白と黒の回合
私の声は誰も聞いていない。必要とされていない。両親にも、兄弟にも。
愛されていないのかといえば、愛されているのだろう。それも、過保護なくらいに。それでも私の話は聞いてくれない。
それは私の容姿に関係がある。父であるローズ伯爵と五つ年上の兄は金髪翠眼、母と二つ年上の姉は金髪碧眼。そして私、フィーアのみが白髪の赤目だった。
周囲の者は、あるきっかけで私を悪魔の子と罵ることもあったが、家族だけは私を愛してくれていた。だけど……
「フィー、周りが何と言おうとも私たちが味方ですからね」
「ああ、例えどんな容姿であったとしても、フィーは私たちの最愛の娘に変わりはないのだからな」
「そうよ。見た目を気にしていてはいけないわ」
「きっと、いつかはフィーを見てくれる人が現れるから、気にするな」
上から順にお母様、お父様、お姉様、お兄様の言葉です。みんなに愛されていることはわかります。けど、その言葉は本当に私を気にしているのですか?
「ありがとうございます。けど、私は全然気にしていませんわ」
私はこの容姿のことを本当に気にしていない。確かに家族のようにキラキラな金色の髪は綺麗で、羨ましいと思う。お父様やお兄様の翠眼はエメラルドのようで、お母様やお姉さまの碧眼はサファイアのように綺麗だとは思う。けれど、私の赤目もルビーのように綺麗だと思うし、白髪だって別なんとも思っていない。私は白が好きなのだから。だから、家族が言うほど私は気にしていないのに…
お母様とお姉様は私に抱きついて、少し涙を流していた。
「ごめんね。普通に産んであげれなくて」
「大丈夫よ。フィー。私たち家族はあなたの味方だからね」
みんな私の話を聞いてくれない。みんなの可哀想なフィーアを私に押し付けてくる。だから、もう私はいらないのだろう。
私は抱きついていた二人から離れ、自分の部屋に走る。みんなに呼び止められたが、振り返らない。そして、部屋に戻り、鍵を閉め、泣き叫ぶ。
どうして、誰も私の声を聞いてくれないの!
どうして、私の気持ちを勝手に決めつけるの!
私は、みんなが、家族が、いてくれたらそれだけでいいのに!
第三者に何を言われたって、何も気にならないのに!
私の声は誰にも届かない。それなら声なんてでなければいい。声を出そうとするから、傷つくんだ。なら、声だけでも私を消し去りたい。
だから、もう私の声が誰にも聞こえませんように、私は神様に願った。願ってしまった。この世界には神様がいることを知っていたのに。
私は前世の記憶を持っている。前世といっても、私は病院にいた記憶しかない。病院の白い部屋、窓から外を眺めたときに見える流れる白い雲、時々気ままに窓の外を歩いている白猫。私は白色が好きだった。自分の気持ちが暗くなってきたときに明るくしてくれる色だから。
特に白猫を見つけた時は、心なしか元気になっていたような気がする。最初にあの猫を見つけたのは、たまたまだった。窓から外を眺めていると、綺麗な白猫が見えた。首輪もしているようには見えなかったので、たぶん野良猫なのだろう。だけど、それにしては異常なほどに綺麗な猫だった。時々見るその猫は私を見ているような気がした。そんな訳ないのにね。
逆に嫌いというより、苦手な色は黒色だった。黒は全てを塗りつぶすから。目を瞑り、暗くなるのは恐ろしく怖かった。だって、もう目覚めないかもしれないから。それに、私に会いに来る人も黒色だから。
前世の家族との仲はそんなに良くなかった。私が小さい頃から入院していたことが原因なのはわかっているけど。親戚からも、親からも金食い虫と直接言われたことがある。それからは誰とも会っていない。だから私は孤独だった。
死ぬ時も孤独だった。誰も私の所には来なかった。でも、感謝はしている。お金は払ってくれていたから。
気がついた時には、私は真っ暗な空間にいた。たぶん、死んだんだろうな。そう思いながら、その空間を彷徨っていると、何者かの声が聞こえた。
「あなたにもう一度人生を。私はあなたを見守っているわ」
聞き間違いなのかもしれない。だって、私は死んだはずなのだから。けれども、私は赤ん坊として、ローズ伯爵の娘であるフィーアとして、この世界に生まれた。
あの声はやっぱり、神様の声だったのだろう。そうでなければ、こんな現象はありえない。私は生まれながらにして、この世界に神様がいることを知った。
だけど、そんなことを知ったところで、私に何かできるのかと言われれば、何もできはしないだろう。だから、私はフィーアとして、普通に暮らしていた。
フィーアとしての生活は楽しかった。私が好きな色の髪、優しい家族、部外者が何を言ってこようが何も気にならなかった。私にはそれだけでよかったのに。
