才能の違い
「これがフォルザを纏うことなんだな」
なんか自転車に初めて乗った日を思い出すような達成感がある。
「感動しているみたいだけど、まだまだフォルザは奥が深い。霧生はやっとフォルザのオンオフが可能になったくらいで、やっとフォルザの入口に立つ資格を手に入れたくらいだ」
嬉しさ全開の俺に対して、厳しい意見を言うガイエン大将軍。
「これで誰にも負けないんだろ?」
「……色々とこれから体感して見たら良い」
「もう終わりにする」
「明日は試合があるから今日はここまでにしよう。フォルザは消費したら、回復するまでに時間が必要になる。ただでさえ、オンオフくらいの調整しか出来ていないのだから、無駄な消費はしないに限るよ」
「最後に、アドバイスとかないの? アイツの瞬間移動みたいな能力は流石にチートだろ?」
「彼は最年少で将軍になった天才だよ。彼が兵士になったのは確か、9歳の頃だったかな。そこから血の滲むよう努力を重ねて7年で将軍になっている」
セトは16歳くらいか。俺が17歳だからあまり年齢的には変わらない。
「それって凄いのか?」
「普通は10年以上はかかるよ。故に、天才だね。私も後5年もすれば、彼には勝てないだろう。だから、全力で挑め」
「いや、そんな、フワッとでなくて具体的なアドバイスが欲しかったんだけどな。でも、1人で考えるよ」
負けるつもりはない。しかし、あの瞬間移動の能力は驚異的だ。
どうしたらいいのだろう? どうすれば勝てる?
そんなことを考えていたら、少し笑ってしまった。
あの後、適当に過ごした。メリッサが何かアドバイスをくれるのかと思ったが、何一つしとて参考になることを言ってくれなかった。ただ唯一、
「私に勝ったのなら、余裕だわ。負けないでね? 私が雑魚みたいに思われちゃうわ」
自分勝手なことを言っていた。もう既にフォルザも使えない男に負けた女として、雑魚と思われていることは言わないでおこう。勝った俺が言うのもなんだが、ここまで何も知らずに勝ってしまうと申し訳なくなってくる。確かに、ここで俺が負けたら俺以上の風評被害を彼女が受けることになる。ま負けたのは事実だけど、必要以上に馬鹿にされるのは可愛そうだし、ムカつく。ただ、勝たなければならない理由が増え、無駄にプレッシャーが上がっただけの言葉だった。
いつもはご飯時も一緒に食べに来るエアリスが来なかったくらいしか、変わったことがなく寝た。寝れなかったわけだけど。
ちなみに、隣のベッドでは人の気も知らずにマリッサは寝息を立てて、寝ていた。元帝国兵で、明らかに敵地の中の敵地。本拠地の中でも、普通に爆睡している。
バカは死んて治らないなんた話があるが、死んでも俺の頭の中はどうやって相手に勝つかしかない。最早、戦う理由なんてどうでもいい。戦闘狂は不知の病だ
前世でも、決闘の前日は相手が誰であろうと寝れなかった。今回は特に、やばい能力を持っている相手と戦う。
訓練で身体は疲れているのに、ワクワクして寝れない。
頭の中ではセトと100回は戦った。徹夜で考えれば、対策の幾つかは考えつくと思って考えるが、馬鹿だから対策が思いつくことはない。結局、その場で適当に戦うことになる。
あんまり寝れなかったが、試合の開始時間は朝の8時からというハードスケジュール。そもそも今日は寝れなかっから寝坊をする心配はなく、だるいなぁと思いながらベッドの上で過ごしていた。時間になると兵士の人に呼ばれるがままに会場へと向かった。
マリッサを一緒に来ないかと誘ったら、眠いからと断られた。薄情な女だと思う。数少ない俺の友人なんだから応援に来てくれて来れよ。そして、もう1人の友人はそもそも朝から見かけない。エアリスがこの広い城のどこに住んているのか知らない。いつもベッドでゴロゴロしていると、エアリスが部屋にやってくるから、あんまり踏み込んだことに興味がなかった。
迷子にならないように兵士の後をしっかりと着いて行った。前から思っていたけど、人がいない。ほとんど誰かとすれ違った記憶かない。やっぱり襲撃で沢山、殺されたのかもしれない。
案内されるのはどこかの会場の控室的なのをイメージした。
思ったよりも、進むなとか思ったらこの間、地下の訓練場にまで来てしまった。以前と違い、客席には半分くらいのギャラリーがいる。
