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ポストは見ている

作者: あるまじろう

 とある駅近の銀行の隣に赤い郵便ポストがある。縦に四角い形に、深緋色の身体に一本足で立っており、横一文字の口が二つ付いている。口のサイズは大と小の二つになっており小さいほうの口には「手紙・はがき」大きいほうの口には「その他郵便」と張り紙が貼られている。


人々はポストを見ていないがポストは人々を見ている。


 ある朝、ぼろ切れをまとった老人が腰を曲げながらポストを横切る。老人は昨日見た時よりも少し体の周りに油を纏って以前に比べると幾分か健康な面持ちであった。つい三日前までは今にも死にそうなように細い体をしていたのだが今では少し体に余裕を持つようになったのである。なぜか、最近このあたりに住む学生がポストの上に飲み残したジュースや目の前にあるカフェで飲み残したカップをポストの上に置いていくのである。

 暑くもなく、寒くもない季節だからだろうか、喉を適度に潤した学生たちが家に持って帰るまでが面倒でここに置いておくのである。

 老人はそれを拾い、袋に大切に入れて掃除をする。最近のポストの上部は飲みこぼしで多少べたついている。


ポストはそれを見ている。


 ある朝、風が強く吹いていた。町の中に朝東風の吹き抜けていく、歩く人々は足を止めることなく体でその風を感じている。風に乗って舞う花埃や車のガスがポストに通り過ぎて張り付いていく。自慢の深緋色の身体は薄灰色に染まる。

 しかしそれを気にすることはなかった。

 何日かすれば雨が降り、汚れを取り除いてくれるからである。雨粒がポストに当たる。雨の音は多種多様で、いつも聞くたびに新しい音を奏でている。淫雨は町の人々の気持ちを下げ、歩く歩幅は重くなっているがポストにとって憂鬱なことはなかった。


 ポストが奏でる音は誰も聞いていない、それをポストが気にすることはない。


 ある朝ポストの扉が開かれる。それはいつもと変わらなかった。しかしいつもと違うことがあった、配達員がピンク色の封筒を懐に忍ばせるのを右扉の目から見えたのである。


ポストはそれを見ていた。


 また何日かたったある朝、配達員がまたピンク色の封筒を懐に忍び込ませた。

 ポストはそれを見ていた。

 それが何度か続いた。


 ポストは見ていた、ピンク色の封筒を出す小学生の姿を見た。


 ポストには配達員がピンク色の封筒を盗んでいることを知っていた。


 ポストは見ていた。


 小学生がポストの前に立つ回数が徐々に減ることをそして、ポストの前に立つたびに泣きそうになっていることを見ていた。

 小学生だった人間の背は徐々に伸びていき、中学生になってからはポストの前に止まることはもうなくなっていた。その時にはすでに配達員は別の封筒を盗んでいた。


 ポストは見ていた。


 小昼、口に封筒を入れられた。今日は、閑雲が綺麗だった。

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