部外者が私のことを悪く言うにつれて、私の家族も段々変わってしまった。私のことを不幸だと、思い込み始めてしまった。何度否定しても、私が無理をしているという認識は変わらなかった。
意識が覚醒し始める。私は今、ベッドにいるようだった。
「良かった、フィー目が覚めたのね」
「良かった、本当に良かった」
みんなが涙目で話しかけて来る。どうして?昨日は……そっか、私は自分の部屋にこもって、眠ってしまったのか。
大丈夫ですよ、お母様、お姉様。
声が出せない。口を動かしているのは、感覚でわかる。だけど、音が出ない。思わず喉を押さえる。
「フィー、もしかして、あなた……声が出ないの?」
お姉様の言葉に頷く。何度出そうと思っても声は出ない。でも、これで良かったのだ。私の声は必要ないもの。
「ごめんなさい、フィー。私たちはあなたのことを見ているようで、見ていなかったのね」
「すまなかったな、フィー」
「「「申し訳ありませんでした、お嬢様」」」
両親とメイドたちが私に謝るが、理由がわからない。首を傾けていたことに気づいたお兄様とお姉様が、理由を説明してくれる。
「三日前、フィーが俺たちに怒って、部屋に向かったのをみんなで追いかけたんだよ」
「そしたら、あなたの叫び声が聞こえてきてね、すごく後悔した」
「俺たちはフィーを守っているつもりで、傷つけていたんだって……」
「「だから、ごめん(なさい)」」
私は首を振る。私も謝りたいのに、声が出せない。せっかく、私の気持ちが伝わったのに、今度は気持ちを伝えることができない。
「お嬢様、これを」
渡されたのは、紙とペンだった。私は伝えたいことを文字にして伝える。
『私こそ、ごめんなさい。みんなが私を守ろうとしてくれていたのはわかっていたのに…』
涙がこぼれ落ちて、書いていた文字が滲む。そっとお母様に抱きつかれた。優しい甘い香りと柔らかさに体全体が包まれる。
「あなたは気にしなくていいの。私たちも周りの声を気にしすぎて、あなたの声を聞けていなかった。その罰をあなたに与えてしまってごめんなさい」
違うの。これは私が望んだことなの。だから、これは私の罰なの。みんなを信じずに一人で逃げ出した罰なの。
「これ以上はずっと繰り返しそうになりそうだから、もう切り上げようか」
「あなた…」
「大丈夫だ。それに私たちも止まってばかりではいられない。前を向いていかないと。それでだ、フィー。あの時の話をもう一度しようと思う。なぜ、あの時私たちがあんなことを言っていたのかというと、第二王子が婚約者を変更すると話があったからだ」
「あなた!それは今する話ではないでしょう!」
「「そうです(わ)。父上(お父様)!」」
なるほど、いつも以上に私を擁護しようと思っていたのはそのせいか。でもそんなことなら気にしなくて良いのに。
『お父様、正直に言いますが、私はあの人のことが全然好きでなかったので、嬉しいぐらいなのですよ』
あの人、第二王子は私の髪を最初に気持ち悪いといい、悪魔付きと呼んだ人物である。それから、文献などもないにも関わらず、白髪は悪魔付きという話が出回ったので、どう頑張っても好きにはなれない。
「ああ、今なら、フィーの言っていることがわかる。すまなかったな」
それから数ヶ月が経った。その間に、お父様達は医者を数人連れて来た。だが、誰も声が出ない理由は分からなかった。そのため、呪いの類ではないかという結論になった。その話が、悪魔への代償とより噂されるようになったが、もう私たちが気にすることはなくなった。
「フィー、婚約の話がきているのだが…」
お父様が申し訳なさそうな顔で話を振ってくる。けれども、私が第二王子の婚約者でないとなってからも誰も私に婚約を申し込んでくる人はいなかったのに。それにどうして、お父様が申し訳なさそうにしている理由がわからない。
『何か問題があったのですか?』
「…それが、相手がミリスティア公爵なのだが…どうしたい?」
お父様が心配している理由がわかりました。ミリスティア公爵といえば、一人息子だけなのですが、その人は黒髪黒目であり、第二王子に呪い持ちと言われていると噂は聞いたことがあります。第二王子はほんと、害悪ですね。
『一つだけ気になることがあるのですが』
「なんだい?」
『ミリスティア公爵子息様は、ご家族に愛されていますか?私のように…』
最後の文字は恥ずかしくなり、小さく書いてしまったが、これが一番大事なことだと私は思う。
「ああ!ミリスティア公爵は子供を愛しているよ。それは間違いない」
『ならば一度、会ってみたいと思います』
会う日は予想以上に早く訪れた。余程、公爵家側も焦っているのだろうか?それとも、今回のことに期待している?
