彼ピッピとか?」
彼ピッピ? 原宿系女子を紹介するTVでしか聞いたことがないぞ。
二人に背を向けて『会話に興味がないアピール』をする。だが会話はシッカリと聞いていた。後ろで繰り広げられる二人のガールズトークから耳が離せない。
「男の子ではあるけど、彼ピッピとは違うわ。どちらかと言うと――友達かしらね?」
「友達かー。ざんねーん。じゃあ彼氏候補?」
「どうかしらね。まだ分からないわ」
「否定しないんだ。ひゅーひゅー。でもつまり、男の子ってことは確定なんだ」
「そうね。そこは間違いないと思うわ」
「友達で男の子ねー。理美ちゃんがお誘いするとなると、私らの上流階級グループの男子であることは確定でしょ。だとして、理美ちゃんにご指名をいただけるほど心を射止めたラッキーボーイは誰だろ?」
道端順子は、廊下側の方へと視線を向けた。
そこには机を合わせながら楽しそうにお昼を食べているグループがあった。
ヤツは楽しそうにお昼を食べるイケメンを見ながらニヤニヤし始める。
「あ、でも、それじゃ変か。あそこに集まってる時点で、理美ちゃんには誘われてないようなもの。つまり佐藤、静谷、味野は誘われリストから除外。それ以外となると、今頃は学食で弁当でも買ってるであろう、スタイルは格好いいけど性格がちょっと貧乏くさい阿久津を誘う予定?」
「いいえ」
「芋煮は――いや、頭はいいけど顔が微妙だから論外。上田はほぼほぼステータスはいいけどチビすぎる。理美ちゃんがお昼に誘う男子だとは思えない……んー」
「道端さん。今回のお話に出ている彼は、いつものグループの男子ではないわ」
「え? マ?」
「マ」
「そうなると……。他のクラスの人気者? 噂のハンサム君。 あ、分かった!! 一組にいるサッカー部のイケメンストライカーの早坂君とか!? さすが理美ちゃんお目が高い! 彼なら先日彼女と別れたばっかだから狙うなら今だよ! チャンスチャンス!」
伏見さんは小さく首を横に振った。
「いいえ。スポーツ部の部員ではないの」
「じゃあ、ワンランク下がって理系? それとも文系?」
「どちらかと言うと文系かしらね」
リアルに気になる。
伏見さんが言っている『お話の彼』とは誰のことなのだろうか?
現段階で分かっていることは、相手が文系であるということ。
「文系ってことはさぁー、三組にいる将棋部のイケメン棋士の駒崎新馬君?」
「いいえ」
「それとも四組書道部の矢富文司君?」
「いいえ」
「それともそれとも五組探偵部の琴鳥和人君とか! あ、でも彼には犬飼純名と呼ばれる彼女がいるから無理か。もしかして略奪恋!?」
全員知らないが、おそらく道端順子が言うのだからイケメンなのだろう。
女子はイケメンに弱い。やはり伏見さんもイケメンの方がいいのかな?
「残念だけれど、彼は部活には所属していないの」
「え!? な、何それ。部活に所属していないとか――下流階級じゃん」
変わり者集団のことを汚物のような名前で呼ばないでくれ。
俺らはボッチであることに誇りを持っている誇り高き狼だぞ。
「道端さん。ゲロは流石に失礼だと思うのだけれど」
そうだそうだ伏見さん!
差別主義者に言ってやれ――って、伏見さんの顔怖。
伏見さんの方へと視線を向けると、彼女は間違いなく笑顔だ。
だがその笑顔の奥には、間違いなく殺意があった。
にじみ出る威圧感にさすがの道端順子も気付く。
「ご、ゴメン。つい」
彼女はその表情に怯え、震えながら謝罪をした。
しかしすぐにいつものテンションを取りす。
「あ、わかった。そっか、部活に所属してないってことは、放課後の習い事があるから所属できないとか? イケメン・高身長・成績優秀。なるほどね、一流企業のぼっちゃんだね。よっ、玉の輿!! さすが理美ちゃん、お目が高い!」
「違うわ」
「違うかー……違うのかー……なんで違うんだろ……?」
道端さんは腕を組み、難しそうな表情で考え始める。
5秒ほど――考えたのか考えてないのかは知らないが、すぐに考えるのをやめて伏見さんの机の上に倒れこんだ。
「ゴメンギブ。分からない。所属してないってことは……帰宅部だよね?」
「そうね。あと、ヒントを出すのであれば、彼はこのクラスの生徒よ」
「このクラスの生徒で帰宅部。文系。文系ってことは本とか読んでる……」
「そうね。本は読んでるわ」
道端順子はその言葉でピンッと来たのか、なぜか俺の方へと視線を向ける。
「……うそ……でしょ?」
まるでゴミを見るような眼だ。
ドン引きしたような雰囲気。
すごくおぞましいオーラをまとう。
その恐ろしい眼に、何も悪いことをしていないのに申し訳ない気持ちになった。
なんで道端さんは今回の件とはまったく関係ない俺を睨むんだ?
「理美ちゃん……まさかとは思うけど……そのまさかじゃないわよね」
だからどうして俺の方を見る?
