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樹海に潜む者2

「ニール!どうするの、これ!」


 セルマが困惑するのも無理はない。

 ニール達が飛び出したのは森の魔物達と異形の何かを率いる人間達が対峙する戦闘の真っ直中だ。

 人間達と戦っている魔物側には冒険者と思しきシルバーエルフの男女がいるのだが、どちらが敵で、味方なのか?そもそもこの樹海の中に味方などがいるのか?判断がつかないのである。


「異変に追い立てられて魔物達が樹海から溢れた。その樹海の中で森の守護者たるドライアドが訳の分からない物と戦っている。状況は明らかですよ」


 ニールは動きを止めている魔物達の前に立ち、目の前の数十体の異形を観察した。

 それは、人型ではあるもののゴブリンやオークよりも醜悪で、耳元まで裂けた口、異様に盛り上がった肩、両の腕も異様に長く、直立していても地に着く程だ。

 更に、全身の筋肉が隆起して皮膚を破いて露出している。

 そして、瞳の無い真っ赤な目でニール達を見ている。


「知識としては知っていましたが、これ程とは・・・」


 ニールは呟いた。


「知っていた?」


 傍らでサーベルを構えたセルマが横目でニールを見上げる。

 背後に立つケイティーもニールの説明を待つ。


「セルマさん達には目の前の異形の者が訳の分からない人間に操られた正体不明の魔物に見えるでしょう?しかし、私達の前には人間しかいないのですよ。正確に言えば、人間と、人間だった者ですが」

「人間ですって?」

「はい、かつて世界を存亡の危機に陥れた魔王ゴッセルの出現と、それに伴う大戦で魔王軍が使用した人間の精神を破壊して理性を無くし、肉体を異常なまでに改造し、破壊と殺戮のかぎりを尽くす異形の者へと変える術がありました。その術を薬によって再現した結果が目の前の連中です」

「薬によってって、まさか!」

「はい、最近正体不明の宗教団体だかがばらまいて問題になっている新製麻薬ですよ」

 

 長刀を構えるニールの背後にシルバーエルフの2人も樹の上から飛び降りてきた。


「興味深い話しだ、我々にも詳しく聞かせてくれ。尤も、目の前の此奴らを始末した後の話しだがな。私は風の都市の冒険者、イズ・フェリスだ」


 双剣を構えた男性の方のシルバーエルフがニールの横に立つ。


「草原の都市のニールさんですよね?娘がお世話になったようです。アリエッタ・フェリスの母のリズ・フェリスです」


 背後では女性のシルバーエルフが弓に矢を番えている。


「イズ、リズさんって、伝説の勇者の双子のシルバーエルフの?」


 セルマが驚きの声を上げたがイズは薄く笑いながら首を振った。


「フッ、確かに私達2人は勇者の称号を得ているが、私達自身に大した功績があったわけではない。魔王軍との戦いも、イバンス王国の戦いも仲間達がいたからこそ生き残れただけだ。・・・それに、今はそんな無駄話をしている暇はないぞ」


 ニール達の乱入で一時は動きを止めていた異形達がニール達を包囲するようにジリジリと近づいてきている。


「ふんっ、破壊と殺戮本能だけの獣かと思いましたが、使役者がいると少しは違いますね」


 目の前の異形達を観察するニール。


「だったら、先に背後の連中を片づける?ニールの蟲ならば簡単でしょ?」

「いえ、先に使役者を始末すると収集がつかなくなり面倒ですので先に異形達です。多分、蟲の毒も効き辛いでしょうから力押しになりますよ」

「望むところよ。ニールや蟲達と連携するならば私以上の冒険者はいないわよ」


 セルマはサーベルに雷の魔法を宿らせて攻撃の機会を待つ。


「ニール、この戦い、お前に預けた方がよさそうだ。我々もお前の指揮下に入ろう。蟲使いの実力を見せてもらうぞ」

「森の平穏のため、私達も貴方様の命令に従いましょう」


 勇者の称号を持つ2人のシルバーエルフと森の守護者であるドライアドが命令に従うと申し出てもニールは表情を変えなかった。

 ニール自身もそれが最善だと判断しているのだ。


「ならば、先ずは敵の足を止めます」


・・・パチン


 ニールが指を鳴らすと目の前にいる数十体の異形達に対してそこかしこから蟲達が一斉に襲いかかった。


 デスワームが地中に引きずり込み、狼程の大きさの装甲蟻が喰らい付く。

 毒槍蜂は頭部への突撃でなく、首筋の神経線を狙い、その蜂達を援護するように硬糸蜘蛛の糸が異形達を絡め取る。

 そして、ニールの許しを得て飛び出した精霊蟷螂が半人半蟲の姿で斬り掛かる。


「奴等は人間や魔物のように痛みや恐怖にとらわれることはありません。どちらかというとその性質は蟲やアンデッドに近いです。いくら倒しても最後の1体まで壊走することはありません。両腕を斬ろうが、両脚を潰そうが油断してはいけません。1体1体を徹底的に、確実に倒す必要があります。常識的な戦いの概念は捨てて対処してください」


 蟲達を指揮しながら自らも前線に立ち、異形の首を刈り取るニール。

 それを見たセルマ達は目の前の相手に生半可な攻撃が通用しないことを理解した。

 セルマもサーベルを異形の首を狙って振り抜こうとするが、異様に発達した筋肉に阻まれて一撃で仕留めることができない。

 咄嗟にサーベルの刃から異形の体内に雷撃を食らわせて倒すことに成功したが、このまま前衛に立つのは危険だ。


「ケイティー、私達は連携魔法でニール達を援護するわよ」

「分かりました」


 後衛に回ったセルマの雷撃魔法とケイティーの光の祈り、絡み合う連携魔法は連射は出来ないものの、一撃で異形を倒すには十分な威力がある。

 

 イズとリズも様子見や力の温存をやめた。

 イズは土の巨人のノーム3体を

呼び出して力押しで異形を叩き潰す。

 精霊使いであり、死霊術士でもあるリズは5体のスペクターに炎の精霊サラマンダーを宿らせて異形達を焼き尽くす。


 そして、ドライアドも反応した。


「私達はニール様達との連携は困難です。敵の左右翼端から攻撃します。エント、トロル1体にオークとリザードマンが2体の3体一組で1体の敵に向かいなさい」


 魔物達を左右に展開させて異形達への攻撃を開始する。

 

 ニールの蟲の数を抜かせば数の上では不利な状況だが、ニール達3人、シルバーエルフの2人、森の魔物達が連携することにより、数の不利を力で押しのけて異形達を圧倒し始めた。

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