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歓楽等部も【無双】を目指すんで、そこんところヨロシク  作者: 椎鳴津雲
零の章 とある少年の日々
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零の章 第十四話 終焉の日

 大切な者を失い、俺は悲しみに暮れていた。

 頭の中が真っ白なのに、時々過るはあの子の死の光景。

 なんで彼女は自殺なんてことをしてしまったのか。

 沢山考えて沢山悩んだけど、何も分からなかった。

 何も分からないが、分かることがいくつかある。


 それが――


「……クソッ……クソッ……なんでだよ……」


 この感情だ。 

 何もない自分に唯一残った感情。


【悲しみ】


 忘れたいのに思い出す。

 何もできなかった自分が悔しい。

 伏見さんの力になれなかった自分が悔しい。

 自殺する前に力に慣れなかった自分が悔しい。


「悔しい……悔しい……」


 階段で足を止める。悲しくて顔を覆った。

 流しても流しても、涙があふれてくる。

 さっきあんなの泣いたのに……なんで涙が止まらないんだよ……。


 どうしてこんなに辛いんだよ。

 

「なんで……なんで……思い出すんだよ……」


「何もできないと思うから、辛いことことばかり思い出すんだろ。何かできることがあれば、きっとお前は過去ではなく、まっすぐと未来だけを見るはずだ」


「……なんで死んじゃうんだよ……伏見さん……」


「死んだことには理由がある。この世界で起きる全ての出来事には必ず意味がある」


「もしかして俺のせいで……? 死んだのかも……俺のことが嫌いで……俺のことを本当は鬱陶しく思っていたのかもしれない……そうだよな。俺みたいなボッチと仲良くしていたら、伏見さんの株まで下がっちゃう。彼女の死は俺のせいだったのか」


「それは違う!!」


「……」


「日々喜ッ! 正気に戻れ!」


 背後から、俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 声の主の足音がサササッと俺に近づく。

 そして肩を掴まれ強引に振り向かされる。

 その人物は力強く俺の胸倉を掴んだ。


「冗談でもそれだけは言うな。お前のせいなわけねーだろ! あの子はな、お前といる時間が本当に楽しかったんだ。お前といる時間だけが、あの子がありのままの自分でいられる時間だったんだよ。なのにお前はあの子の株が下がるとか、周りの目が気になるとか、そんなことは全然関係ない。お前の思い込みだ。被害妄想。あの子はお前と一緒にいたかったから一緒にいたんだよ。憐みでも同情でもない。友達だから共に過ごすんだろ。あの子が死んだのはお前のせいなんかじゃない。これだけは断言できる。間違いないからこそ、絶対に『違う』と胸を張って言える。お前は悪くない! だいたい考えてみろ、お前のことが嫌いなら、七夕祭りの誘いにOKなんて出すか?」


「……」


「普通は受けねーだろ! 一緒に行きたいからこそ、あの子はOKを出したんだ」


 胸倉を掴んできた人物が、自分のマイナスな思考を全力で否定する。


「日々喜。お前は悪くない。悪いんはこの世界の運命なんだよ」


「……世界? 運命?」


「そう。だいたいは世界と政治が悪い。そして運命も共犯だ」


 そう呟くと、相手は俺の胸倉を離してくれた。


「感情的になってすまん。だからそろそろ俯いてないで顔を上げてくれ」


「……」


 暗い気持ち。このまま孤独に帰るつもりだった。

 だけど、廊下で声をかけてきてくれた謎の人物のおかげで、少しだけ、ほんの少しだけ暗い気持ちが晴れたような気がした。


 それに彼の声。なんだか落ち着く。

 聞き覚えのある男の声だった。

 俺は涙を拭いた。

 そしてゆっくりと顔を上げた。

 

「やっと顔を見せてくれたな日々喜――って、酷い顔してんな」


「……?」


「なんだその腫れた目は!? 鼻水もすごいし、汚ねーな。まったく、あの日(・・・)の俺にそっくりだ。俺が決意した日と同じ。泣くことしかできなかった弱い自分。そんな傍観者だった頃の俺と同じ顔をしてやがる」


