35話 彼女の使い魔
多くの場合、諦めに至る理由は、自分に何の力もないと思ってしまうことだ。
~アリス・ウォーカー~
隣国とヴァルター領の国境線は広大な深緑に覆われた密林地帯である。
整備された道以外は不気味な音を立てる『害樹』がひしめき、それに集まる『幻覚虫』も生息する。
それらは天然の防衛壁として機能しており、密林を抜けての密入国はほぼ不可能とされ、整備された道以外に国境を越える術はない。
しかし、この国境を越えれば王都はヴァルター領を挟んで目と鼻の先。
【勇者】の技術を欲する隣国は王都の混乱を察知し臨戦態勢になった事がある。
後僅かで攻め入ると行った段階まで緊張が高まった時、『理を喰らう狼』の咆哮が国境砦から響いた。
隣国は『黒狼遊撃隊』が国境砦に現れたと知り、渋々剣を鞘に収めたのだった。
「……ふむ」
国境砦の屋上に建てられた物見櫓は、国境付近を鳥瞰出来る。
その為、ここに配備されるのは眼の良い種族の兵士であり、有事があればすぐに現場を確認に行ける翼のある種族が主だった。
しかし今、物見櫓に居る『烏』の女は砦兵ではない。
彼女は自ら進んで砦兵と代わり、その任務を全うしている最中である。
「あらら。あんたも飽きないねぇ、カムイ」
『烏』の女――カムイは真面目が服を着て歩いているかのような存在として部隊の面々からは認識されていた。
「今だけだ。隣国の動きには細心の注意がいる。隊長が留守という事もある。戻るまで油断は出来ない」
「うわ、固った。あんた固すぎよ」
その物見櫓に上がって来たのは派手に胸元や肌を露出する『淫魔』の女だった。異性を魅了するボディラインや尖った耳が特徴的な種族である。
「それにヘクトル様の安否も優先事項。図りかねるあの方の判断にいち早く対応する必要もある」
「知ってる? 『二人組を組まされると息が詰まる女No.1』よ。あんた」
「必要なのは他の評価ではなく状況に適した結果だ。我々は“観賞用の剣”ではない」
「あっそ」
「それよりも、ミレーヌ。お前は何をしに来た?」
不真面目で男漁りが趣味のミレーヌは、夜になると単独行動が多い。
その為、不確定要素を自ら引き起こす彼女はカムイからすれば良い印象はなかった。
「下でちょっといい話しを聞いてさ」
ミレーヌは櫓の設備をさわり出す。
少しは真面目に仕事をする気になったか、と思ったカムイだったが間違いだったと改める。
「あまり触るな。それは緊急用の施設内放送の術式だぞ」
物見櫓からは施設全体に声を届ける事が出来る。
するとミレーヌは、これこれ、とソレを起動した。
「あー、皆聞こえてる? ミーだよ。今日の夜、六番倉庫に居るから欲求が溜まってるヒトは解消させてあげるから、集まれー」
「!? 貴様! 何をしている!」
とんでもない事をしているミレーヌをカムイは取り押さえた。
ちなみにまだ放送はオンになっている。
「緊急回線を貴様の下らない欲求に使うな!」
「そんなことを言ってぇ。カムイ、だって溜まってるでしょ? あたしどっちもイケるからさ。参加してもいいよ」
「ふざけるな! 貴様!」
「だって性処理は行軍の基本でしょ。カムイだって自慰行為くらいするっしょ?」
「黙れ! 今度と言う今度は許さ――ひゃ! 貴様! 何をする!」
「あっはは。キス一つで動揺し過ぎだって初めてでもないでしょ?」
「う、うるさい! お前のやってる事は隊の規律を乱す行為だ! 分別を――うお?!」
「意外と着痩せするよね、カムイって」
