フォルザを纏うと言うこと
なんか詳しくは分からないけど、将軍クラスの誰かと誰がエアリスの冒険に出る権利をかけて戦うことになった。俺が負けるつもりはない。
気功、フォルザ。
なんがよく分からないがそれらをマスターしないと勝てないらしい。喧嘩なんて所詮は根性。勝てると思って戦えば勝てる。どれたけ殴られても、どれだけ蹴られても、直ぐにこちらもやり返す。全力で殴り続ければ、その内相手は立ち上がってこなくなる。それが必勝法。
相手が誰で、人数がなんてことは大した問題ではない。
「・・・君がそう言うことであろうことは分かっていたよ。だから、彼を連れて来た。彼はこの国の大将軍の1人だ。ガイエン大将軍」
護衛の1人でかと思われた大きな男。190センチの俺よりも背が高く、一見、肥満児のようにも見える。しかし、よく見るとそれは脂肪でなく、筋肉が異様なまでに発達しているのだ。そんな感じで、体躯を含め色々な意味を含めて巨大だ。
そんな威圧感を放つ身体とはことなり、顔はかなり爽やかなイケメンだ。
「ガイエンだ。まず、この国を救ってくれたことを感謝する。もし、エアリス様が死んでいれば、この地は帝国に滅ぼされたでしょう」
「……霧生です」
差し出されたガイエンの手を握る。握った手は、傷だらけだった。拳が完全に人を殴る形に変形している。俺よりも戦って来た男の手だ。
「話によると壁の外から来たらしく、あまりこの世界について詳しくないんだろ? 何も知らないのにも関わらず、この国の為に立ち上がって来てくれたことに深く感謝するよ」
「そう言われると俺は正義の味方みたいだが、勘違いしないで欲しい。俺は別に正義感から名乗りを上げたわけではない。色々とこの国に対して思うエアリスにこのまま逃げて欲しくないって思っただけだよ。俺が焚きつけたんだし、その責任を果たそうと思っただけだよ」
「それでもだよ。我が王はエアリス様に対して、王になれとは言わなかっただろうからね。結果的にこの国は存続する。だからこそ、私は王国議会の言っていることには反対だよ。人の善意を踏みにじることは許さない」
どうも筋肉があるやつは馬鹿なイメージがある。しかし、ガイエンは良い奴そうだ。嫌いじゃない。
「だから、明日までに何とかフォルザの流れを感じ取り、纏うくらいは習得してもらう」
「睡眠時間を削っても、24時間くらいしか明日の試合までないけどそんな簡単に出来るのかよ?」
「フォルザを感じるなんて小さい子供でも可能だ。壁の外では分からないが、王国内では誰もがフォルザを感じることが出来る。大人になれば、大半の人がセンスとか関係なく、訓練を受けずにフォルザを纏うことが出来る」
5分くらいで済みそうな気がする。誰でも出来るなら、だふん俺もできる。
「すまないが、この後にしなくてはならないことがある。失礼するよ」
「ありがとう、王様。まぁ、明日までには何とかするよ」
「頼もしい限りだ。期待しているよ」
王は護衛を何人か連れて地下訓練所を後にした。
「これから地味になりそうだし、私も帰るわ。霧生もギャラリーがいない方が集中できるでしょ?」
「私もここにいたら訓練に口を出してしまいそうだから、私はエアリス様とあそこの部屋に戻るわ。健闘を祈るわ」
緊張感のない2人が帰る。
エアリスもマリッサもなんでそこまで俺を信じることが出来るのだろうか。王様は険しい顔していたが、俺が将軍と戦うことになってもあっけらかんとしていた。
「そこまで信じられたら、勝つしかないよな」
「弱気になったのか?」
「そうじゃないよ。事実を口に出して、現状を分かりやすく再確認しただけだよ。別に誰にも勝てるだなんて信じられてなくとも、戦うのなら負けるつもりはない」
「それは頼もしいな。だが、さっきの発言で勘違いをしていないか? フォルザを纏うのは特に訓練は不要みたいな話をしたが、正確にはそれは正しくない」
