第3部 第15話
「はぁ~。」
「アツイ」が来る前の○○病院のエントランスにため息をついて浮かない顔をしている少年がいました。それは高校一年生になったトキワ・ゲンキでした。
何故浮かない顔をしているのかと言うと、8年間、ほぼ毎日行っているゲンキの授かった能力で病人やケガ人を治療する方法を見つけるための実験をしなくてはいけないからでした。実験と言っても、体にメスを入れたり、研究中の薬を投与したりするわけでなくて、病人やケガ人に実験の目的をちゃんと説明して許可を得てから、ゲンキが患部を触ったり、念を送ったりして病気やケガが治るかどうかを確認するというものでした。
もちろんこの8年間、そんな方法で病気やケガが治った人はいませんでした。何故ならゲンキの能力は「どんな病気やケガも治せる」というものではなくて、「自分自身のどんな病気やケガも治る」というものだったからでした。
「治るかどうかは分からない。」と説明はしていましたが、実験に協力してくれた人たちの目が希望から絶望に変わっていくのを8年間見続けたゲンキは、「あんな嘘なんてつくんじゃなかった!」と常に後悔していました。それでも研究者の一人が「ゲンキくんの血を病人やケガ人に輸血してみたらどうだろう?」と提案してくれたことは、ゲンキにとって救いになりました。そのおかげでゲンキの血に病気やけがを治す力があることが分かり、血液型が同じ人の病気やケガは治すことができました。しかも血の量はごく少量でよかったので、1回の献血で多くの人を救うことができました。しかしゲンキの血による治療法では研究者は満足せず、いまだに実験は続いていました。
「はぁ~。いつまで実験は続くんだろう?」
ゲンキは実験の開始時刻になってもなかなか向かうことができず、病院のエントランスに設置された椅子に座ってため息をついていました。
「もう実験の時間だけど行きたくないなぁ。仮病を使って休めたらいいのになぁ。でも僕には無理だもんなぁ。はぁ~。」
ゲンキは仮病を使って実験を休もうとしなくても、実験自体を終わらせるには一言打ち明ければ済むことが分かっていたのですが、周りの人の期待を裏切りたくなくて打ち明けることができませんでした。
ゲンキは(これ以上遅れちゃ悪い。)と思い、重い腰を上げて実験室に向かおうとした時、ムワッと熱気を感じました。
(あれ?今日こんなに暑かったっけ?室内でこんなに暑いのにクーラーつけてないのかな?)
ゲンキが疑問に思って辺りを見回してみると、周りにいる人たちも暑そうにしているのが見て取れました。そして熱気がある方向から強く感じられることにも気づきました。
その方向の先には背の高い体中黒ずくめの人が受付の人ともめていました。ゲンキのいる位置からは黒ずくめの人と受付の人との会話はよく聞こえませんでしたが、黒ずくめの人がヒートアップしてくると熱気が強くなってくる気がしました。
「もういい!こっちが下手に出ればいい加減なことを言いやがって!ここにいることは分かっているんだ!どこにいるか教える気がないなら、自分で探すことにする!」
そう言って、黒ずくめの人は病院の中へ進もうとしました。
「待ってください!本当にあなたがおっしゃる方はこの病院には入院していません!」
受付の人が黒ずくめの人を呼び止めようとすると
「ほほう、まだそんなことを言うのか。そんなふざけたことを言うのはこの口か!」
黒ずくめの人が受付の人の口の辺りを横から挟むようにガッと掴みました。
「何…するん…ですか!放して…くださ…アーーーー!」
受付の人がもがいていると、黒ずくめの人が掴んでいる口の辺りから火が出始めて、数秒後には受付の人の顔が火だるまになってしまいました。
「キャーーーー!」「うわぁぁぁぁ!警察だ、誰か警察を呼んでくれ!」
受付の人の顔が火だるまになったのを見て、周りにいた人たちが騒ぎ始めましたが、まだ人型の怪物が現れたことがあるという情報を一般の人は知らなかったので、黒ずくめの人が怪物だと気づく人はいませんでした。
黒ずくめの人が燃えている受付の人の顔から手を離すと、受付の人の体はドサッと床に倒れました。そして、黒ずくめの人は自分を避けて病院の出入り口へと向かう人たちの中を悠々と通って病院の中へと向かっていきました。
そんな中でゲンキは、逃げるという決断が出来ずにただ立ち尽くしていました。何故逃げるという判断ができなかったのかと言うと、それはゲンキが病院に入院している人たちのことを放って逃げ出すことができないくらい、よく言えば責任感が強く、悪く言えば小心者だったからでした。
(どんなケガも治る自分が先に逃げたことが世間にバレたら、助かった後で世間から酷いバッシングを受けるだろう。)と考えて逃げ出せずにいるほど小心者でした。
もしゲンキが小心者でなかったら、8年前主治医に自分の能力を聞かれて嘘をつかなかっただろうし、今○○病院にいることもなかったかもしれません。




