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届かない言葉

何か不思議な光を見た気がした。


しかし、今思えば偉くファンタジーな印象だった。


大剣振り回して、10を持った兵士相手に無双系シリーズよろしくな活躍をして、最後は空飛ぶ女との死闘。俺の生きてきた人生で最も強い一撃だった。


それにしても、変な夢を見たな。


不思議な事を考えていたら、段々と目が覚めてきた。完全に脳が覚醒する頃には、日本刀を持った男に殺され、よく分からない世界に転移して、そこで殺し合いをした。なんて記憶が鮮明になってきた。確か、最後の記憶では何やら契約だ、従属だなんて話をしていたがあれは最後にどうなったのか?


目を覚ますとそこは病院一室だった。俺の身体中は包帯だらけで、点滴まで身体に刺さっている。良く見る怪我人の図である。


隣には確か……マリッサが寝ている。彼女も同様に包帯だらけで、点滴を打たれている。意識はなさそうだが、死体に点滴は打たないから生きてはいるのだろう。


「目が覚めたようね」


横にはエアリスが座っていた。


「おはようって時間?」


「どちらかと言えば、おやすみの時間ね。あれから1日と数時間が経過したわ。あの後、大変だったのよ。どこかの馬鹿が契約中の魔方陣に触れたせいで契約はとんでもないことになるし、戻って来た王国軍に連れていかれそうになる君とそこの白髪女を庇ったりしたのよ。久々に石頭連中と話したから、本当に疲れたわ」


「それはお疲れ様。契約は済んだの?」


「……その件を詳しく聞きたい訳?」


「いや、正直に言えばあんまり興味ない。それよりも俺はこのあとどうこの世界で生きていけば良いのか? その方がかなり頭が痛い」


「なら、まず初めに良いこととして、先のことを心配する必要がないことは教えておいてあげるわ。どうするかはしっかりと決めてあるから」


「良いことと言うことは悪いこともあるのか?」


「そうね。1つ目は大したことがあまりないのだけど……当初の想定よりも契約が少々複雑になったことね。残念ながら、私たち3人は文字通りの運命共同体になってしまったと言う事ね」


「ちょっと待てより話が全然、見えないんだけど?」


「つまり、従属契約にしようとしたら間違えて3人の共同運命契約になってしまったのよ。つまり、3人のうち誰が死んでも運命を共同にするから死ぬ。逆に、お互いの場所を知覚出来たり、能力を共有するからあらゆる能力が上がるわ。本来は婚約同士か結ぶような契約なのよ」


「なんでそんな煩わしい契約になったんだよ?」


「……原因は3つ。1つ目は契約の魔法陣を描いた人物がそもそもの完成系をよく知らなかった。2つ目は契約に慣れていて、手順を飛ばしてしまう人物がいた。3つ目は馬鹿が魔方陣に3人の手を巻き込んで触れてしまったことよ」


自信満々にやっていたのに、この女やり方が良く分かっていなかったのかよ。


「だから、3人は共に行動しないといけない訳。それからもう1つ悪い知らせはちゃんと私以外王族が殺されたことね。これで王位につけるのは現在、私しかいない。勿論、王になるつもりはないわ。だから、そこの白髪女が意識を取り戻し次第、王宮から逃げるわ」


「やることって逃げることかよ」


「そういうこと。くれぐれもここの兵士に逃げることは黙っていてね」


「まだそんなことを言っているのか?」


エアリスの後ろから大きな男が話しかけて来た。俺よりも大きい男に会うのは久しぶりだ。元の世界にも殆どいなかった。


黒いスーツに身を包んだ筋肉質の男。スーツの上からでも筋肉があるのが分かる。同時に、俺や友人達にはない気品のようなものを感じた。野生が強い顔つき。


俺のイメージする王様は白い髭の太った男で、似ても似つかないが、不思議とこの男がこの国の王であることを感じた。


「私はレイバー=ブリタニアだ。まず、我が愛娘を救ってくれたことを深く感謝する」


王は俺たちに向けて頭を深く下げた。総理大臣どころか、県知事にも会ったことない俺だが、一国のトップが頭を下げるなんて有り得ないことだと思う。きっとそれくらい愛娘の無事を喜んだのだろう。自分の子供たちが惨殺されたのだから、余計かな。あくまでも、俺のイメージではあるけど。