「つまり?」
「例えるとだな。走ることは誰にだって出来るだろ? 子供から大人まで可能だ。しかし、早く走る。より長い距離を走るとなると話は変わるだろ? 100メートル走ることは誰にでも可能だが10秒を着るにはかなりの努力が必要ってことだ」
「ただ、纏うだけでは話にならないと言うことか?」
「その通りだ。今回はフォルザの練度を競う戦いではない。フォルザを纏わずに、将軍クラスと評される帝国の暴風を倒した自力があれば、フォルザさえ使えれば戦えるだろう」
帝国の暴風。
マリッサのことだ。翼を広げて、宇宙を駆ける姿から連想されたのだろう。聞いている俺が恥ずかしくなるくらいの厨二病な2つ名だ。
「おいおい、俺様の対戦相手の様子を見に来たんだが、フォルザも使えないど素人だとは思っていなかったぜ。てか、この国にその年齢でフォルザが使えないなんて人間いたのかよ」
気配はなかく、ここまで接近されるまで気が付かなかった。
くそ舐めたセリフと共にスキンヘッド男が俺の肩に手を回していた。俺はアウトローの中のアウトローを自認している。だが、耳にピアスを何個もつけるやつは大の嫌いだ。さらに嫌いなのがピアスを耳以外につけるやつだ。
この男は鼻にピアス。耳に所狭しと、ピアスが並んでいる。つまり、俺にとって大っ嫌いなタイプだ。
「おい。これはなんの真似だ? この国にこんな挨拶があるなんて知らなかったよ。俺もそうした方が良いのか?」
「面白い男だな。これはちゃんと入口から入ったのにあまりにも気づいてもらえないからな。ここまでサービスしてあげたんだぜ?」
そう言うと、直ぐに俺の肩から腕を退けた。
改めて見ると、この男はそこそこは強いな。
身長は俺よりも大分、小柄だな。170センチくらいかな。しかし、それを補ってあまりあるほどの筋力。一見、痩せ型に見えるが立派な細マッチョだな。筋力量としては、ガイエンには及ばないが、殺気が半端ない。
腰にぶら下げた刀で首を斬りたくて仕方がないみたいだ。そうなれば、俺は刀を持ってないから防げない。
「セト、君が霧生の対戦相手なのか?」
「これは大将軍。失礼しました。ええ、そうですよ。先程、王国議会に召集されて正式に決まりました。良かったですね。王国議会の連中は大将軍に依頼したらしいですが断られて、俺様にお鉢が回ってきた感じですわ」
まぁ、どちらにせよ勝ち目はゼロだね。そう付け加えた。
「霧生、彼はこの国で最年少で将軍になった……」
「俺様はセト=バーナー、ガイエン大将軍から紹介されたら通り、将軍です。どうぞよろしく、運が良いだけの素人さん」
ガイエンの言葉を遮るようにセトは言う。
「確かに俺は運が良いらしい。そこに関しては認めるよ」
「だが、今回は運がなかったね。1度、将軍クラスを倒したとは言え、それはあくまでも将軍クラス。比べて、俺は正式な将軍だよ。将軍クラスなんて将軍以下の雑魚。将軍クラスはあくまでも、将軍クラス。所詮は格下、偽物だよ。安心してくれ、救国の英雄に対して本気は出さないさ」
この男、明らかに調子に乗っている。不良やっていた頃から、調子に乗る輩は沢山いるし、別に嫌いではない。しかし、今回は異様にムカついた。
反射的に殴りそうになる拳を必死で抑える。
拳が勝手に前に出るのを防ぐために強く握りすぎて、拳から血が出ていたが、今は気にならないくらいにムカついている。
今すぐにでも殴りたい。ぶっ飛ばしたい。
だが、今じゃない。この男をぶっ飛ばすのは明日だ。そうでなければ、意味がない。
自分よりも強いかもしれない相手と相対する時には、実際に戦うまでは決して、自分の力を見せてはいけない。プライドを捨てて、勝つために無能な馬鹿になれ。ここでもし、下手に実力を晒せば、優秀な相手ならば確実に対策してくる。そうなれば、勝ち目はない。逆に、どれだけ強くても、油断している相手ならば勝ち目ばゼロではない。
