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新たなる出会い1

 薬草採取から数日後、新たなる依頼を受けたニールはとある村の周辺に出るゴブリン退治に当たっていた。

 小さな村近くにゴブリンの群れが居着いて農作物や家畜に被害が出ているとのことだが、貧しい村からの依頼で報酬が安いので誰も請け負わず、例によってニールが受諾したのだ。


 依頼を受けたニールは直ちに村を訪れたが、状況は悪化していた。

 ニールが日の出と共に到着する数刻前の未明に村はゴブリンの襲撃を受け、村の若い娘2人が連れ去られたというのだ。

 今なら間に合うかもしれない。

 ニールは蜂を偵察に出し、直ぐにゴブリン達の後を追った。


 ゴブリンの巣は意外な程呆気なく見つかった。

 村近くの森の中、さほど深くはないが、街道から離れ、村人が立ち入らないような場所に小さな洞窟の存在を追跡に放った蜂が突き止めたのである。

 

「こんな所に巣付くとは、ある意味意外だな。しかも、見張りもいない。5、6体の小規模な群れか」


 洞窟の中から娘達の悲鳴が聞こえる。

 とりあえずは無事なようだ。

 ニールは娘達をどう救出するか思案した。

 蜂と共に突入してゴブリンを殲滅することが手っ取り早いが、ゴブリンの耳は敏感であり、蜂の羽音に気付かれるおそれがある。

 そうすると娘達が盾にされたり、無意味に傷つけられたりする可能性があるので強行突入は使えない。


「まっ、この程度の敵ならば私が手を下すまでもないか」

 

 何やら悪役の頭領のような台詞を呟きながら残り2つのポーチを開けた。

 ポーチから出てきたのは1匹の羽虫、幻惑カゲロウの成虫だ。

 鬼揚羽と同じ位、手の平大の蟲だが、この蟲に毒はない。

 催淫作用のあるフェロモンを出して対象を幻惑させて抵抗力を奪い、体液を吸う、なかなかに凶悪な蟲だ。

 そして、もう1つのポーチから這い出して来たのは3匹の影蠍かげさそりだ。

 暗闇に潜むのに適した真っ黒な体に猛毒を持ち、音もなく接近する殺し屋で、この蠍に狙われると人間程度の体重の持ち主ならば刺されたことに気付かないまま絶命してしまう。

 当然ゴブリン程度ではひとたまりもない。


 ニールは4匹を洞窟内に侵入させた。

 洞窟の外で様子を窺っていれば、やがて洞窟内からゴブリン達の喜悦の声が響いてくるが、娘達の悲鳴は止んでいる。

 カゲロウの幻惑に陥ったようだ。

 ニールはそのまま四半刻程待ってから大毒狩蜂を肩に乗せて洞窟内に入った。


 洞窟はさほど奥行きもなく、直ぐにゴブリンの巣に到達したが、そこに巣くっていた5体のゴブリンのうち4体は影蠍に刺されて既に絶命し、残りの1体はカゲロウの幻惑に捕らわれ、生きたままカゲロウに体液を吸われていた。

 娘達はといえば、服の乱れも殆ど無い状態で倒れている。

 どうやらゴブリンに陵辱されずには済んだらしいが、恍惚の表情で気を失っており、彼女等もカゲロウの幻惑に巻き込まれてしまったようだ。

 まあ、強い催淫効果はあるものの、生命には影響がないのでそのままにしておく。

 しばらくすると満足したのか、ゴブリンに取り付いていたカゲロウが飛び立ってニールの頭の上に移動した。

 体液を吸われていたゴブリンだが、体の小さいカゲロウに吸われる量などたかがしれており、息も絶え絶えであるが、死んではいない。

 尤も、体の肉や内臓を溶かす作用のあるカゲロウの唾液を注入されているので放っておいても死ぬだろうが、ニールは棍でその頭を叩き潰し、ひと思いに殺してやる。


 これで今回のニールの仕事は終わりである。

 催淫状態で意識を失っている娘達を担いで村まで戻るのに苦労したり、依頼を達成したのに蟲使いというだけで村に入ることを拒否されたりと色々あったが、ニールにしてみれば大した問題ではない。

 加えて、依頼を出してからニールの到着までに時間を要したことについても、そのせいで娘達が危機に晒されたと村人達から非難された。

 ニールの到着が遅かったのは、他の冒険者が誰も受けずに余っていた依頼をニールか受けたからであり、ニールが受けなければ依頼不受諾として処理されるところだったのだが、そんな事情を村人達は知らないし、それを理解しているニールもいちいち弁解しなかった。

 ゴブリンの群れは殲滅したし、想定外だった娘達の危機も無事に救出することが出来たので依頼は完了であり、後はギルドに報告して報酬の6千レトを受け取るだけだ。


 村人の白い目に見送られ、草原の都市に帰還したニールはそのまま冒険者ギルドに報告に向かい、ギルドの受付にいた若い女性職員に依頼完了の報告をした。

 新人の職員はマニュアルを見ながら完了手続きを進める。


「はい、依頼完了です。この依頼、他の冒険者の誰も受けてくれなかったから村の人達を待たせてしまいましたね。でも、本来は不受諾になるところをニールさんが受けてくれたから村人さん達も喜んでいたでしょう?」

「ええ、まあそうですね」


 新人故に経験も少なく現場の事情も知らない若い職員の言葉を曖昧な返事で受け流したニールは差し出された報酬を受け取った。

 これで全て終わり。

 ギルドを出ようとしたニールだが、丁度その時に奥のギルド長の部屋から出てきたメリッサがその姿を見つけて駆け寄ってきた。


「ニールさん、ちょっとお願いがあります」


 メリッサに呼び止められて振り向いたニール。


「お願いですか?」

「はい、ギルドからの直接の依頼があるのですが、受けていただけませんか?」


 たった今、一仕事終えたところなのだが、事情も聞かずに拒否するつもりはない。 


「お話しを聞きましょう」


 頷いたニールはメリッサに案内されてギルドの応接室に通された。

 メリッサはニールにお茶を出すと説明を始めた。


「実は、ギルドからの直接依頼を受けて西の樹海に魔物の調査に向かった冒険者の応援に向かってほしいのです」

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