初めて会う彼は本当に黒髪に黒目の真っ黒な存在。前世の記憶にある日本人そのものの見た目だった。ただ、それだけだった。前世の親族のような嫌な感じも、恐怖も感じない。けれど、彼からはそれ以外のことも何も感じない。
『初めまして、フィーア・ローズと申します。声は諸事情により出せないことをお許しください』
「気にしなくて良いですよ。フィーア嬢。こちらは息子のオスカーと言います」
「……」
『どうして、彼は話さないのでしょうか?今回は彼の思うようなものではなかったのでしょうか?』
「いいえ、そんなことはありません。けれど…」
彼の隣にいる公爵が全て話して、彼は一度も声を発しない。理由を聞くと、公爵はどこか言いづらそうにしている。しかし、一度私を見て、覚悟を決めたような顔をした。
「…息子は呪い持ちと言われています。もちろん、そんなことはありません。ですが、自分の声を聞いた者も呪われると言われてからは、自分から声を出さないようにしているのです」
白髪の時もそうだったが、黒髪にも呪いに関しての文献などはない。全て出鱈目なのだ。それに他国では普通に黒髪も白髪もいると聞く。だから、気にする必要はない。
『オスカー様、私も家族に自分の気持ちが伝えられずに、声なんていらないと、そう思っていました。だけど、なくなってから、伝えたい言葉がたくさん見つかっています』
『あなたが心配していることなら、呪い持ちと言われる前から、あなたの身の回りでいろんなことがあったはずです。ですが、今までそんなことがありましたか?』
『私もあなたと同じです。私は家族に、自分の気持ちを家族に伝えるのを諦めてしまいました。こんなにも私を愛してくれているのに、です。ですが、それはあなたもでしょう?あなたは声を出すことができます。私はもう、自分の口では伝えることができませんが、あなたはできます』
『あなたが周りの方にどんなにひどいことを言われたのかはわかりません。ですが、あなたを愛してくれる人が近くにいることは忘れないでください。そして、自分を強く持ってください。難しいかもしれませんが、私のように逃げず、立ち向かってください』
伝えたいことは全部書いた。だから、あとは全部、彼次第だ。私は彼をじっと見つめる。改めて彼を見ると、整った顔立ちをしている。
「…俺は、俺にはもともと幼馴染の婚約者がいた。ずっと好きだった。こんな髪でも気にしないと言ってくれていた。だけど、第二王子が呪い持ちと言い出してからは、彼女の態度が変わってしまった。名前を呼ばないでと、もう話したくもないと、それで婚約破棄をされた」
なんだその最低な女は。今まで会っていたのだから、そんな話が嘘に決まっているとわかっているだろうに。
「彼女と別れてすぐに、第二王子との婚約が決まったという話を聞いて、もう何もかもがどうでも良くなった。父さんや母さんには悪いとは思っているが、このまま誰の迷惑にもならないように黙って過ごしていこうと思っていた」
「…だけど、君の言葉が僕に響いた。そうだね。僕は怖がっていた。自分が周りに害を与える存在ではないかと思っていた。だから、ありがとう。それに父さん、母さん。ごめん。…ありがとう」
彼の笑顔は、あった時とは全然違う顔をしていた。私の苦手としている黒にのまれているような、そんな感じがしていたが、今は夜に輝く星のような明るさを感じる。
だけど、彼の元婚約者が婚約するのが第二王子というのは、たまたまなのかな?
「フィーア嬢、改めて本当に感謝している。こんな俺でも良ければ婚約をしてほしいと思う」
『こんな私でも良いのですか?声がでないのですよ』
「君じゃなきゃダメだ。俺を俺として見てくれて、正してくれた君が良いんだ。声なんて関係ない」
そんなに直球で言われたら照れてしまう。でも、彼の最初の印象はもう変わってしまった。もちろん良い方に。彼となら、これからもやっていけそうだと思う。勘だけどね。
それに、悪魔の子と呪い持ち、良いパートナーだと思いませんか?