昔、ワタルが俺に言っていた使える言葉の1つだ。
初めて聞いた時は、そんなの卑怯者の戦法じゃんと思った。だが、案外、これを守ると勝てる。
男は顔を近づけ、小声で言った。小声だからガイエンには聞こえないであろう。
「それにさ、指導教官がガイエン大将軍という所が、王様も君にあんまり期待していない証拠だよ。知っているかい? この男はスキルを持たず大将軍に王様のエコ贔屓でなった男なんだぜ」
「別にそんな事どうでもいいよ。誰が指導者だろうと強くなれば問題ない」
「確かにな、そうだな。クールな男だな。。。最後に俺のスキルを見せてやるよ。本来、スキルは見方であろうとも無闇に教えてはいけないものだ。だから、お前はスキルに関して一切、教えなくていい。これは礼だよ。感謝はしている」
頭突きが当たりそうな至近距離にいたセトは一瞬で200メートルは離れていた。
そして、再び距離を詰めた。体感では、移動に1秒もかかってない。動きが全く見えなかった。
「俺のスキルは瞬間瞬歩。瞬間移動ではないよ。踏み込むと一瞬で200メートル地点まで移動する。移動すると言っても、精密には猛スピードのジャンプだ。間に障害物が多ければ使えない。ほぼ移動手段にしか使えない玩具のような能力だよ」
玩具ような能力なんて絶対に思ってないだろ。一瞬で200メートルを移動されたら、実質的には間合いなんてないようなものだ。
「更にだよ。残念なことに連発は5回が限界かな。それ以上は着地の衝撃に耐えられない。飛べる距離も200から500メートルで短くしようとも200メートルよりも少なく飛ぶことは出来ない。強引に着地しようとしても、俺の体感とて一瞬だよ。使えない能力だろ?」
「ありがとう。参考にするよ」
「無理だと思うけどな。無駄な修行の邪魔をして悪かったな。精々、怪我しないくらいに頑張ってくれよ」
「首洗って待ってろよ」
俺がそう叫んでも、セトは手を振りながら、こちらを振り返ることなくゆっくりと歩いて訓練場を後にした。
「この国の将軍はあんな感じのやつばかりなのか?」
「あんな感じとは?」
「常に人を馬鹿にしたような態度だよ。相手に対して圧倒的にリスペクトの気持ちが感じられない。常に自分が1番強いと勘違いしている」
「……そうでもないさ。王国兵は皆が君に対して、リスペクトの気持ちを持っている。彼だって、馬鹿にしてるつもりは無いだろうよ。少なくとも、そうでなければ、自分の生命線とも言えるスキルのネタばらしをわざわざしには来ないさ」
「俺はそれも含めてリスペクトが足りないって話しているんだけどな。リスペクトの気持ちがあるなら、全力を尽くせよ。例え、実力が下の相手だろうと全てを尽くせよ。隠れて俺の修行を見るくらいの努力をしろよ」
「……霧生は戦闘に対して真面目……いや、君が剣を名乗るのも分かる。純粋なんだね。」
「違うよ、俺はそんなんじゃない。俺は馬鹿にされたり、舐められたりするのが我慢できないんだ。俺の人生は昔からそれだけだからな。それよりもだ。さっきから、この拳が収まりそうにない。大将軍、強いんだろ? 訓練とかどうでもいいや、戦おうぜ。俺にフォルザとやらを体感させてくれ」
八つ当たりも良いとこは分かっている。ただ、無性に戦いたくなった。なんでこんな気持ちにったのか分からない。俺は馬鹿だから言語で気持ちを表すことが出来ない。拳でしか語り合えない馬鹿な男だな。
「行くぜ」
拳にありったけの想いを乗せる。
良く分からない世界に来て、良く分からない謎の技が使えないと馬鹿にされた。フォルザ? クソ喰らえ。俺はもう負けたくないんだよ。
拳がガイエンに触れる直前、何故だかエアリスの顔が頭に浮かんだ。何でだろう?