「ばか! 止めろ! なんだそのやらしい手は! 近づくな!」
「あらら、上に逃げちゃったか。てことで皆、今夜ね。待ってるよー」
ミレーヌは通信を切ると、物見櫓の手すりに肘を当てて気分良く景色を見る。
「ハァ……ハァ……」
黒い四翼を出して櫓の屋根に飛んで逃げたカムイは荒く息をしていた。
「カムイって垢抜けたと思ったけどさ。純情だよね」
「うるさい……」
あははと笑うミレーヌと、子供並みに性に対する免疫のないカムイは任務の時は各々の見える所に『黒狼遊撃隊』の紋章をつけていた。
「隊長も大変だよね。わざわざ呼び戻されてさ。足の速いの何人か連れて行ったし」
「仕方のない事だ」
「『霧の都』だっけ? 【勇者】が死んで、王様も居なくなって王都も吹っ飛んだみたいだし。ヘクトル様も護衛無しで国境を越えちゃうし。いよいよこの国も沈み始めたかぁ」
「……」
情報は最前線にも的確に入る。特に『黒狼遊撃隊』には専用の情報網から最新のものがいち早く入る。
「亡命も……致し方なし……か」
カムイは今回の件から今後の身の振り方をある程度推測していた。
ヘクトル様は臨戦態勢の隣国へ護衛も就けずに一人で国境を越えた。
いくら何でも軽率すぎるが、隣国へ亡命する意図があるのなら、それを伝える意味でも護衛は不要だと言える。
隣国からしてもヘクトル様の手腕とその領地が無傷で手に入るならそれに越した事はない。
「カムイはさー。ヘクトル様と隊長の関係って何か知ってる?」
「それは私たちが知る所ではない」
その時、カムイは遠くで発生した爆発音を聞き逃さなかった。
「ん? あの煙は――」
ミレーヌが眼を凝らして手摺から身を乗り出す。
「ミレーヌ! バルドとカーライルに前門に来いと伝えろ!」
その声色は仕事モードに切り替わったカムイの命令。ミレーヌは緊急回線を使って二人を招集する。
「あれはヘクトル様の……」
カムイは櫓から飛び降りると四翼を開き、滑空する。そして、隣国の国境砦の検問前に着地した。
「待て、入国許可は?」
「『黒狼遊撃隊』副隊長のカムイだ。我々の領主が帰還中に事故にあった。至急、確認を願いたい」
“カムイ、ヘクトルの旦那が要らないと言ったら護衛は就けなくていい”
それが去り際に隊長のヴォルフが出した、唯一の命令だった。
「それが間違いで無いことを祈りたいです、隊長」
~~~~~~~~~~
「この度は時間を頂き、感謝します」
それは10年前の『魔獣パラサザク』の一件が終わった直後の話。
『地下帝国』にある何気ない店での秘密会談だった。
「よもや、お主から連絡があるとはのう」
一人は質素な服を着て町民に扮したヘクトル。
そしてもう一人はローブのフードを目深に被り、他からは姿をうかがえない人物である。
「貴女が地下帝国に居ると聞き、急遽走らせて貰いました」
「よいよい。妾としても『スフィア』の調査が一段落した所じゃ。外はだいぶ騒がしいようじゃのう、ヘクトルよ」
妖艶な声と畏まる声は雑踏に紛れる。
ヒトの行き交いが絶えない道沿いの店。彼らの話しは誰も気に止めない。
「『魔獣パラサザク』の討伐が終わりました」
「ほう、あの天地鳴動の魔を倒したか」
「こちらから仕掛けたのです」
その言葉に対面者は腕を組み、フードの奥にある瞳が少しだけ細まる。
「仕掛けたのは……『勇者』の案かのう?」
「はい。各領兵が招集され、我が領地も有能な民を多く失いました」