オスカー様と一緒にいる時間は思っていた以上に楽しかった。声がでなくとも、雰囲気で感じ取ってくれるのも、その理由の一つだろう。
どうして私がしたいことがわかるのかは分からないが、それを当たり前のようにしてくれる彼の行動がとても嬉しい。
そして、学園に入学する年になった。周りからは変な目でよく見られるようになったが、気になりもしない。何か害があったのなら、証明してみればいい。私たちは図書館で過去の文献や歴史、他国のことを調べて、第二王子が言うことは出鱈目だということはわかっている。
私たちが堂々としていることから、周りの人たちの態度も卒業までには結構変わってきた。それに、この学園にいる3年間、私たちに関わって来た人たちにも何か不運な出来事は何も起こらなかった。当たり前だけどね。
「あの悪魔付きとか呪い持ちとかの噂ってなんだったんだろうな」
「確か第二王子殿下が言っていたのは聞いたことがあるわ。ということは、言いふらしているのは第二王子殿下?」
段々と、第二王子が言い出したということが逆に広まっていった。なぜだろうね。因果応報とはこういうことかな。
まあ、こういう状況を面白く思ってない人物はいるよね。でも、直接手を出してくるとは思わなかったな。
今まで、陰湿に行動して来たくせに、我慢ならなくなったのだろうか?
今、私たちがいるのは、学園の学生用の食堂です。食堂とはいえ、貴族が通う食堂であるため、部屋の規模は大きく、豪華で、テーブルは十名程度が座れるほどの大きさのものが、この食堂にいくつか配置され、ゆったりとした空間になっています。
本来ならここで、友人達が仲良く話をしたりするのが当然の光景だったのだが…
「皆も聞け!こいつらがして来た悪事の数々を!」
これである。私たちに指を指し、第二王子殿下が大声をあげているのですが、非常に迷惑です。顔を見るだけでご飯がまずくなるのですから、どっかに行って欲しかったのに。それに悪事とはどんなことかは知りませんが、ここで言う必要はあるのでしょうか?
私のそんな疑問には関係なく、次々と喋り出します。要約すると、
一つ目は、元オスカー様の婚約者様であり、現第二王子の婚約者様を無視したこと。
二つ目は、彼女の無実無根の悪評を流したこと。
三つ目は、彼女に対する直接的な侮辱をして来たこと。
四つ目は、悪魔の子であるのにも関わらず、学園に入学して来たこと。
五つ目は、呪い持ちであるくせに、学園に入学して来たこと。
これら五つのことが私たち二人の悪事らしい。馬鹿らしくなってきますね。周りの方々も、あいつ大丈夫かというような顔をしています。たぶん大丈夫じゃないですね。
「はあ、では詳細を一つずつ聞いていきましょうか」
オスカー様が代表して、殿下に聞きます。
「貴様!この俺を侮辱「そんなことはどうでも良いですから、最初から説明してもらえるでしょうか?」」
「チッ、仕方ない、そこの悪魔の子は俺の婚約者である、マリアが話しかけたにも関わらず、返事をせずに、紙とペンを取り出したのだ。これは彼女を意図的に無視していることは明白であるし、この状況を見ているやつは多くいる。言い逃れはできないぞ!」
「はあ、元婚約者である、殿下は知っていると思いますが、彼女は声が出せないので、必ず筆談です。それはほとんどの者が知っています。それに、マリア嬢が彼女に話しかけて、待ちもせずに、『私を無視するなんてひどい』とどこかに行ったのはクラスメイトも含め、多くの人が見ていますが?」
そうなのだ。帰ろうとしていた時に、急に話しかけられたから、頑張って準備したのに、捨て台詞を言いながら、どこかに行ったので、不思議に思っていたのだ。
「な、なら、悪評を流したことは事実だろう!」
「それは、俺という婚約者を捨てたという話ですよね。間違ってないじゃないですか」
「ッ、侮辱の件についてはどうだ!マリアは彼女に直接、尻軽女と言われたと言っていたぞ」
「そうですか、で、誰に言われたのかもう一度言ってもらえますか」
「フィーア・ローズに決まっているだろう!何度も言わせるな!」
さっき、私の声がでないという話をしたばかりなのに、矛盾に気づかないのだろうか?それに、隣にいるオスカー様が今まで見たことのないような目をして、笑っているのがとても怖い。
「フィーア・ローズ…ね。さっき、声が出せないと言ったばかりなのですが、それに残りの二つ、彼女と僕が悪魔付きや呪い持ちと言いだしたのはあなただけですよね。それは罪にはならないのですよ」
ほんと、証拠もなく、ただ言いがかりをつけて来ただけとは、本当に暇なのだろうか?
