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うねりの始まり

 村の防衛についていた蟲達を呼び戻して草原の都市に戻ってきたニール達。

 帰還してギルドに入ったニールはちょっとした違和感を感じた。

 それでも受付に座るメリッサに依頼達成の報告を済ませ、等分した報酬を手にギルドを出た4人。

 ギルドを出る際に横目で依頼の掲示板を見たニールは違和感の原因が何であるかを理解した。


「さすがに疲れたな・・・」

「ホント。こんなに大掛かりな仕事は始めて。でも、これで少しは蓄えができる。万が一に備えて大切に使わないとね」


 ギルドを出たアベルとクレアがにこやかに話している。

 無事に全員が生還したことと、依頼を達成した心地よい疲労感に包まれて気分が高まっているのだろう。

 確かにニール達が到着してから、村を守り、地下墓地に逃げ込んでいた人々を救出し、ニール達やアリエッタも無事だった。

 しかし、それ以前には幾つもの町や集落が壊滅し、数百の人々が犠牲になったという現実もあるのだが、今のアベル達は目先の依頼を終えた達成感の方が大きいのだろう。

 むしろ、冒険者の仕事の大半は何かに苦しむ人々がなけなしの金をかき集めてギルドに依頼するのだから、既に起きてしまっていた悲劇にまで冒険者が責任を感じる必要もないのだ。 

 それを知るニールもセルマも浮かれているアベル達に水を差すようなことは言わない。


「私も早く冷たい水を浴びて身体の汚れを拭いたいです」


 セルマの純白の服はその特殊な素材故に汚れらしい汚れも付着していないが、汗にまみれた身体を流したいという気持ちは当然だろう。

 アベルにしてみれば、仕事が終われば酒場に繰り出して喉を潤したい気持ちもあるが、女性2人の欲求はそうではなく、その前ではアベルの欲求など小さく、呆気なく吹き飛ばされる。

 そこで、ニールの提案で今回の仕事の打ち上げは後日にすることにして、今日のところはこの場で解散と相成った。


「ニールさん、勉強になりました!」

「また、色々と教えてください」


 アベル、クレアと別れ


「ニールさん、またお願いしますね」


セルマを見送ったニール。

 3人と離れると浮かべていた笑みを消し、踵を返して歩き出した。


 メリッサはギルドで普段どおり、仕事をテキパキとこなしていた。

 ニール達も無事に戻り、仕事も順調の筈なのだが、どうしてもギルドの隅に目がいってしまう。

 そうはいっても、メリッサにはどうすることも出来ないのだ。

 ふと気が付くと、ギルドに見慣れた人物が入ってきた。

 たった今、仕事を終えて帰還し、報酬を受け取って帰った筈のニールだ。

 ギルドに入ってきたニールは真っ直ぐ依頼の掲示板に向かい、端に貼られた依頼に目を通している。

 

(まさか・・・)


 メリッサが思ったとおり、ニールは1枚の依頼書を持ってメリッサの前に立つ。


「これを受けます」


 普段は自分の仕事に厳しく、表情を変えることのないメリッサが複雑な表情を浮かべた。

 それは、誰も受諾しなかった依頼をニールが引き受けてくれた安堵、ニールならば引き受けてくれると心の隅にあった信頼、この依頼をニールが受けなければならない理不尽さ、そして、とてつもなく危険な依頼にニールを向かわせる不安。

 様々な感情がグルグルと回り、メリッサ自身、自分がどんな表情を浮かべているのか分からない。

 それでもメリッサはギルド職員として私情を排して自分の使命を全うする。


「分かりました。連続での仕事になりますが、十分に気をつけてください。詳しいことは依頼人にお訊ねください」


 依頼受諾の手続きをするメリッサ。

 ニールが受けたのは行方不明の冒険者の捜索と救出だ。


 手続きを済ませたニールはギルドの隅でうなだれたまま、ひっそりと座る人物の前に立つ。


「貴女からの依頼を受けました。事情を説明してください」


 ニールの声に憔悴しきった表情で顔を上げたのは、薄緑の法衣を着た神官のケイティー。


「お願い・・・2人を・・ザニーとカーラを助けてください!」


 ニールを見上げ、絞り出すような声で懇願する。


 ニールが受けたのはケイティーからの依頼、東の地下遺跡で行方不明になったザニーとカーラの捜索と救出であった。

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