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第六話 貴人病

「皇太后陛下には相当変わった妃だとすでに伝えている。心配は不要だ」

「それはそれで心配ですけれども」


 一体どんな人間だと吹き込まれているのかと思う言葉だ。


「ただ、皇太后陛下はあまり体調が優れない。面会は短時間の予定だが、急遽予定が変更になることも覚えておいてくれ」

「私は基本暇なので気にしないでください。なんなら、お加減が良くなってからでも十分では」

「治るとは限らん。……皇太后陛下は貴人病だ」


 貴人病。

 その病名に彩花は固まった。

 声を落として伝えられたその病気は治療法が確立されていない病気である。

 手足の先が麻痺したり、下肢に浮腫が現れたりするのが典型的な症状で、病状が進行すると呼吸困難になり、死に至るとされている。

 罹患するのはもっぱら高貴な身分の者ばかりであることから、その病名がつけられている。


(……でも、面会が可能だということは進行度合いはまだ重症というところではないのね)


 しかし謎の奇病とされているので気味悪がられることが多い。悪霊の仕業と噂する声もある。


(一度も聞いたことがなかったということは、病名は伏せられているのよね)


 しかし病名を誤魔化したとしても、なんらかの病気で伏しがちであることには変わりない。


(もしかすると、陛下の退位を狙う連中は皇太后が不在同然の状態であることで活動しやすくなっていたりするのかしら……?)


 暁綺は何も言っていないが、様々な人脈を持つだろう皇太后ならば影響力が大きくとも不思議ではない。

 もし皇太后の病が暁綺の地位を危うくしている面があるのであれば……。


「あの、陛下。私もしかしたら皇太后陛下がその病気に打ち勝つためのお手伝いができるかもしれないです」


 想像が当たっていれば、皇太后の治癒次第で暁綺の地位の安定に寄与できる。

 その結果自分の平穏に繋がるなら願ったり叶ったりだ。


「まさか、治せるというのか?」

「必ずとはいえませんが、お世話をさせていただいた方……雲海様の妾様なのですが、彼女が病の時に看病に従事し、その後回復したことがございます」


 もともとは身体が弱い静花がもし貴人病に罹ってしまったらと思い、治す方法がないかあらかじめ調べ始めたのがこの病について詳しくなるきっかけだった。

 都で病に罹ったものでも地方で療養するうちに治った例があると知り、色々と調べた。

 だが、調べている最中に雲海の妾が貴人病になり、屋敷の者が近付かないので彩花に完治するまで世話をするよう命じられた。その際、治療法は当然のことながら不明であるままだった。

 それはちょうど雲海と妾の関係が悪くなり出した時期で、彩花は食事から洗濯まで彼女の一切を引き受けたが、与えられる食材は使用人のそれが二人分だった。

 そのまま妾が亡くなれば彩花の責任にできるし、雲海としても妾に情を残していなかったのだろう。むしろ娘と彩花を引き離すには都合が良いと喜んだのかもしれない。


 だが、結果的に妾は回復した。

 難治性の病が治った理由は不明だったが、雲海を始め周囲は偶然だ、妾の生命力が異常に高かったなどと判断した。


 一方、彩花は通常の看病と何か違いがあるのではと考えた。

 とはいえ、特別なことはしていない。ただ、食事が使用人のそれであること以外は。


 妾は元々少食な人で、白米や甘味は食べるが、そのほかはあまり食べない人だった。

 だが、彩花の世話が始まって以降は白米は手に入らない。ゆえに玄米に野菜を食べざるを得なかった。


 そこで彩花は過去に都から離れ貴人病が治った人についてもわかる範囲で調査し、地域としての食事習慣の違いに気付いた。


「……ということですので、食事が回復のきっかけになる可能性があります。明確ではありませんが」

「そうか。……皇太后陛下にお尋ねした後にはなるが、試す価値は十分にあるな。お前も、ある程度確証があるから言っているんだろう」

「私が実際に見た人は一人なので、確証とまではいえません。ただ死をただ待つくらいなら、可能性に賭けることも悪くないのではと思うのです。欠点としては不慣れな食事を強いられることですので、最終的にはご本人の希望次第だと思います」


 絶対できるとは口が裂けても言えないと予防線を張りながらも、身の安全がより確固たるものになるのであれば協力は惜しまない。

 国にとって重要な皇太后だからというよりは、自身の安全に関わる人物であるのでできれば試してほしいとも思う。


「わかった。ただ、この話は人に聞かれたいものではない。新たな治療法を取り入れるといっても、効果が現れなかった時に嫌味を言われるのは目に見えている」

「では、どのように?」

「神事でも利用する食材を食事に用いることにでもするか。お前のところの作物だ。宝花のこともあり、験を担ぐと捉える者もいるだろう」

「なるほど。それだと、私がお食事をご用意しても自然ですね」


 食事中に他の人間が滞在する必要はない。

 作った者が、ましてや妃がそこにいて毒味をするのであれば、むしろ必要性は低いだろう。

 加えて奇病の患者に可能な限り近づきたくない者たち……いわば、皇太后を心から慕っているような者達を除けば、代わりに世話をする人間が現れるのは喜ばしいはずだ。


「効果がでるまで、どのくらいかかる」

「わかりません。妾殿の場合は完治まで五ヶ月を要しましたが、状態によるでしょう。軽い場合は早いかもしれません」

「そうか」


 なるべく早く効果が現れてほしいのは彩花も同じだ。


「全力を尽くします。陛下の地位の安泰が、私の生活の平穏をもたらしてくださるはずですので」

「……頼む」


 それは、皇帝としての言葉だけではないように彩花は感じた。

 一言も言ってはいないが、やはり母を想う気持ちがあるならば、その不安を取り除いく手助けはしたい。


 親の記憶がない自分にはない感情だが、失うことが悲しいことだということは彩花にもわかることなのだから。



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