第1部 第15話
「この店なんてどう?」
「えっ⁈この店?この店で売ってる服…着たことないような服ばかりだけど…?」
「それが良いんだろ!いいか?今までのヒイロは守りに入った服が多かったはずだ。なら、モテるために今まで着たことがない服も着てみる。そんな冒険心もモテるためには必要だと思うぜ?」
「…よしっ!この店に入ろう!」
ショウに言いくるめられて目の前の店に入ろうとしたヒイロの視界に、左手に風船を持って母親と手を繋いでいる女の子と向こうからやって来た男性の姿が映りました。男性は友人と話すことに夢中になっていて、向こうから女の子が来ていることに気づいていませんでした。ヒイロは直感的に(あっ、ぶつかる…!)と思った瞬間、女の子の肩と男性の左足がぶつかり、女の子が持っていた風船は空へ昇っていきました。
ぶつかった衝撃と風船が空へ飛んで行ってしまったショックで泣いてしまった女の子の母親に男性が謝っている姿を見ながら、ヒイロはどうするべきか答えが出ないまま動けずにいました。そんなヒイロの姿を横から見ていたショウは「あの風船、捕ってきてあげたら?」と、風船を見つめながら言いました。
「ここで飛んだら…目立つし…。」
「通学の時も要請があった時も迷わず飛んでるのに何でここで飛ぶのは迷うんだよ。ヒイロが飛んでいる姿なんてネットにいくらでも転がってるんだから、ここで飛んだところでどうってことないだろう?」
公衆の面前で飛ぶことに難色を示していたヒイロでしたが、ショウの言葉に背中を押されて「…じゃあ、行ってくるっ!」と、風船を捕るため空に飛びあがりました。風船を捕まえたヒイロは、泣いている女の子の傍に静かに着地すると「はい。もう放しちゃ駄目だよ。」女の子と目線が合うように屈み、笑顔で女の子に風船を渡しました。泣き止んだ女の子やその母親、女の子とぶつかってしまった男性にお礼を言われて照れくさい表情を浮かべたまま戻ってきたヒイロは、ショウの口角が上がっていることに気が付きました。
「お疲れ。」
「…うん。じゃあ入ろっか。」
照れくささを隠すかのように目の前の店に入ることをショウに促したヒイロでしたが、入店してもなおショウが自分を見てはニヤニヤする姿を見て腹が立つ反面、嬉しさを噛みしめていました。そのあと2時間くらい何軒か店を見て回りましたが、結局ヒイロは一番最初に入った店でショウに勧められた服を買いました。
時刻も13時を過ぎ、お腹が空いていたヒイロとショウはイタリアンレストランに入りました。それぞれパスタのセットとドリンクを注文した後、ヒイロは昨日のチヒロとの会話の内容を話し始めました。
「…というわけでヤハギさんの話だと、光のぬしは願い事を何でも叶えてくれるわけじゃないらしいんだよ。ショウはどう思う?」
「ヤハギさんは嘘をつく人じゃないしなぁ…光のぬしが”四次元ポケット”を知らなくて、その劣化版みたくなっちゃった可能性は否定できないかも。」
「そういうことなのかなぁ…。」
「ヤハギさんの言ってたことの根拠になるか分からないけど、ある国の調査機関の調査によると、8年前の光のぬし出現以降新たな独裁者が現れたり、世界における富の分配が変化したとかはないらしい。」
「…つまり?」
「権力とか財産といった方面の願い事を光のぬしは叶えられない、もしくはそんな願い事をしそうな人の前には現れなかったってこと!」
「なるほど…。」
「ヒイロは普段『もっと良い願い事を叶えてもらえば良かった。』って言ってるけど、空を飛びたいという願い事だから叶えてもらえたのかもね。」
「でもさ、チカラやツバサを見てると空を飛べるだけじゃない、こう…+α的なことも叶えてくれたんじゃないかな~?って思っちゃうんだよね。」と、日頃思っている疑問をヒイロがショウに打ち明けたタイミングで注文していたパスタが運ばれてきました。2人は運ばれてきたパスタの美味しさに興奮しつつ、会話の続きを始めました。
「本当の願い事に気づくと願い事を叶えてもらった瞬間のことを思い出すってヤハギさんが言ってたんだろう?ヒイロがまだ思い出してないってことなら、ヒイロの能力はまだ完全じゃないってことじゃん。」
「確かに…!ってことは、まだ+αの可能性があるってことか。それにしても、小学生の俺は一体どんな能力を願ったんだろうなぁ~?」
「…今の能力でもスゴいと思うけどな。俺は。」
「…ただ空を飛べるだけだぞ。」
「空を飛べるから昨日遭難者を救助することが出来たんだろ。」
「…。」
「それにチカラもヒイロのことスゴいって言ってたぞ。」
「チカラには昨日会った時に羨ましいって言われた。だけどさ、俺がチカラのことを羨ましく思っても、チカラが俺のことを羨ましく思うなんてありえないよ。」
「…ま、少なくとも願い事を叶えてもらってない俺からすれば2人とも羨ましけどな。」
「…ホント?」
「ホント。ホントに思ってる。2人とも羨ましいなぁ~。」
「棒読みだし…そういうことじゃない。」
「えっ?」
「ショウが願い事を叶えてもらってないってホント?ショウが休む度に俺は『本当は国とか自治体から要請を受けて出動しなきゃいけないから休んでる』って勝手に思ってる。…俺に隠してること、ある?あるならこの際だから話してほしい。」ヒイロは心の内に秘めていた想いをショウにぶつけました。
ヒイロの目から視線を逸らすことなく聞いていたショウは、少しの間うつむいて顔を上げるとヒイロの目をしっかり見ながら話し始めました。




