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スキルという概念

俺は敵が沢山いるらしい王宮に突入した。

考えてみれば、学ランの高校生が大剣を持っているとかウケる。マジで異世界ファンタジーだな。


接近すると敵兵は銃を発砲してくる。しかし、既に遅い。物陰に潜み、敵に接近していたのが功を奏した。敵兵が気が付いた時には剣の間合いだ。数発だけ走ってかわし、剣で両断した。その後、遠い敵には持っていた剣を投げて、殺した。


「見事なものね。戦闘とかしたことも見ることもあんまりないけど、スムーズなものね」


「別に半分くらい俺の力じゃないしな。この剣の切れ味がいいからなんとかなっている感じだよ。後は敵のエイムがそこまで良くないからとかいうのもある。ともかく、運だよ」


さっきも気がついた瞬間に、足や心臓、脳に弾丸が命中していれば、結果は逆になっていた。俺が死んでいた。そう思うと、数秒の出来事だろうとすごく疲れた。


「それじゃあ、人生初の王宮に入るとしますか。インターフォンとか押したほうがいいかな? 俺、人の家のインターフォン押すの苦手なんだよね」


「馬鹿なの? 敵がいることは確定しているわ。ここで大きな音なんて立てたら、大群がここにやって来るわ」


「でも、扉閉まっているんだけど。自宅だろ? 鍵とか持っていないの?」


「そんなの持っていないわ。そもそも、鍵を使って自分で開けるような規模でもないでしょ? 剣でさっさと扉を壊しちゃって」


ガラスって壊すと直すの結構、金がかかるのじゃないかと心配したが、家に死んでいる人が言うなら仕方がないか。


剣を叩きつけ、ガラスの扉を壊した。ガラスは豪快に弾け、水戸黄門よろしくなド派手な登場になってしまった。


城内はシックな感じに統一されていた。全体的に黒一色に統一された家具が多い。高そう家具だななんて一瞬、思ったりしたが、すぐにそれどころでないことに気がついた。


「ちょっと待てよ。普通に敵だらけじゃんかよ。何人いるんだ?」


「30人以上入るわね。さっきみたいに勝てる?」


「多分、無理。敵までの距離が遠すぎる。今この瞬間、蜂の巣にされていないのが奇跡だ」


一階には車の展示がメインでサイドに2つ二階へ続く半月状の階段がある。二階は吹き抜けになっており、敵の兵が銃を構えている。走って階段を上り、敵まで接近するのは不可能に近い。


「やっとお客さん。でもね。時間がないのよね」


鎧に身を包んだ女は兵士に命令する。


兵士たちは一斉に銃で撃って来る。なんとなく攻撃してきそうな雰囲気を察知して、二人は同時に外へと出て、入り口のガラスに隠れた。厚さは学校の窓なんかと比べたら分厚い……気がする。普通の窓を意識してみたことはないから厚さは分からない。


「このガラスが防弾じゃないと終わったな。前回は17年も生きれたが、今回は一日も満たない短い命だった。無念だな」


「安心して。さっき壊しちゃってなんて気軽に言ったけど、大砲くらい余裕で受け止められる透明な特殊合金で造られているの。本来、剣なんかで壊せるような代物じゃないのよ」


「それは助かった。だが、壊したときそんなんに苦戦しなかったよ」


「どうやら勘違いしているようだけど、剣のおかげよ。その剣は所有者の能力に比例して、力を発揮するわ。君が私の思っていた以上に力があるから、扉を壊せたんだわ」


「こんな状況でそんなことを褒められても嬉しくはないかな」


入口のガラスは見事に銃弾の浴びても、傷一つとして付かなかった。それは帝国軍にとっては完全に予想外の出来事だった。彼らにも彼らの事情があった。


「どうしますか、准将」


そう聞かれたのは漆黒の鎧に包まれた白銀の美女。右手には漆黒の槍を持っている。


「彼らをこの人数で追ったら、きっと逃げるわよね。彼ら、雑魚じゃなそうだし。仕留めるにはそれなりの時間を割くことになる」


「しかし、既に撤退命令が出ています。ここで時間をかければ、王国の本軍が戻って来ます」


「今回は電撃作戦だものね。分かったわ。私がサックと二人を殺すから。皆は先に撤退して」


「良いのですか?」


部下の一人がそう言った。


「馬鹿ね。この人数で彼らを追いかけたら確実に逃げるわよ。時間がないのだからそれは得策じゃないわ。私、一人だけならきっと彼らもチャンスと思って逃げ出しはしないでしょ? 殺したら、飛空艇に向かうわ」