 笑顔を浮かべるその男。

 目の前に立っていた男の姿。

 やつの顔が、目に写り込む。


「――え?」


 驚いた。驚いて驚いた。

 制服。髪型。容姿。雰囲気。


「え?」


 間違いなく何もかもが――


「俺だ。え、俺?」


 俺が俺と目を合わせている。

 まるで合わせ鏡だった。

 絶望する俺とは対照的に、彼はニッコリと笑う。

 不思議な笑みだ。明るくて暖かい優しさの笑み。


「どうして俺が二人? 幻覚? トリック? ホログラム??」


「よく聞け、もう一人の桜咲おうさき日々ひびき


「もう一人の俺? じゃあ、お前も本当に桜咲日々喜なのか? え、どういうこと?」

 

 混乱した。

 ちょっと今日は頭が追い付かない。

 伏見さんの死。もう一人の俺の登場。


 え……?


 ……え?


 どういうこと?

  

「俺は伏見さんを失ったショックで頭でもおかしくなったのか?」


「そんなんじゃねーよ。お前はどこからどう見ても正常だ」


「いやいやいや、正常な人間はドッペルゲンガーなんて見ない」


「まぁ、なんでもいいか。とりあえずお前は正常だから黙って聞け」


「あ、はい……」


「本来であれば今年の12月24日が終焉の日だった」


「終焉の日? 何言ってんだお前?」


「12月24日、何千年に一度来ると言われているレベルの大災害が発生する」


 あ、こっちのペースに関係なく説明が始まるんだ。


「その大災害により、老若男女問わず多くの人間が命を落とす」


「命を落とす? ……ハァ? え、多くの人間が今年のクリスマスイブには死ぬってこと?」


「死ぬ人間と死なない人間がいる」


「ちなみに……俺は?」


「お前も死亡リストに入っている」


「……俺が……死ぬ……?」


 何を言うかと思えば、終焉だの死だの。意味が不明だ。

 21世紀にも関わらずノストラダムスの大予言を信じるタイプの人間か?


「嘘くさ。何が終焉の日だよ。意味が分からない」


「分からなくていい。いきなりこんなことを言われて、『うん、分かった』と言うヤツの方がおかしいかなら。だから分からなくていい。正直言ってしまうと、今はどうでもいい」


「俺の死がどうでもいいことなのかよ」


「大事なのは、これから話すことだ」


「……これから?」


 12月24日に来る終焉の日よりも大事なことがあるのだろうか?


「実は……」


 先ほどまで意気揚々と説明していたもう一人の俺の顔が曇る。


「なんだよ。なんでそんな顔すんだよ?」


「いや、心の準備がナ……。お前には伝えなきゃいけないことがある」


「……だからなに? 早く言えよ」


「俺とお前が出会ったことにより、世界のメインシナリオが大きく分かってしまった」


「メインシナリオ?」


「どうしてこんなことになったか分からないが……これが世界の選択と言うことだ」


「ハァ?」


「包み隠さずにいうと、二人の接触により、終焉の日に変動が発生した。大災害で発生する人々の死期が大幅に縮まってしまった」


「死期が縮まった? 予定よりも早く死ぬってこと?」


「その通りだ。その結果、終焉の日が12月24日から7月7日となってしまった」


「へー」


 仮のこの話が本当だとして、5ヶ月も短縮されていた。

 つまり俺らの命は……俺等の命は……あれ? 待てよ。


「7月7日? ……七夕? え、きょ、今日が……終焉の日?」


「ああ。そしてこれから次々と人が死んでいき、数時間後には大災害が起きる」


 いやいやいやいや、馬鹿げている。

 なんてアホらしい話だ。

 この男は何を言っているのだろうか?

 崩壊とか、死期とか、終焉とか……。


 だけどなぜだろうか、彼が嘘を言っているようには見えない。

 俺は冷静だ。冷静だと思うが頭がプチパニックになりそうだ。

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