こっちみんな。目を合わせないでくれ。
「そのまさかよ」
「いやいやいや正気なの!? だってコイツはキモオタだよ。キモイオタク! クラスの腫れもの。存在しているだけでクラスの品位を落とすゴミカス。やることと言えば昼休みの本を読むだけ。私は1年の頃から同じクラスだったから分かる。コイツは体育祭も文化祭も協力しない社会不適合者! 生産性のかけらもない、道端に落ちているダンゴムシと変わらないダメ人間」
キモオタであることは認めるが、ほかは腑に落ちない。
そもそも競技の欄に俺の名前がないだけで、俺は体育祭には協力的だった。
毎年体育祭の数日くらい前に、クラス中で会議をやり、誰がどの競技をやるか話す。
その結果、○○ちゃんはリレー、○○君は棒高跳びと言った感じに全員が競技に割り振られる。しかし俺は1年の頃からハブにされているので、『どの競技に出たい?』と尋ねられることはまずない。先生が気を利かせて『桜咲、お前はどれに出たい?』と聞いてくるが、俺が答える前に、上流階級どもが「オタク出しても足を引っ張るだけじゃん。コイツを競技に出したらうちらのクラスは負け確定じゃん?」と猛反対する。先生は困り果てる。最終的に俺が「いや、いいです。今回も参加しないんで」と言って俺のターンが終了する。
俺はべつにイベント事に非協力的なのではない。そもそも協力させてもらえないのだ。
それをあたかも非協力的だと言われるのは、心底心外である。もし1年の頃から伏見さんと同じクラスだったら、今の俺のクラスでの扱いも少しはましになっていたのかな。
とは言え、俺が運動会に出たところで足を引っ張るのは確実だ。
毎日部活に出て努力している生徒と、帰宅してアニメを見ている俺とでは雲泥の差。頑張って競技に出ても負ければ「アイツのせいで敗北した」と言われるのはオチだ。人間には得意不得意があるわけで、スポーツが得意なヤツらだけ出しているばそのクラスは最強。少しでも学年一位を狙うことができる。それに俺は運動会って玉じゃない。出たところで見に来てくれる家族もいなし、応援してくれる友と呼べる存在もいないのでモチベーションがない。
あとは文化祭だ。高校1年の頃のアレは地獄だったな。
あれは完全にお前らが俺をハブにしてたからだろ。
俺は参加したかったにののけ者にしたのは上流階級だ。
自分たちだけ楽しそうにして、「何か手伝おうか?」と聞いたら「話かけてくんな。オタクが感染する」と嫌な顔をして言ってきたことを俺は一生忘れない。
半年くらい前のことを思い出したら少し不愉快になってきた。
「理美ちゃん!? 本気なの!?」
道端さんのクソデカ声の驚きに、クラスの連中もざわめき始めた。
上流階級の男子たちはご飯を食べる手を止めて固唾を飲む。
「あのさ、理美ちゃん。わかるよ。理美ちゃんが優しくて、捨てられた子犬に餌をあげちゃうような人だって。でもさ、それって人間と子犬の関係でしょ。それは決して対等ではない。そこのオタクに同情して、一緒にご飯を食べるってことならわかるよ。理美ちゃんとのお昼なんて、ソレにとっては一生の思い出になると思うよ。でも理美ちゃん、ソレのこと――」
道端さんは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「――友達って言ったよね」
「そうね。間違いなく、確実に、まごうことなく、ハッキリと言ったわ」
「友達と一緒にご飯を食べるって言ったよね」
「言ったわ」
二人の会話がヒートアップしてるなー。さっきからソレとかソイツとか、誰のことを言っているのだろうか? オタクで文系、その正体が少し気になってきた。
「コイツは理美ちゃんの友達に相応しくない。この野郎は友達なんて一人もいない陰キャボッチだよ。スマホを見ながら一人でニヤニヤしてる系のガチのキモいメンツだよ! 見てごらんよ! カバンには気持ちの悪いアニメの女の子のストラップとか付けているし、絶対にロリコンだよ。犯罪者のことを友達扱いとか信じられない!」
無礼者め!
誰が犯罪者だ!!
取り消せよ今の言葉!
このストラップのキャラクターは全員高校生の女の子だぞ。
白い子は柳生ちゃんで、ピンクの子は雲雀ちゃん。
もう一つの白い子は椎名唯華ともう一人のピンクの子は笹木咲だ。
に ど と ロリコン扱いするな くそが!!
――と言うか、やはり俺の話をしているのではないだろうか?
圧倒的にないとは思うが、ソイツ=俺……とか?
いやいやいやいやいやなんたる自惚れだ。そんな訳がない。
「コイツ、部屋とか絶対アニメのポスターやフィギュアでいっぱいだよ」
正解。
「スマホの壁紙だってアニメの女の子に決まってる!」
正解――と言いたいところだが、今はVtubeの壁紙だ。
数か月前まではアニメの女の子の壁紙だったがな。
「今も制服の下に女の子のTシャツを着ているに決まってる」
それは不正解。
冬なら着てくるかもしれないけど、4月はさすがに暑いから着ない。
「スマホの中は二次元のエロ画像でいっぱいに違いないんだよ! そして10分の1の確率でリアルの女の子のエッチな画像とかも保存してるかもだよ」
大大大正解。道端順子、恐ろしい子。
桜咲日々喜わかり手グランプリに出場したら優勝できるのではないか?
もしかしてコイツ、俺のことが好きだから意地悪してくるタイプ?
「……この男は未来の犯罪者だよ! 関わってもいいことないよ!」
前言撤回。この女は本当に俺のことを嫌ってるようだ。
あと何気に【犯罪者】から【未来の犯罪】に降格したな。
つまり今の俺は無害で、悪いことなど何もしていない善人だ。
「だいたいコイツさぁーイケメンでもないし、中流階級ですらない。しかもフツメン。学力も運動神経も中の下。こんなヤツを『友達』と呼ぶとかあり得ない」
ボキャブラリーの宝石箱だな。
人の悪口言ってて飽きないのだろうか?
俺はふぬけた顔をしながら耳を傾ける。
道端順子の悪態はまだまだ続きそうだった。