「う、うるさい、うるさい!呪い持ちのくせに、この俺に指図するんじゃない!気持ち悪いんだよ。お前らの髪が、色が!大人しく、領地に引きこもっていれば良いものを。白や黒なんて不吉に決まっている」
「そうよ。本当はあなたの色が気持ち悪くて仕方がなかったのよ。だけど、あなたと一緒にいたのは、あなたの家が公爵家だからよ」
髪や瞳の色が黒かっただけで、なぜここまで言われないといけないんだろうか?ふざけないでほしい。それに、彼にあるのが家柄だけ?そんな訳がない。こんなに優しい人を傷つけておいて、何を言っているのだろうか。
「ふ…け……さい」
「フィー?」
「ふざけないでください!あなたに彼の何がわかるのですか!ずっと一緒にいておいて、家柄だけ?ふざけるのも大概にしておいてください!彼の優しさなどを一切感じなかったのですか?本当に残念な頭をしていますね」
「き、貴様、不敬罪で死にたいのか?」
「国王陛下がそう判断したのなら、それに従いましょう。ですが、あなたのような頭が空っぽな方の命令を聞くつもりはありません。自分が気に食わない色に対して、勝手に噂を流し、冤罪を押し付けようとしているあなたの命令なんか聞きたくありませんわ」
「騎士たちよ、こいつらを捕らえ「その必要はないよ」」
その言葉を聞いた瞬間、第二王子殿下とマリアさん以外は臣下の礼をとります。声の主はこの国の王太子である、カイン様です。ですが、カイン様は今留学中だと聞いていたのですが。
「みんな楽にしてくれていい。まあ、一部常識を知らない愚か者もいたが、咎めるつもりはないよ。まあ、まさか君のわがままを聞いて帰って来てみたら、こんなことになっているなんて驚いたよ」
「ああ、まさか僕もこんなことになっているとは思わなかったよ。だけど、知らなかったよ、カイン。君の国では僕のこの黒髪は呪い持ちらしいよ」
「やめてくれよラッド。俺も初耳なんだから。この国がアイジス帝国と事を構えることができるわけないだろう。あのバカを処分するからそれで許してくれないか、アイジス帝国第三王子様?」
「…まあ、それでいいよ。カインがそう考えていないことはわかっているし、彼女たちの言葉から、そう思っているのはほんとにごく少数みたいだしね。……誤魔化したら知らないよ」
「わかっている。ほんと、久しぶりの実家帰りだと思ったのに、こんな国際問題に巻き込まれるとはとんだ災難だ。いや、早めに鎮火できると考えればよかったのか?」
カイン様の楽にしていいという言葉に皆が顔をあげます。そこには、カイン様の他にもう一人、カイン様と同等の風格がある、黒髪の男の人がいた。お二人の会話から、彼がアイジス帝国第三王子殿下なのでしょう。
それに、国際問題、確かにそうですよね。オスカー様と二人で他国のことも調べた時、王族で黒髪の人は複数人いた記憶があります。それに、この国では珍しい髪色ですが、他の国では特に黒髪は珍しくありません。白髪は珍しいですが…
それに、アイジス帝国の王子殿下が聞いてしまった時点で、もうこの国の、私たちだけに対する問題ではなくなってしまいました。だって、この国の王族が、黒は呪い持ちだと言ってしまっているのですから。
「兄上!どうして邪魔をするのですか!」
「騎士たちよ、この罪人二人を捕らえよ!」
「な、貴様ら何をする。俺はこの国の第二王子だぞ!離せ!」
「なんなんですか、あなたは、このかたは第二王子殿下ですよ。無礼じゃないですか!」
「俺か?俺はその愚弟が言っていたと思うが、それの兄であり、この国の第一王子だ」
「…お義兄様なら、どうして!実の弟にこのようなひどいことをするのですか!」
「君たちは本当に頭が足りないな。お前たちがしたことは国際問題になると言っているだろう。今だけでもアイジス帝国に喧嘩を売っていることになるのに、他の国も敵にまわすつもりか?冗談じゃない」
「兄上!どうしてそのような話になるのですか!」
「はあ、お前が言っていた、『白髪は悪魔付き、黒髪は呪い持ち』だったか?他国の王族にどれだけ白髪や黒髪の方がいらっしゃると思っているのだ。それに、お前の発言を証明するようなものは何もないにも関わらず、だ」