「それだけではないぞ。生態系が変わる。魔物たちが一斉に沸き立ち、国の手が届かない所は“魔災”に呑み込まれる」
本来ならヘクトルはここに居るべきではない。しかし、彼は貴重な時間を使ってでも彼女と話す必要があったのだ。
「必要な箇所には兵を手配をしました」
幾つかを切り捨てた。ヘクトルは強く拳を握りしめる事しか今は出来ない。
「家族を守れ。ゼノ坊がよくお主に言っておったな。マリシーユはお主の屋敷か?」
「はい。故に……友と多くの民を更に見捨てました」
ヘクトルはその言葉は自らが背負う罪であることを魂に刻みつける様に口にする。
「ヘクトルよ、懺悔をしたくて妾の元へ来た訳ではなかろう? 本題を申してみよ」
「提案を受け入れて欲しいのです」
それは今回の一件でヘクトルが学んだ事だ。
あらゆる障害を弾き返す“戦力”を持っていたとしても、それでは護るべきものは護れない。
『黒狼遊撃隊』に、屈強な領兵たち。
それだけでは足りない。必要なのは表の裏の両方の“戦力”なのだと。
「私は新たな組織を編成します。貴女にはそれを指揮して貰いたい」
「ほう。妾に二足草鞋を履かせる気か? 釣り合うモノが欲しい所じゃのう」
「『サトリの眼』の情報を提供致します」
その言葉に対面者は反応する。
「……どこでその事を?」
「『陵墓』の調査記録を見ました。貴女からすれば喉から手が出る程に欲しい情報だと聞いています」
「確かにのう。それは釣り合うモノじゃな。しかし――」
『サトリの眼』の存在をヘクトルは知ってしまった。故に、彼女は彼を信用するに値するか見定める必要があった。
「中途半端な組織を渡されても妾も対応に困るぞ?」
「私も中途半端な組織を作るつもりはありません。慎重に吟味し、時間をかけて編成します。時が来たらソレを貴女に証明しましょう」
「ほっほっほ。容易くはないぞ? 妾の眼は」
「貴女を納得できるレベルでなければ意味がない」
この国を最も古くから見守ってきた彼女の慧眼に叶ったのなら、十分に機能する組織であると言えるだろう。
「良い男になったのう、ヘク坊」
「……貴女の中ではいつまで私は“坊や”なのですか?」
「さぁて、いつまでじゃろうな?」
彼女のいたずらに笑う眼は、最初に出会った時からまるで変わらない。
ヘクトルはこのヒトの掌に乗っている内はいつまでも“坊や”であると悟る。
「『サトリの眼』に関する情報は先に提供致します」
「今後、二度とその名は口にせん方が良い。後、お主の持つ情報も妾に渡した後に全て消去せよ」
「心得ました」
「うむ。そう言えば件の組織は名は決めておるのか?」
「はい。その時が来れば――――で組織の者を貴女に接触させます」
ヘクトルは必要な事を全てを終え、立ち上がった。
「ヘク坊よ、国を弾け」
彼女からの端的な言葉。その意味をヘクトルはすぐに理解した。
「既に地盤は出来ています。それでは」
「そうか。楽しみにしておるでな」
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いつもと同じ日常。
朝起きて、メイド服を着て、旦那さまの身の回りの世話をする。
“赤”は故郷における力の象徴。
私は運が良かった。完全な赤い髪ではないと言うのに旦那さまは重宝してくださっている。
“俺とジンでレンを捜してくる! お前はリア姉を呼んでくれ!”
今のは――
「君には友達がいた。しかし、彼らは魔災で死んでしまった」
そう……たまに記憶を走るノイズは友達……?
