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第九話 花を取り替えた者たちは

 “琇静花”の立后が決まった。


 その知らせを知った琇家では大きな騒ぎが起きていた。


『もし入れ替わりが発覚すると、一族が……いや、使用人さえも生きてはいられないのでは』

『そもそも卑しい身分の彩花が皇后になるなど納得できるか』

『静花お嬢様であれば、この家の格もあがったかもしれないけれど……ご当主様の出世は形ばかりだとか』


 使用人たちの間では、あちらこちらでこの内容が語られている。

 そして、それは雲海の耳にも届く。


(皇子を産むこともなく、皇后だと……? あの娘、どういう手を使った)


 功績の件は聞いてはいる。

 ただ、信じられるものではない。

 そんな能力があるという予兆は、屋敷にいたときにはなかったはずだ。


(たとえ偶然のことであっても、恩知らずであること甚だしい。我が家の利益が、あまりに小さい)


 そもそも、本来ならば彩花ではなく静花が今の地位にいたはずだ。


「……お父様、お顔の色が悪いようですが、お疲れが溜まっているのではありませんか」

「あ、ああ。静花か。大丈夫だよ。少し、驚くことがあってね」

「噂は耳にいたしました。彩花が、皇后に選ばれたことですね」

「ああ……もう知っていたのか。本来ならお前がその立場になるはずだったにもかかわらず……。あいつは恩も忘れたのか、碌な利益を我が家にもたらすこともしない。腹立たしくてね」

「お父様。彩花は私の身代わりとして向かったのです。私が与えられるだろう職務に耐えれないせいで、私は行けなかったのです」


 静花に申し訳なさそうに言われ、雲海は黙った。

 当初から自分が向かうと静花は訴えており、体調を理由にそれを蹴ったのは雲海だ。当人から言われれば、黙る他ない。

 言うまでもなく娘を責めるつもりは一切なく、そう思わせるようなことがあっても不本意だ。


「彩花がどういう経緯で皇后となることになったのか、私にはわかりません。ですが、彩花だからこそ成功したのでしょう」

「……お前がそういうのであれば、そう信じよう」

「立后の儀が秋の大祭と同時に行われると聞きました。元気にしている顔が見られる機会があるよう、願っております」


 娘のあまりに穏やかな様子は、自身の怒りを娘に見せるのが恥ずかしいことであるように思わせた。

 彩花に対する苛立ちが和らぐことはない。

 だが、静花の前ではこれ以上言ってはいけないと、雲海は思うことにした。



※※※



 雲海に対し優等生の回答を行った静花は、その姿を見送った後目を細めた。


(本当に、疎ましいこと)


 出会いは本当に偶然だった。

 ほとんど街に出ることができない身である中、幼い頃にひっそりとお忍びで出会った孤児(みなしご)の娘。

 

 自身と瓜二つである姿を見たとき、静花の中には強烈な欲求が湧きあがった。


 どうすれば自身が『良い子』だと思われ続けるのか、幼い頃から静花は理解していた。だからそのように振る舞っていたが、精神的な疲れは出る。

 その疲れをどうしたら解消できるのか、それまでは把握していなかった。


 だが、その娘を見た瞬間に理解した。


 自分とそっくりで、自分より劣る者を見ていたら、優越感を得られるのではないか、と。

 それは満足感となり、日々の鬱憤を晴らせられるのではないか、と。


 自分が可愛がれば可愛がるほど、彩花と名付けたその娘は周囲から疎まれた。

 同じように芸事を学ばせても、すでに始めていた自分の方が上手くでき、その差は縮まらない。もとより使用人としての仕事をする彩花には圧倒的に練習時間が不足しているので上手くなるはずがない。


(それでいて誰よりも私に対する忠誠心をもって仕える、可哀想な子)


 そう、そうして可哀想な子でずっといてくれればよかったのだ。


 自分から離されては、今までの楽しみが無くなってしまうと思った。

 いや、ただそれだけで済んでいたのならば、まだよかったのかもしれない。

 別の気晴らしを考えるという手もなくはなかった。


 だが、可哀想な子であったはずの娘が自分の名を使い皇后となり、今度は自分が哀れまれている。

 そのようなこと、誰が許せるだろうか。


(私が可哀想な子に、どうしてならなければいけないの)


 彩花を後宮に追いやった父親も恨みもあるが、彩花自身に対する憎しみもある。

 なぜ、どのような場所でも輝こうとするのか。


 それが心底腹立たしかった。


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