「なっ、そ、それは…」
「もうお前に日の目は当たることはないと思っておけ!連れていけ!」
「私は違います!殿下に白髪と黒髪が目障りだから、この国にいられなくするために、罪を作る手伝いをしろと言われただけで、私は髪のことに関しては何もしていません!」
「なるほど、君は彼女たちに冤罪を作りだしたという訳だ。連れて行け」
「ちが、違うんです!待ってください」
王太子殿下の掛け声で、第二王子とマリア様が騎士様に連れて行かれます。それを見送った後に王太子殿下とアイジス帝国第三王子殿下がこちらに歩いてきます。
「フィーア・ローズ伯爵令嬢とオスカー・ミリスティア公爵子息だな。王族が迷惑をかけた。代わりに私が謝罪させてもらう。すまなかった」
「お顔をおあげください、殿下。被害はあまりなかったので、気にしなくて大丈夫です」
「はい。私も彼女と同じで、あまり気にしておりません。ですが、噂は王家の方で撤回していただければと思います」
「ああ、約束しよう。あのバカが広めたバカらしい噂は私が撤回する。そうしないと、今以上に大変なことになるからな」
「ねえ、君たち二人、この国はもう住みにくいんじゃないかな?僕の国においでよ」
「おい!ラッド!」
「別に良いじゃないか。君の家の問題だろ?それで、どうだい?」
確かに、この国では王族が言っていたということで、髪色に関しての偏見は強くなってしまっています。けれども私はこの国を出ようとは思っていません。ふと視線を感じ、横を見るとオスカー様もこちらを見ています。私は笑顔で頷き、アイジス帝国第三王子殿下に向き合います。
「申し訳ありませんが、私はこの国にいたいと思います。この国には私を愛してくれる人がいますから」
「…そうか、それは残念だ。…君は?」
「申し出はとても嬉しいです。たぶん、彼女とあっていなかったら、行かせていただいていたと思います。けれど、彼女のおかげで、私を愛してくれる人がいることを知りました。だから、私も彼女と一緒にこの国にいたいと思います」
「そうか、フラれてしまったな。まあいい、お前たちは愛されているのだな?」
「「はい。私たちは愛されています」」
今なら笑顔でそういうことができる。家に帰ったらみんなに何を言おうか。「ごめんなさい」?「声が戻りました」?
やっぱり最初は「ありがとう」かな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「また見ているのか。白」
「ええ、だって私が送った人ですから」
「声は、返したのか?」
「もちろん!私はあの子の味方であって、敵ではないもの」
「…なら、どうして声を?そこまでする必要はあったのか?」
「…あの子はね、ずっと病気で自分が何か言ってはいけないと思っている。だから、自分の意見を出さずに溜め込んでいた。溜め込みすぎていると私は思うの。だから、あの子が心の底から思ったことが言えるように、言いたいと思った時に話せるようにしたの」
「そうか」
何もない空間に人影が二つ、白と呼ばれた白髪白目で髪が長く、少女にも見えるような容姿をしている女性ともう一人、黒髪黒目の髪が短く、長身の男性がいた。二人は、目の前の歪んだ空間から見える、フィーア・ローズとオスカー・ミリスティアを見ていた。
「白は全ての起源の色であり、黒は全ての終焉を表す色だ。どちらか一方がある限り、もう一方も必ず存在する。それは引き離せるものではない」
「もう、またそれ言ってる。もう聞き飽きたよ、黒」
「お前は適当すぎるのだ。だが、人間は悪魔だの、呪いだの、好きものだな。自分と異なるものには畏怖を抱き、排除しようとする」
「…これだけ平和な世界でもそれは変わらない。あの子たちには悲しい思いはさせたくなかったんだけどな…」
「ああ、だけど、彼らは自分から掴み取った。自分の居場所を」
「ええ、だからこれからも見守ってあげましょ。私たちが連れてきたあの子たちを」
二人は話し終わった後、何も言わずに姿を消す。そこにはもう何もないが、「にゃーん」と、猫の鳴き声が聞こえた。
読んでいただきありがとうございます。
また、誤字脱字のご報告、ありがとうございます。