全力の拳はノーガードのガイエンの顔をぶん殴った。これ以上ないくらいの綺麗な直撃だった。
しかし、ガイエンは顔にクリーンヒットしたのにも関わらず、動じない。殴った感覚があったのに、ダメージがあったようには思えない。
「これがフォルザだ。分かって貰えたかな?」
「面白い。面白いよ」
ガイエンと足を止め、殴り合った。
ありえないことが起きている。殴り合いをしているのに、俺が一方的にダメージを受けている。殴っても効かない。逆に、ガイエンの拳はバットで殴られた時よりも重い。マリッサの槍ほどではないが、前世ではこんなに重いパンチを受けたことがない。
殴られる度に、身体が熱く沸騰するようなそうな一撃だ。
人生2度目の勝てるビジョンが全く浮かばない。そもそもパンチをこのまま受け続けることは出来るが、攻撃が通らなければ意味がない。
「質問なんだけど、どうしたらお前に拳が届く?」
「フォルザを纏うしかない。ダメージを与えたいのなら、拳のダメージにプラスして私と同等の量を纏わなければいけない」
「やっとフォルザが必要な理由が分かった気がする。なら、なんで俺はメリッサに勝てたんだ? アイツだって、フォルザを纏えば俺には攻撃手段がなかったはずだよ」
「霧生がエアリス様から渡された剣がフォルザを無視するんだよ。この世界、聖剣や魔剣の類はフォルザで防げない。フォルザの防壁がなければ、君の近接格闘技術やタフネスはかなり上位になる。だから、勝てたんだろう。旅では聖剣や魔剣を使えるが、親善試合では使えない」
「つまり、明日までにフォルザを纏えないといけないのか」
「いや、もう問題ないよ。ちゃんとフォルザを使えるようになっている」
「ちょっと待てよ。修行とか1秒もしてなくないか? 殴り合っただけだよ」
「私が拳に乗せて、フォルザを大量に打ち込んだ。霧生はそれを無意識に、フォルザを使い防いだ。君の身体器官からフォルザが目覚めた証だ。それに殴る際に、俺の拳に刺激されて、君の拳にもフォルザが僅かながら乗ってきていた。だから、後はフォルザの流れを意識すればセトと戦えるだろう」
「そんな簡単そうに言うなよ」
「いや、ここまで来れば簡単な方法がある。兵士になる為の訓練場で落ちこぼれの為に行うことが多い。後ろを向いてくれ」
言われた通りに後ろを向いた。ガイエンは背に触れると、急に身体が熱く沸騰するような感覚だ。あの時によく似ている。そう、エアリスの血を飲んだ時だ。
「身体が熱くなっているだろ。フォルザが活発になった証だ。身体中に流れるフォルザを感じだ。止めてみろ」
「いや、無理だろ。俺の身体に蛇口はついてないぜ」
「感覚としては、全力疾走した後に呼吸を整える感じだ。言い忘れたが、フォルザを使い切ると死ぬぞ。今、君は蛇口全開な状態だ」
「おい、ふざけるなよ」
蛇口を止めるイメージ。止めるイメージ。そんなイメージ浮かばないわ。そもそも、身体に蛇口なんかないし、意味ないだろ。
「はぁ?」
ガイエンはかなりゆっくりなモーションで、砲丸投げのようなフォームから拳を繰り出して来た。ゆっくりだけど、殴るまでの助走距離が長い。咄嗟に、手を出してガード。
吹っ飛びそうになるのを必死で、堪えた。
「いきなり何するんだよ」
「ちゃんと止めることが出来ただろ?」
「本当だ」
さっきまで身体の内部で暴れ回っていた何がが収まった。それどころか、拳を受け止めるために腕に鎧を纏ったような感じだ。無色透明で、重さは1gもない鎧。
「フォルザを感じだだろ? そしたら、また殴り会おう。超実戦派君にはそれが一番楽な修行だろ」
「要するにさっきみたいに全身にフォルザを纏い続けてなぐり合えば良いんだろ? 上等だよ。やってやる」
初めは上手くいかない。さっきみたいに重い拳が飛んで来る。しかし、上手くガード出来た時はそんなに大したダメージにならない。圧倒的なまでに明確にフォルザを纏った時と纏わなかった時の差は明確だ。
何回も何回も殴られ、殴りを続けた結果、全身にフォルザを纏うことを習得した。
習得した頃には、すっかり日が暮れていた。
投稿が一週間近く開いてしまい、申し訳ございません。誰か読んで下さっている人がいればですが……