第八話 経緯
皇太后の手前、いくら彩花でも気を遣わず暁綺を問い詰めることは不可能である。
そのため一旦「詳しくはまた夜に話す」と言った暁綺に同意せざるを得なかった。しかしそれさえ周囲の侍女たちからは微笑ましく見られていた。
そして、夜。
「で、本当にどういうことなんですか」
「お前と約束していたのは生命の安全だろう。立場が上がれば護衛の女官も門番もつけられる」
「いや、それはそうかもしれないですけど! 皇后ってもっと利益がある人を選びません!?」
少なくとも琇家の実力、そして彩花がもともと後宮入りすることを前提に教育されているわけではないことを考えると皇后の位に据える意味は非常に薄いはずだ。
「むしろ、皇后がなにをするのか私はまったく把握してませんよ! それに皇后なんて早々にクビにはできませんよ!?」
「別にお前に今までの皇后の働きなんて期待してない」
「でしょうけど!! って、なんでそれで皇后なんかに!」
「いいだろ、別に。宝花の件に加え皇太后の件。まあ、皇太后が貴人病だったことは伏せているから、貴人病の治療法については別件となり、表向きには三つの功績となるわけだが……いずれにしても、ほか見合い、周囲を納得させる褒美があるか?」
「いや、知りませんけど!」
「なんだ、そんなに嫌なのか」
もう決定していることだろうし覆らないだろうことは理解しているが、やはり彩花としては問題しかないように思う。
「だって私の状況はご存知じでしょう! 身分があまりにも違うでしょう!」
偽物の令嬢だと説明までしているのに、それをあえて据える必要が本当にあるのだろうか。
「だからこそ、皇后になれば琇家もお前を蔑ろにできんだろ。多少無茶を要求しても、お前の立場を考えば飲まざるを得ない」
「え……まさか、これ、本当に嫌がらせではなく私のためなんですか?」
「私にも利点はある。皇后の功績は皇帝の評判も上げる。今後のことを考えれても損はないだろう」
「ちょっと待ってください。今後って、まだ何かある予定が?」
「ないとは言い切れんな」
そんなバカなと彩花は思ったが、二度あることは三度あると言う。困難がもう一度くらい降りかかっても不思議ではない。
「琇家にも適度な位は与える。お前は当主を好いていないだろうが、養女の療養に苦労しない支援は行おう」
それを聞いて彩花は目を瞬かせた。
(もしかして……褒美って、こっちのこと?)
皇后になることは彩花にとって本当に有益であるとまで思い難かった。確かに身の安全は保証されるが、いくら期待されてないと言われても精神的にしんどそうだし堅苦しそうだと感じそうだと思ってしまう。
だが、静花のことを考えるとこれは恩返しにも十分なりうる。
「まぁ、琇雲海のやり方や性格は腹立たしいので、引き続き本来望めるほどの出世はさせないが」
「そこは陛下の思いのままになさってください。私からの希望はございません」
一応騙された身としては思うこともあるだろう。ただ、本物が良かったというようなつもりで言っているわけではないということはわかる。
「ただ、皇后として秋の大祭の仕事はいくつかある。だいたいは例年通りで、今まで皇太后陛下がなさってきたことだから難儀はないはずだ。燕月妃にも手伝いは頼んだ。双方大喜びだったぞ」
「それは……助かります」
働きは期待していないと言われたはずなのにという思いが全くないわけではないが、そこまでお膳立てされていれるのなら仕方がないことでもあるのだろう。
「正式には秋の大祭で宣言する形となるが、内定の触れはもう出している。だから琇家にも伝わっている」
「なにを思いますでしょうなぁ、雲海様は」
「さぁ。大祭でお前に頭を下げることが避けられないことに頭を悩ませている可能性もあるな」
少し意地悪くそう言った暁綺に彩花は思わず吹き出した。