相手のセトはしっかりと鎧を来てゴリゴリの戦闘態勢。対する俺は寝巻き。この世界に来た時は学ランで戦っていたが、あれは俺にとっては戦闘服だ。防御力はないけど。
「まさか、それでやる気なのか?」
セトは明らかに怒りを示している。俺も相手がこんな舐めた服装ならば俺も激怒しただろう。
「いや、時間を少し時間を貰えば、まともな格好に着替えてきたんだけど……」
「両者準備万端のようだな。それでは戦闘開始とする」
俺の言葉を遮るように半ば強引に試合が始まった。
「その格好で戦うのなら、この木剣ですら致命的になるかもしれない」
セトはそう言うと剣を地面に刺した。
「セトだったよな。まず、こんな格好で戦うことを謝りたい。言い訳になるが、俺とて不本意だ」
「……律儀な男だな。俺様はそこまで気にしてない。どうせ、何を着たところで俺様に勝てるはずがない」
「男らしく行こう」
そう言って、俺は拳を構えた。ただ、構えただけどはない。昨日習得したばかりのフォルザを全身に纏う。イメージは鋼鉄の鎧だ。身体中からフォルザを絞り出す。
目にも見えない瞬間移動に対抗する手段なんてない。ただ、殴られた瞬間、カウンターで一撃で仕留める。
多分、顔面か腹を狙ってくるだろう。いや、俺の命はエアリスと繋がっていて、頭部だと当たりどころが悪ければ死ぬから、腹部の可能性が高いかな。あくまでも憶測だけど。
セトは俺の意図を理解したようで、無言で拳を構える。
「3カウントで、行くぞ」
「馬鹿にしてるだろ?」
とは言ったが、心の中で3秒を数える。しかし、2秒あたりでセトが視界から消えた。消えたと思ったら、腹部に衝撃が走る。
しかし、思ったよりも痛くない。痛くないと言えば嘘だが、我慢できる痛みだ。
ガイエンの拳の方が何十倍も痛い。
即座に、俺の腹部を殴ってきた腕を掴み、反対の手で思いっきり顔面を容赦なくぶん殴った。1度だけでない。ぶん殴って、吹っ飛んだ相手を腕を引っ張り引き寄せ殴る。それで殴る。これを数度繰り返したら、相手はいつの間にかに意識を失っていた。
なんか不完全燃焼で勝ってしまった。
あの音速の拳が不思議なくらいにダメージが少なかった。
セトが地面に倒れると、開幕宣言をした審判らしき男がそれを確認した。セトが意識不明だと、分かると直ぐに俺の勝利宣言となり5分も経過しないうちに終わってしまった。
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ガイエンは座席からつまらなそうに試合を眺めていた。
結果から見れば、圧倒的な試合だった。
しかし、この展開は予想内であった。きっとマリッサが口を出さなかったのも結果があまりにも見えていたからだろう。
仮に油断したところで霧生がセトに負ける可能性は万に一つもなかった。だけど、緊張感を持って欲しかったから敢えて霧生は伝えなかったが、セトは将軍の中では将軍になったばかりという事もあって最下位である。そもそもまだセトは将軍になるに至っていない。将軍や大将軍、国王陛下もセトの将軍昇格にはまだ早いと反対をしたが、王国議会が勝手に承認して恩を売り、自分たちの都合の良い駒にしたのだ。
セトは天才だ。強引に昇格させずとも将軍になれる人材だろう。しかし、相手が悪すぎだ。霧生は千年に一人の大天才だ。フォルザは可視できないが、フォルザを目に集中すれば相手の纏っているフォルザの量を見ることができる。
霧生のフォルザの量は桁が違う。纏っている量しか見えないので、総量は分からない。しかし、昨日のフォルザの消費量、纏っている量だけでも大将軍である私のフォルザの総量を超えている。他を圧倒する霧生のファルザの量。
練習の時、私と殴り合いをした。しかし、霧生は何も感じていなかったが、拳は私に届いていた。きっとあと1年もすれば、大将軍になれる器だ。
フォルザだけの勝負ではセトでは勝てるはずがない。セトもフォルザの扱いはまだ未熟。強引にフォルザを纏う量で戦えば負けるのは確実。
だから、特にアドバイスもしなかった。勝てる相手と戦うのにアドバイスなんて不要だろう。
何度も言うが、セトも天才だ。10代で将軍に慣れたのは政治的な背景もあるが、生まれ持ったスキルや才能に溺れず、努力を続け来たからだ。それは私も他の将軍も認めている。
しかし、霧生は本物の大天才だった。
天才の積み重ねた努力を否定するほどの圧倒的な才能。
それが今回のセトの敗因だった。