彼女を残し、兵達は撤退して行く。さっきまで銃を乱射してきた兵士達が唐突に撤退して行くのをガラス越しに見えた。


「ここに残っているのは私だけだわ。透明になっている見えているのでしょ?」


そう言って、黒い骨で造られた歪な翼を広げると女は二階から一階にゆっくりと降りた。


「私は帝国軍第三師団所属、マリッサ・アルベール。一対一で勝負しましょう?」


羽が収納され、マリッサは漆黒の槍を構えた。異様なほどの威圧を感じる。ただものではないオーラを感じる。今までの帝国兵とは違う。


「明らかに罠よ。彼女は一般兵じゃない。准将クラスかもしれないわ。今の私達では絶対に勝てない。今なら逃げられるわ。当初の予定とは違うけれども、今は引くわよ」


「冗談だろ?」


霧生は剣を持ち、立ち上がった。


「え? 嘘でしょ?」


「俺が俺である限りは一体一の勝負を受けないなんて選択肢は俺はない。もし仮に、ここで俺が死んだとしても、1ミリだって悔いたりはしない」


「……不器用過ぎる生き方ね。分かったわ。行ってらっしゃい。死んでも負けないでね?」


霧生は剣を持ち、歩いて行く。扉を潜り、マリッサと相対する。


「俺は『竜殺し』の霧生。逃げたりなんかしないよ」


「率直に逃げずに出てきたことは感謝するわ。私の手間が省けたからね。でも、馬鹿なの? 見た感じ剣は立派なようだけど、鎧を着ていない。つまり、民間人よね? 軍人の私に素人が勝てると思っているわけ?」


「お前が仕掛けて、俺が受けた。それだけだろ?」


「思った以上に重症のようね。でも、嫌いじゃないわ」


槍を相手に戦った経験は俺にはない。近いもので言えば、鉄パイプか? でも、鉄パイプは飽くまでも殴る武器だが、槍には貫く武器だ。似ているようで似ていない。


彼女の殺気を強く感じた。だから、反射的に後ろに下がれた。しかし、それでも槍をギリギリ回避できた。


思っていた以上に、槍の攻撃を視認することは厳しい。今だって、ほとんど見えなかった。何より、突きというものの距離感が分からない。


「よく躱すわね」


「ギリギリだよ」


槍を躱すのに後ろに下がり続けたので、もう既に壁際まで追い詰められた形になっている。次はもう後ろに下がるだけでは逃げられない。


ちょっと待て。俺はなんでタイマン最中に逃げることばかり考えているんだ? そもそも殴られて後方に飛ばされるのはいい。ただ、自分から後ろに下がるのは俺の流儀じゃない。俺の戦いじゃない。戦いから逃げるのは俺にとっては死と同義だろうが。一度死んだくせに、死を恐れたのかよ。


「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


俺は自らを鼓舞するため全力で叫んだ。何かを経過してか、相手は少し後ろに下がりこちらの様子をうかがっている。


「すまない。純粋じゃなかった」


全身に力を込めた。そのまま剣を片腕で思いっきり振り上げ、全力で振り下ろす。別に剣道とかを習っていたこともない。喧嘩の時の俺のスタイル。常に全力。当たれば、確実に致命傷を与える。カウンターを受けることもあるが、タフだから問題ない。そうやって、最強の座についた。


