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南の山奥にて3

 ニールが同行を承諾するとアベルとクレアの2人はホッとした表情になると共に


クゥゥ・・・

 グゴォォゥ・・

 

2人揃って盛大に腹の虫を鳴らした。

 どちらがどちらの腹の音かは聞かなかったことにする。

 聞けば、2人共に2日程満足に食べていないらしい。

 とりあえず2人を夜営地に連れて戻ったニールはなけなしの食料を2人に与えた。

 ニールとて余分があるわけではないので、2人に分けた時点で足りなくなるのは必至なのだが、空腹で体力の落ちた2人を連れてより危険な場所に行くわけにもいかない。 

 分けてもらった食料を夢中で食べる2人を眺めながら、ニールは今後の計画を練り直した。


 せっかくの機会なのだから今後のためにも夜営時の見張りについても教えておきたいところだが、疲れきっている2人の体力回復を優先して休ませることにした。

 寄り添うようにして、泥のように眠るアベルとクレア。

 ザニーのパーティーと行動を共にしていた時に2人で夜通しの見張りをさせられたというが、面倒を押し付けられただけで緊張感の緩急をつけた見張りの要領などは教えられていないだろう。


 翌朝は少し予定を遅らせてアベル達が目を覚ましてから夜営地を出発した。

 例によって道案内のトンボについて行くが、事前に危険を回避してくれるので魔物との遭遇も無く、昼をかなり過ぎたころに目的地に到着した。

 

 そこは山肌に開けた赤い花の群生地だった。


「すごい、ヨシノサの薬草がこんなに・・・」


 クレアが驚きの声を上げる。

 今回の依頼の薬草であるヨシノサは呼吸器系の病に効果のある薬草であり、1株から抽出した薬液を稀釈して比較的多くの薬を作り出すことが出来るが、その取り扱いが難しいことで知られている。

 依頼では10株の採取だが、これは持ち帰る間の品質劣化を考慮した数で、依頼主のアルバートも10株のうち5株程度が使い物になればいいと想定しているのだろう。

 ただ、ニールにかかれば10株全てを新鮮な状態で納品することができるのだ。


「この周辺にはバジリスクが生息しているから貴重なヨシノサも乱獲されずに群生しているんです。それに、ヨシノサの種はバジリスクの餌にもなりますし、逆にバジリスクの毒がヨシノサの成長に必要でもある共生関係があるんです」


 ニールは説明しながらポーチを開いて3匹の蜂を周辺の警戒に向かわせた。


「さて、私は採取に入りますが、君達も2、3株持って帰ったらどうですか?ギルド提携の店で買い取ってもらえますよ」


 言いながら自分の仕事に取り掛かるニール。 

 手持ち無沙汰なアベルとクレアはニールの作業を見よう見まねでヨシノサを採取してみることにする。

 草の根元を注意深く掘り起こすと根菜のような太い根が埋まっていた。


「それが毒根です。触ったくらいでは問題ありませんが、絶対に食べては駄目ですよ。死にますから」


 アベルが思わず手を引っ込める。


「その毒根は毒が強過ぎて使い道がないのですが、毒根ごと採取することが大切なんですよ」


 見ればニールは毒根ごと綺麗に採取している。 

 毒と聞いたアベルは腰が引けているが、クレアはニールを真似して2株採取していた。

 

 ニールが10株、クレアが2株採取したところで日も傾いてきたからその場を離れることにする。

 ニールは警戒に出ていた蜂を呼び戻すと採取したヨシノサの毒根に蜂毒を注入させていた。


「それは何をしているんですか?」


 クレアが質問する。


「バジリスクの毒と大毒狩蜂の毒は性質が似ているんです。こうして毒を注入しておくことで新鮮な状態を保った状態で持ち帰れます。君達の株にも注入しておきました。これで買い値が上がりますよ」


 笑いながら説明するニール。

 他の冒険者からの評価とは裏腹に面倒見の良いニールにアベル達はニールの評価を改めて好感を持ち始めていた。


 株の処理を終えたニールは立ち上がった。


「さて、長居は無用です。少し強行軍になりますが、バジリスクの生息域から離れましょう」


 ニール達はヨシノサの群生地を離れ、下山を始めた。

 間もなく日が暮れるので、もう一晩夜営をする必要があるが、強力な魔物が多い山頂付近から少しでも離れるために下っておいた方がいいのだ。


 下山を始めて半刻程、前を歩いていたニールが足を止めた。


「どうしたんですか?」

  

 問い掛けるアベルの声を手で制してニールは耳を澄ませている。


「・・・やはり」


 振り返ったニールが呟いた。


「えっ?」

「バジリスクです。追ってきています」


 バジリスク、鶏の身体に毒蛇の尾を持つ魔物。

 中堅冒険者が複数で当たって対処するレベルの凶悪な魔物だ。


「どうします?逃げますか?」

 

 ニールは首を振った。


「無理ですね。完全に私達を狙って追ってきています」

 

 バジリスクの足は速い、しかも、蛇の鋭い感覚器を持っているので逃げたところで逃げ切れる筈がない。

 この場で戦うしかないのだ。

 アベルも戦斧に手を掛けてはいるが、自分では相手にならない敵であることは理解しており、戦闘になれば役に立たないことも自覚している。

 クレアも同様だ。

 武神トルシアの神官であるが故に剣技の心得もあり、レイピアを持っているが、修行で習っただけで実戦で役に立つような腕ではない。

 バジリスク相手にアベルとクレアは役に立たないばかりか、完全に足手まといだ。

 2人だけを逃がすことも考えたが、彼等2人だけでは生きて下山することも出来ないだろう。


「仕方ない。ここで迎え撃ちましょう。バジリスクは私が対処しますから、アベルはクレアのことを守ってください」


 ニールは蜂を放つが、同じ性質の毒を持つバジリスク相手では相性が悪い。

 必殺の毒が効かない以上は牽制が精一杯だろう。


 ニールは残り2つのポーチを開いて残りの配下を放った。

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