「そうだ。そして路頭に迷っていた君は10年前に今のご主人に拾われた」
“対策を強いておくのです。それが魔術師に対する――”
「君はご主人に恩義があり、強く慕っている。彼の言うことは何よりも優先される」
そう……私は助けて貰った。旦那……様に――
「君の名前はスカーレット」
私の名前は――
「私の名前は……スカーレット」
レイスの持つ“獣の眼”はスカーレットの記憶を深く植え付ける。
スカーレットは椅子から立ち上がる。
「レイス様、ありがとうございます」
「ようやく思い出したかな?」
「はい。旦那様に会いたいです」
レイスに呼ばれたルドルフは感極まる様に駆けつけた。
「大丈夫か、スカーレット。無理をしていないか?」
「ご心配をかけて申し訳ありませんでした。早く帰りましょう」
「おお! 勿論だとも!」
ルドルフはレイスを見ると彼は片眼鏡を着けて一度頷く。
「問題が無いようで良かったです。それでは移動の準備を致しましょう」
まだ、王都の情報統制は機能していない。今なら大した検問も無しに出発出来るだろう。
すると、近くの木に一羽の鷹が留まる。それは『ノーフェイス』が使う品種改良した伝令様の鷹であった。
脚に結ばれは包みを取ると飛び去って行く。レイスは包みを開き情報を見る。
「――フッ。やはり、『ゲシュペンスト』がミスをしただけか」
“ヘクトル・ヴァルター死亡。遺体を確認”
所詮は田舎貴族。我ら世界を跨ぐ組織の敵ではない。そして、貴様の放った猟犬も我々には追い付けなかった。
レイスは情報を燃やして処分する。
そして、ヘクトルの暗殺と彼がこちらの動きを想定して派遣したレヴナントは空振りに終わる事を笑う。
「『アルビオン』など所詮は絵空事だったな」
王都の時は夕刻になり、少しずつ闇が広がる
リリーナはレヴナントと共に王都を周り、人助けや『ノーフェイス』に関する情報を探していた。
しかし、表だった行動で簡単に捉えられる程『ノーフェイス』は甘くない。
特にレイスは幹部の中でも部下を持たない単独思考。その最大の利点は身軽な事にあり、僅かな情報から彼にたどり着くのはほぼ不可能である。
今の王都でヒトが消えても確認には最低でも一週間はかかるだろう。
半日後には彼らは国を出る。そうなれば追うことは出来ない。
レイス本人の立ち回りは完璧だった。
「あ!」
「どうした?」
「くそ! 待て! ガキ!」
しかし、完璧など世界のどこにも存在しない。
この事件が発覚する僅かな綻びを作ったのは――
|『ノーフェイス』の死神でも、学園教諭でも、学園門番でもなかった。
「よっと。へへ、大人は通れないよー」
瓦礫の隙間を抜けて、あっさり冒険者を撒いたラキアはその手にジェシカのポーチを取り返していた。
「事態は思った以上に面倒じゃな。“ヘク坊”の情報は的確だったわけじゃが……妾はどの様に動くのが致命的かのう?」
まだ、己を察知されていない彼女はその時を慎重に見定めていた。
魔術師の持ち物は何よりも価値がある。
ジェシカのポーチを抱えて冒険者を完全に撒いたラキアはどうするか考えていた。
このポーチは彼女が肌身離さず持っていたモノだ。それが他人の手にあった。
幼いラキアでも、それがどういう状況なのか理解できたのだ。
信用できる大人――やっぱり父に相談しよう。怒られるかもしれない。でも、それでジェシカが無事だとわかるなら――
「急いで帰ろっ」
と、歩き出した所で不意に足元に出てきたネズミを避けようとして派手に転んでしまった。
わ?! ふぶ?! と、顔から倒れ衝撃でポーチの中身が広がる。
「イタタ……あ……」
痛みを感じるよりも、やってしまった、と言う感覚が強い。
使い魔の供物になる、と言うジェシカの脅し文句が甦った。
落ちたポーチから離れる様に、サッと近くの柱の影に隠れて様子を見る。
しかし、ポーチは中身が散らばっただけで、そこから魍魎の類いが出てくる様子もない。
ラキア、そーっと近づくと、ポーチの中から小さな何かが飛び出す。
「わっ!?」
驚いて尻餅をつく。
