第1部 第25話
数分後、サッカー部のグラウンドが見える校舎まで来ると、もうすでに何人もの生徒が窓からサッカー部のグラウンドを見ていました。チヒロも人があまりいない窓から見てみましたが、人があまりいない所は他の所よりグラウンドから遠くてよく見えませんでした。それでも火柱が起こったり、水しぶきが飛んだりしているのがかろうじて見えました。よく見ようとチヒロはポケットから双眼鏡を取り出して覗きました。すると黒い人型の怪物に対して火や水などで攻撃している生徒が数人いるのが見えました。しかし、怪物を攻撃しているのを周りで見ていた生徒だけでなく、さっきまで怪物を攻撃していた生徒の中にも攻撃が効いていないことに気付き、逃げだしている生徒がいるのも見えました。
「やっぱり!普段怪物退治している人たちは、パトロールを国から要請されて今学校にいないから、怪物退治なんてしたことない人たちが怪物に対処しているけど、全然効いてないように見えるよ!トモ!」
チヒロが話しかけると、トモは窓から離れた所でしゃがんで震えていました。
「どうしたの?トモ!大丈夫⁈」とチヒロが聞くと「ヤバいよ、チヒロ。あの怪物ヤバい。」とトモは心底怯えながら答えました。
「もしかして、聞こえるの?あの怪物の考えていることが?」
「うん。あの怪物、こう言ってる。『お前ら全員皆殺しだ!』って。」
犬山知がもらった能力は「動物の考えていることが分かる」といったものでした。ですが怪物の考えていることまで理解できるとは、この日怪物を生で見るまで本人も知りませんでした。
「あぁー、もっと頑張れよ!逃げる判断するの早過ぎだろ!」
「あぁ~あ、これで全員逃げちゃったね。」
窓から怪物退治を見ていた人たちのこの発言を聞いて、チヒロはトモを心配しながらもまた窓から双眼鏡でグラウンドの方を覗きました。するとさっきまで数人いた怪物を攻撃していた生徒たちが、怪物に背を向けて逃げている様子が見えました。
(誰も攻撃しなくなったら怪物が攻撃してくるかもしれないのに、全員背中を見せて逃げるなんて危ない!)とチヒロが思っていたら、案の定怪物が動き始めました。
しかし怪物の動きはノロノロと遅く、その上逃げる生徒たちとは違う方向に動いていたので、窓から見ていた生徒たちは「なぁんだ、これならあいつらいらなかったじゃん。」
「確かに!攻撃が効いてたんじゃなくて、ただ動きがノロかっただけみたい。」と怪物を攻撃していた生徒たちを馬鹿にするような発言をし始めました。チヒロがそんな発言に苛立ちを覚えながら、怪物の動きを注視していると、怪物はサッカーボールが入ったかごの所までやってきました。
「おいおい、サッカーボールなんかで何するつもりだ?まさか1人でサッカーするつもりか?」
高みの見物をしている生徒たちはふざけたことを言い出す人もいましたが、チヒロはなんだか嫌な予感がしました。怪物はサッカーボールを手に取ると逃げる生徒たちの方を向き、振りかぶってボールをブンっと投げました。ボールは信じられないスピードで飛んでいき、逃げるのが一番遅かった生徒に当たりました。ボールが当たった生徒はそのままバタッと倒れて動かなくなりました。怪物はその後も逃げるのが遅かった生徒たちに向かって、凄まじいスピードでボールを投げ続け、更に2人の生徒を倒しました。
「おい、これまずいんじゃない。早く逃げないと。」
「うん。そうした方がいいかも。」
高みの見物をしていた生徒たちに動揺が広がりました。
「ねぇ、あれ見て!もう誰もいないのにボールを投げようとしてる!何するつもりだろう?」
動揺する生徒が多い中、目が離せなかったのかずっと怪物のことを見ていた生徒が周りの生徒たちに注意を呼びかけました。すると次の瞬間、怪物はグラウンドに一番近い校舎、つまりチヒロたちが怪物を見ていた校舎に向かってボールを投げました。近いと言っても怪物と校舎の距離は数百メートル離れていましたが、ボールの球威は全く落ちることなく、生徒たちが怪物を見ていた窓のガラスをガシャーンと簡単に割ってしまいました。