俺には家族の記憶がない。限りなくゼロに近いという事ではなく、本当にないのだ。俺の1番幼い頃の記憶は施設で過ごした記憶である。


「父親面しないでって前から言ったわよね? 私と母さんを見捨てた貴方のことは父親なんて1ミリも思っていないの。だから、私はこの国の王になるつもりはない。こんな国と関わりたくないの」


「お前がこの国の王にならなければ、この国は滅ぶことになる。そうなれば、この国で暮らす人々は帝国に侵略され、住む場所を失ってしまう」


「結局、いつも国で暮らす人々の為とか言い訳ばっかり。そんなんだから、母さんを見殺しにしたんだ。今回だって、霧生がいなければ私は死んでいた。私が王族でなければ、孤児院が襲撃されて皆が死ぬことだってなかったんだ。だから、私は王にはならない」


そう言うと、病室からエアリスはいなくなってしまった。


「霧生くん、お恥ずかしいところを見せたね」


今度はレイバーがさっきまでエアリスが座っていた椅子に座った。


「心配していたなら、素直にそう伝えたら? 言葉って言わないと伝わらないらしい」


「残念ながら、もう私の言葉が伝わることはないさ。それよりも頼みがある。頼んでばかりで心苦しが、許せ」


「残念ながら、俺はあいつの説得なんて死んでもしないぞ。過去に何があったとしても、今の俺はあいつの味方だよ」


「別に国の未来などどうでも良い。滅ぶのなら好きにすればいいさ」


「その発言は誤解されるぞ?」


「今は王ではない。娘の恩人に菓子折をもって、さらにお願いするしかない駄目な父親さ。1個人がどう思おうもそ勝手であろう?」


「じゃあ、なんでそれを直接、言ってやらないんだよ。そうすれば、あいつに嫌われれやことだってなかっただろうにさ」


「エアリスにそんなことを言えば、私が彼女に殺されるよ。国がどうでも良いのなら、なんでお母さんを見殺しにしたのさって」


「なら、それをちゃんと説明してやればいいだろ」


この男は何かを隠している。そのせいできっとエアリスの関係が上手く行っていないのだろう


聞いている俺もイライラして、思わず口に出してしまった。


「王様、一体あいつに何を隠しているんだよ? そのせいであいつ、エアリスだって、あんな態度を取るしかないんだろ? 出会って間もない俺が気がついたんだ。父親ならそんな簡単なこととっくに分かっているはずだろ?」


「君は本当に真っ直ぐな性格だね」


レイバーは不敵に笑った。


「私が王になってから、そんな真っ直ぐに意見して来る人はいなかった。王宮にいる奴らは何奴も此奴も自分のことばかりしか考えない人の形をしたゴミと変わらない奴らだった」


「それってどう言うことだよ?」


「人を愛したことはあるか? まだ、その歳だと経験はないかな?」


「俺の人生、忙しくて前の世界ではそんなことをしている余裕はなかったよ」


「ならば、きっと私……俺の痛みは分からないよ。身を焦がすような黒い炎に全身が包まれた。もう俺はあの時、死んだんだのかもしれない。今、ここにいるのは黒い炎の化身さ」


「言っている意味が分からない」


「きっと私の思いが分かるのはこの世でただ1人だけだ。だから、エアリスには伝えていないだよ。全てを説明したところで、まだ幼い彼女には理解できるはずがない」


レイバーは立ち上がった。


「最後になるが、これから先もエアリスの傍にいてあげて欲しい。きっとどんな道を選ぼうとも運命は彼女を選んだ。だから

、彼女を支えてあげて欲しい。これが私のお願い」


俺が王様の想いを理解するのにはこの時は若すぎた。


ただ、いくら考えても彼にかける言葉は俺には思いつかなかった。




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