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第1部 第8話

 現場の山へと向かう間、ヒイロはイクミにからかわれたことばかり考えていました。


「くそ~。あれ絶対俺にエナジーバーを受け取らせるために会話に入ってきたんだよ。はあ~。まあでも、アジキさんが会話に入ってこなくても受け取ろうとしてたから、アジキさんのことばかりを責められないんだよなあ。」とぼやいていましたが、ふと(アジキさんは、ヤハギさんがポケットから出したものを食べることに抵抗はないのかな?)と疑問に思いました。

(アジキさんが抵抗があるなら、もう一本エナジーバーを出させないで自分が持っているものを渡すよな?きっとアジキさんは抵抗がないんだ!どうして抵抗がないんだろう?)と疑問に思ったヒイロは、イクミの叶えてもらった願いごとが『食べ物をおいしく食べられるようになりたい!』だったことを思い出しました。それと同時に「小学生の時、食べ物の好き嫌いが激しくて母親を困らせていたから、『食べ物をおいしく食べられるように』とお願いした。」と、イクミがクラスメイトに話していた姿をヒイロは思い出しました。


「アジキさんがその能力のおかげで『賞味期限が2,3ヶ月過ぎたものでもおいしく食べられる!』って自慢しているのを見たことがある!そうか!だからアジキさんはヤハギさんがポケットから取り出したものでも気にせずに食べられるのかもしれない!」疑問を自分なりに解決して満足しているときに、ヒイロは遭難者が出た山に着きました。


ヒイロは捜索隊に加わるために登山道の入り口にやってきました。そこには、警察の山岳警備隊の本部があり、作業着を着た大人が慌ただしく動いていました。ヒイロは何回か遭難者の捜索をしたことがあるので、どうすれば捜索隊の邪魔にならずに詳しい情報を得られるか把握していて、ヒイロはとある人物を見つけるためにキョロキョロとしていると、「おーい!ヒイロくん!こっち!こっち!」と聞き覚えのある声が聞こえてきました。ヒイロが声のする方に視線を向けると、そこには顔馴染みの政府官僚、向井がいました。


「お久しぶりです。ムカイさん。」ヒイロが挨拶しながら近づくと、「久しぶり。いやー、予定の時間になっても来ないから、今日は来てくれないんじゃないかと思っていたよ。よかった。来てくれて。」ホッとした表情でムカイは答えました。


「すみません。ちょっといろいろあって遅れました。」


「いや、いいんだよ。遅れたって、こっちの要請に強制力はないんだから。」


「本当にすみません。」


「いや、せっかく来てくれたんだから話を早く進めよう。それにすでに2人の子が手伝ってくれているしね。」


「えっ⁈2人って、ツバサ以外にも誰か来ているんですか?」

いつも遭難者の捜索はツバサと2人かどちらか1人でしたので、ヒイロは驚いて、つい質問してしまいました。


「あっ!そうだった。そうだった。ヒイロくんは会ったことなかったかもね?人見親ヒトミ・シンくんって子が今日は手伝いに来ているよ。もう捜索隊に加わって山に入っているから、あとで紹介するよ。」


「そう、ですか。今まで一度も会ったことないんですけど、いつもは断っているってことですか?」

いくら強制力がないとはいえ、人命がかかっている遭難者捜索を断っているのなら、考え直してほしいという憤りを隠せないままヒイロはムカイに質問しました。

ムカイはヒイロが考えていることを察知して、ヒイロの誤解を解こうと冷静に答え始めました。


「ヒイロくん、実はシンくんが普段遭難者の捜索に来ないのは、要請を断っているからではなくて、別の要請が出ていてそっちに行っているからなんだ!」


「別の要請ですか?」


「そう。それはシンくんのもらった能力が関係しているんだけど、シンくんの能力はある一定の範囲のどこに人がいるのかを感知する能力なんだ。だから山や海での遭難者の捜索でも力を発揮できるけど、火事の現場で生存者はどこにいるのかとか、立てこもり事件で犯人と人質がどこにいるのかとか、そういう場面でもすごく力を発揮できるから、普段はそっちの現場に多く出動しているんだよ。ヒイロくんとシンくんが会ったことないのはそういう訳なんだ。」


「そうだったんですね。失礼しました。」


「いやいや、誤解が解けたみたいで嬉しいよ。」

ムカイはヒイロの表情をみて、ホッとした表情をしていました。


「では、本題に入るけど今回行方不明になったのは佐藤慈郎サトウ・ジロウ)さん、65歳、登山が趣味でよく休日は1人で山登りしていたらしい。家族の話によると一昨日この山に登りに来て、お昼ごろ電話があったがその後連絡がなく、夕方に到着する予定だった山小屋から『夜になってもサトウさんが来ない。』という連絡をご家族が受けて、昨日警察に連絡したという訳。あっ!これがご家族の方から借りてきたサトウさんの写真ね。」

ある程度説明した後ムカイはサトウジロウの顔の画像が印刷された紙をヒイロに手渡しました。ヒイロはそれを見て、口の周りにひげを蓄えた人の良さそうなおじいさんだなと思いました。


「ヒトミさんは飛べないから、登山道を登りながらサトウさんを探しているんですよね?ツバサはどこら辺を探しているんですか?僕は別の範囲を探すので教えてください。」


「あ~。ツバサくんね。ツバサくんは先に来てくれたから、捜索範囲が広い勾配の低いコース周辺を捜してもらっているよ。だからヒイロくんは勾配が急な上級者向けコース周辺を捜してほしい。」


「わかりました。じゃあ、早速行ってきます。」

ヒイロがすぐに向かおうとすると、「ちょっと待って!ヒイロくん!」ムカイに呼び止められました。

ヒイロは早く向かってサトウさんを見つけてあげなきゃいけないという焦りを感じながらも「どうしたんですか?ムカイさん?」と答えました。

するとムカイは「これ、持って行って。エネルギーを補給するためのゼリー飲料と水が入ってる。サトウさんを見つけたらすぐに渡してほしい。あと連絡が取れるようにトランシーバーとGPSの発信機も入っているから。」と中身の説明をしながらヒイロにリュックを渡しました。


「あっ!すみません。ありがとうございます。」ヒイロはリュックを受け取りながら、自分がちょっと焦っていたことを反省しました。ヒイロはリュックを背負い、「じゃあ、行ってきます。」と挨拶をして、サトウさんを捜索に向かいました。





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