霧生の全力攻撃をを見て、彼女は少し疑問に思った。


さっきまで槍にビビり、完全に逃げ腰だった男が随分と思い切ったことをする。死を覚悟した蛮行だろう。馬鹿そうだし、何か策があるとは思えない。


ただ剣を振り下ろす攻撃を霧生が行うのなら、槍で剣を弾いた後に心臓を貫けば良い。


槍で剣を軽く弾こうとした瞬間、槍が吹っ飛んだ。


「思った以上の怪力ね」


大きく後方に飛び、槍を回収する。しかし、その間に霧生が攻撃する仕草すらなかった。


「何のつもり?」


「俺は男だ。背中見せた相手に斬りかかるなんて卑怯な真似はしねぇよ」


「今のが最大のチャンスだったわ。次はもうない」


「知ってるか? それ負けフラグだぜ?」


霧生の単調な攻撃で、軌道はしっかりと読める。だが、余裕で避けれるほどに遅くはない。なんとか槍で防ごうとするも、一撃が重い。剣に触れる度に、槍ごと吹っ飛ぶ。単調な剣を避けて、槍で心臓をさせば勝てる。技術面なら可能。しかし、本能が拒絶する。霧生の剣はそれを許さない。仮に剣を避けれなければ、鎧を着ていても即死は免れないだろう。


「俺の全身全霊の全力攻撃。一発一発が必殺技。だけど、ちっとも当たりはしない。当たれば、確実に殺せそうなんだけどな」


「霧生って言ったっけ? 君、普通に強いわね。こんなに重い一撃は滅多にないわ。本当は素人相手に使う予定はなかったけど、仕方がないわね」


後方に思いっきり飛ぶ。ジャンプではない、上空で浮いているのだ。


漆黒の羽を広げるとさらへ上空へと飛んで行く。マリッサは二階の天井まで一気に急上昇した。


「え? 嘘だろ?」


今まで空を飛んだ人間を霧生は初めて見た。謎の感動により、普通にありえない光景であることに気がつくのが遅れた。


窓越しに二人の戦いを観ていたエリアスは空飛ぶマリッサを見て、やっぱりかと後悔した。この世界では一部の人間はスキルという異能の力を使える人間がいる。剣の性能をあれだけ引き出している霧生も潜在的にスキルを持っている可能性は十分にあるが、恐らくは自分がどんなスキルを持っているのかを知らない。そもそもスキルの存在自体を知らない可能性がある。


「ここの世界は人が空を飛ぶんだな。俺も昔から空を飛んでみたいと思っていたんだよな。後で、エリアスにでも飛び方を聞いて見るかな」


「ちょっと。油断しないで」


戦闘中にも関わらず、扉の向こう側にいたエリアスが飛んできた。必死に叫んでいるが、別に油断しているつもりはこっちとてない。槍を相手に戦ったことも勿論ないが、空を飛ぶ相手なんてゲームでだって戦ったことはない。相手がこれから何をするのかが皆目見当がつかない。かなり高さがあるので、槍を投げてきたとてきっと叩き落とせるだろう。


「この一撃で滅びなさい」


マリッサは叫ぶと、垂直急降下した。凄い勢いで加速して行く。地面に落下する前に、地面スレスレを飛ぶとさらに加速したまま霧生に向かい飛んで行く。その速度は人間の速度を超えている。


「これはやばい」


カウンターを仕掛けようとしていた霧生は想像以上の速度にカウンターをやめて、即座に防御態勢に移行した。音速で飛んでくる槍を剣でガードする。それだけじゃ足りないと後方に自らジャンプする。


しかし、槍の威力はそれ以上。剣で槍の直撃を防ぐも物凄い速度でガラスの扉まで吹っ飛び、その衝撃でガラスには人型の大きなヒビが入った。そのまま地面に霧生は倒れた。


マリッサは槍が剣に触れるとともに、急上昇して速度を殺す。そして、そのままゆっくりと地面に降り立った。


「まさか、一差しで百人貫くと言われた私の技を喰らっても壊れないなんて丈夫な剣ね。でも、もう流石に立ち上がれないわね。実につまらない幕引きとなってしまったけれど、私としても時間がないから許して頂戴」