ソレはラキアを見るように滞空していたが、やがて彼方へ飛び去って行った。
「今のが……ジェシカの“使い魔”?」
拍子抜けな様に少しだけ呆けていたが、ハッと我に返りポーチから飛び散った残りを中に戻して父の元へと急ぐ。
「あ」
“使い魔”を見つけるための散策中、ジェシカはその兆しを的確に捉えたのだった。
「師匠」
「見つけましたか?」
ジェシカはソレを拾い上げてもう一度確認する。
ジン達も興味深そうに集合し、ジェシカの“使い魔”を見た。
「この子私を見ていました」
「なるほど。ジェシカ、貴女の使い魔はこの子の様です」
「なんかショボいな」
「ちょっと!」
ロイの言葉にジェシカは目くじらを立てる。
「いや……ロイ。もし、ジェシカの“使い魔”の定義が、コレ全般だとしたら……とんでもない事だぞ?」
「マジか……ジェシカ、アレとかソレとかはどうだ?」
「ええっと……ちょっとわからないわね」
生涯を共にする言っても過言ではない“使い魔”に二人は興味津々である。
「でも、この子凄く弱ってるよ」
レンは不安そうにジェシカの掌にいるソレを見る。
「連れて帰って治療しましょう。ここでは助ける事はできません」
それは小さな、本当に小さな命だった。しかしジェシカにはとっては二つとない、掛け替えのないパートナーとなったのだ。
日が完全に落ちた夜。
スカーレットはルドルフの乗る馬車のランタンの火を消しに来ていた。
「スカーレット、帰ったら真新しい物ばかり見るかもしれないが、何て事はないからな」
「はい。旦那様もそろそろご就寝なさって下さい。レイス様がおっしゃるには明日から長旅になるとの事です」
「うむ。そうするとしよう」
スカーレットはランタンの火を消し、一礼してから馬車を離れる。
外にはレイスが待っていた。
「気分はどうかな?」
「ご足労をおかけしました、レイス様」
「気にするなヒト捜しが仕事だ。後は君たちを隣国へ送り届けて依頼は終わりだよ」
「私が旦那さまの側に居ない間、ご迷惑をおかけしました」
「記憶はもう大丈夫そうだな」
「はい」
微笑むスカーレットにレイスも笑う。
「私は“荷物”の様子を見てくる。君も休むと良い」
「ありがとうございます。それでは」
スカーレットはルドルフの馬車の隣に張られたテントに入るとランタンを置いた。
そして、入り口を閉めようとすると、中にソレは飛び込んでくる。
「わっ!?」
反射的にソレを手で弾こうとした所で、手が止まった。
「――」
ソレは一匹の“スズメバチ”。しかし、音もなく飛んできた所を見ると特殊な昆虫であると――
「あ……」
“彼の様子はどうですか?”
“動いてます!”
“飛べそうか?”
“頑張れー!”
“おお! 飛んだ!”
それは走馬灯の様にスカーレットの記憶を駆け巡る。
“本来ならここまで回復する事はないでしょう。しかし、貴女とその子の繋がりが命を繋いだのです”
“そいつとは長い付き合いになりそうだな”
“何か名前を着けようよ”
“イエローホークで良くね?”
“ふふ。決めるのはジェシカですよ”
「――ビー」
スカーレットは両手を差し出すとその掌の上に彼女の“使い魔”――スズメバチのビーは安心する様に止まった。
「私は……スカーレット。じゃない。私は――」
ジェシカ。ジェシカ・レストレードだ――
「魔術師を狙う魔術師は、研究を丸ごと奪う事を目的として、記憶に割り込む術を持つ場合が多いのです」
それは対魔術師に対抗する術をナタリアから教わっている時の事だった。
「それを回避する術は幾つかありますが、“使い魔”を使うこの方法は、例え記憶に割り込まれたとしてもソレを解き放つ事が可能です」
古代魔法『メモリー』。効果が限定的過ぎるために今となって古すぎて誰も使おうとしない代物だった。
「『メモリー』は“使い魔”との心からの信頼が無いと機能しません。それはとても永い月日が必要になるでしょう。ですが――」
ナタリアは真剣に授業を受けるジェシカと彼女の肩に乗るビーを見て優しく微笑む。
「貴方達ならそう時間はかからないでしょうね」