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精霊喰らい2

「何これ・・・気持ち悪い・・・」


 セルマが思わず呟いた。

 ニールとセルマが立ち入ったその森は木々は完全に枯れ果て、動物や魔物がいる気配すら無い。

 風も無く、空気は停滞して澱んでいて、木々が枯れたままで時間が止まっているようだ。


「間違いありません。エレメンタル・イーターの仕業です」


 ニールは蟲達に全周囲の警戒を命じて自らも棍を構えた。

 セルマもニールの背後を守るようにサーベルを構える。


「ニールさん・・・敵に出会う前に言っておきます。私はエレメンタル・イーターに限らず少数で大物の魔物を相手にしたことがありません。正直言って怖いです」


 セルマの率直な言葉に振り返ったニールだが、セルマの目はしっかりと周囲を見ていた。


「今ならまだ撤退できますよ」


 ニールは苦笑しながら尋ねてみるが、セルマは首を振った。


「怖いのは事実ですが、撤退するつもりはありません。戦いが始まったら弱音なんて吐いていられませんから先に吐いておくんです。いつものことなんです。私から声を掛けておいてすみません。耳障りかもしれませんが、聞き流してください」

「大丈夫ですよ。それに、恐怖は生き残るための重要な要素です。恐怖心を軽んじる者は長生きできません。セルマさんのように恐怖をコントロールすることが大切なんですよ。だからこそセルマさんも今まで生き延びてきたのでしょう?」

「はい。あの、足手まといになりませんので、宜しくお願いします」


 セルマの返事にニールが頷いた直後、その表情が険しくなる。


「近づいてきます。・・・チッ!また風切蜂がやられました。奴め、精霊喰らいといっても他の物も喰らうらしいですね。損害ばかり増えてしまう、風切蜂を下がらせます」


 そう決断したニールの下に戻ってきた風切蜂は僅かに3匹。

 ギルドに使いに飛んでいる1匹を含めても半数以上は喰われてしまった。


「間違いなくこっちに向かっています。セルマさん、炸裂系の魔法は何か使えますか?」


 ニールの質問にセルマが頷く。


「はい、サンダーアローとバレット・ボムが使えます。ただ、どちらもあまり強力ではありません」

「命中精度は?」

「それならば自信があります」


 ニールは頷いた。


「それでは、私と蟲達で前衛を務めます。セルマさんは何時でも魔法を放てるように備えていてください」

「分かりました!」


 2人と蟲達は死んだ森の奥を見据えた。

 未だに姿は見えないが、枯れた木々を踏み荒らす音が近づいてきている。


 ニールは鉄甲地蟲を前面に進めた。


「足音からだけでも分かります。かなりの重量級ですね。まずは足を止める必要があります」


 鉄甲地蟲を正面に、紅孔雀蟷螂とデス・スコーピオンを左右に配置し、装甲蟻と槍蜂は一旦後方に下がらせる。

 大型の魔物相手ではその足を止めないと装甲蟻は取り付けないし、槍蜂はニールの作戦の要になる筈なので温存する。

 

 やがて、ニール達の前にエレメンタル・イーターがその姿を現した。

 体長は5メートル程度、全身に木の皮のようなものを纏い、4対の足で大地を踏みしめるその様はまるで地竜の様であり、ニール達に向かって一直線に向かってくる。


「奴め、別のドライアドを喰ったな・・・上位精霊を取り込んだとなると、かなりの強敵だ」


 ニールはセルマと装甲蟻を後退させた。


「先ずは奴の足を止める!」


 鉄甲地蟲が角を突き出して突進した。

 体格はエレメンタル・イーターの方が大きいが、体重では負けていない。

 しかも重心の低い鉄甲地蟲ならば押し負けることは無い筈だ。


 真正面から衝突したエレメンタル・イーターと鉄甲地蟲だが、ニールの読み通り、鉄甲地蟲はエレメンタル・イーターの巨体をがっちりと受け止めた。

 低い位置から角で突き上げてエレメンタル・イーターを仰け反らせる。

 即座に紅孔雀蟷螂とデス・スコーピオンがエレメンタル・イーターの腹の下から襲いかかった。

 紅孔雀蟷螂の鎌が切り裂くが、致命傷までは与えられない。

 

「毒は効くか?」


 紅孔雀蟷螂が切り裂いた傷口にデス・スコーピオンがその尾を打ち込む。

 大型の魔物ですら死に引きずり込む猛毒だ。

 デス・スコーピオンの毒を喰らったエレメンタル・イーターが一瞬だけ痙攣し、どす黒い吐瀉物を吐いたが、直ぐに鉄甲地蟲を押し戻そうともがき始める。


「効いてはいるが・・・駄目か」


 先手を打ったニールだが、エレメンタル・イーターを仕留めるには至らない。

 それどころか、一度はエレメンタル・イーターを苦しめた猛毒も効果が薄れているようだ。


「他者を取り込んで成長するだけある。なんて適応能力だ」


 攻撃の手を止めてはいけないと装甲蟻を前進させようとした時、エレメンタル・イーターが鉄甲地蟲を押しのけ、長い舌をニール目掛けて振りかざして向かってくる。


「しかも、直ぐに私を指揮者だと見抜きましたね」


 ニールはエレメンタル・イーターの舌をかいくぐって間合いを詰め、その頭部目掛けて棍を振り抜いた。


ガンッ!


 オークの頭蓋すらも容易く砕くニールの一撃だが、エレメンタル・イーターの外皮を破ることは敵わなかった。

 そのニールに鞭のように唸るエレメンタル・イーターの舌が襲いかかった。


「クッ!」


 咄嗟に棍で受け止めたが、そのまま地面に叩きつけられる。

 追い打ちに倒れたニールを踏みつけようとするエレメンタル・イーターの横腹から鉄甲地蟲が体当たりを仕掛けた。

 勢いに任せた鉄甲地蟲の突撃は、その角でエレメンタル・イーターの横腹を貫く。


「ニールさん!」


 その隙にセルマが駆け寄ろうとしたが、ニールは即座に立ち上がってそれを制した。


「私は大丈夫。予定どおり、何時でも魔法を使えるようにしていてください」


 ニールは不敵に笑った。

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