マリッサは槍の穂先を下げ、霧生に近づく。倒れている男を殺すのに凝ったことは必要ない。槍の間合いまで相手に近づき、そのまま心臓を貫けば良いだけだ。


倒れている霧生は全身を襲う強い衝撃により、呼吸困難になった。肋骨が折れたのか。他にも全身が痛くて、俺の体が現在どうなっているか訳が分からない。


しかし、まだ生きている以上、ここで呑気に寝ている訳にはいかない。相手が心優しくて、動けない相手を見て、無益な殺生はしないと撤退してくれるなんて展開にはならないだろう。この世界は不良の世界と異なり、人を倒して終わりではなく、人を殺して終わりなんだ。


倒れながらも、手を伸ばす。すると、さっきまで握っていた剣の柄に手が触れた。指で剣を握れるまで引き寄せると、なんとか柄を握った。


それを見て、マリッサの脚は止まった。明らかに敵は死にかけである。もう立ち上がることはないだろう。しかしだ。死んだふりをして、私が近くのを待っているのかもしれない。近づくと、急に立ち上がり剣で斬りかかって来るかもしれない。さっきの剣幕がマリッサを疑心暗鬼にさせた。


「馬鹿らしいな。でも、私も死にたくはないわ」


羽根を広げると、マリッサは空へと飛んだ。


また、さっきの技を使うのだろう。その隙をつき、エリアスは倒れている霧生に走った。


「霧生、生きている?」


「なんとかってとこだ。どこが痛いの変わらないくらい全身が痛い。だが、もう一度あれを受けたら、生きていられる自信はない。なんとかしないとな」


なんとか座るくらいにはコンディションは立ち直った。しかし、防弾ガラスをぶっ壊す勢いの衝撃はそう簡単には完治しない。金属バットで後頭部を思いっきり殴れらた時よりもやばい。


「勝ちたい?」


「誰もが負けたくはないだろ」


「なら、私を信じなさい。運が悪ければ、槍が霧生を貫く前、拒絶反応で死ぬことになるわ。そして、運良く拒絶反応が出なくともスキルを持っていなければ、何も起こらないって場合も当然ある。だけど、もし、強いスキルを持っていれば、勝てる可能性はある。絶対とまでは言えないけどね」


スキル? 聞いたことがないが、人が空を飛ぶのだ。それは普通に考えれば、超能力的な力が必要になってくるだろう。それがスキルか。


「俺は頭が悪いからお前を信じるよ。俺の命はお前に預ける。なんでも言ってくれ」


「私が言っといて何だけど、会ったばかりの女に命を預けるなんて正気とは思えないわ」


「命を預けるのに、出会った時間なんか関係ない。今、現時点においてお互い運命共同体だろ。今、お前がここにいると言うことは俺が死ねば、お前も殺される。この距離では逃げ切れはしないだろ。全てを掛けて、俺を信じてくれる奴は大好きなんだよ。期待には答えたくなる」


「あっそ」


エリアスがしたのは素っ気ない返事だった。


「剣を貸して」


霧生は震える手で剣を渡した。剣を受け取ったエリアスは剣を首筋に当てる。そのまま力を加え、血が流れるまで刃を肌に食い込ませた。血がある程度出ると剣を手から離した。剣は重力に従い、地面にそのまま落下した。


「私の血を吸って」


エアリスは座っている霧生の頭に触れると、そのまま頭を傷口に押し当てる。霧生は従うがままに傷口から流れ出る血を吸った。


鉄の味がした。人の血だ。鉄の味がして、美味しくはない。しかし、血を吸った瞬間、全身の血液が沸騰するような熱い感覚を覚えた。これが力が漲るという現象なのだろう。身体が熱い。熱さで、痛みが紛れたようですんなりと立ち上がれた。その代償に、顔色が青くなったエリアスはそのまま倒れた。


「これで終わり」


高速で槍を構えたマリッサが飛んでくる。だが、さっきと違い。スロー再生のように見える。


「行ける」


飛んで来る槍を紙一重で躱し、剣で片翼を斬った。


マリッサの翼は左右非対称になり、飛行姿勢が保てなくなったマリッサは上空へと飛ぶこともままならずにそのままガラス扉にぶつかり、ガラスを壊して外に放り出された。


速度を消せなかったのだ。俗に言う、自爆と言う奴だ。


攻撃力の高い分、失敗したら致命傷になる諸刃の剣だったのだ。


「……勝った」


そして、剣を持った女子高生が最後に立っていた。




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