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精霊喰らい1

 ニールとセルマは再び鉄甲地蟲に乗って樹海を進んでいた。


「あの、ニールさん。エレメンタル・イーターってどんな魔物なんですか?」


 セルマが後ろから質問してくる。


「話したとおり、吸収した精霊の力によってその姿は大きく変わりますが、全てのエレメンタル・イーターに共通するのは4対の脚を持つことだけです。また、個体によって攻撃能力や耐性が違うので、これといった対処方法がありません」

「それって、つまり・・・」

「はい、直接見てみるまでどんな敵か分かりませんし、倒し方も実際に戦って見極める必要があります」

「厳しいですね」

「それでも、魔法による攻撃は有効らしいですよ。だからセルマさんに期待しますよ」

「うっ・・・はい、頑張ります」


 正直言えばセルマも自信はなかった。


「頑張りますが、私の魔法では力不足だと思います。それでも全力は尽くしますので、指示をお願いします」

「策は考えています。幸い、今回は敵の正体が不明だったので戦闘力に特化した蟲達を連れてきました。まあ、為す術なく、といったことにはならないでしょう」


 ニールの頭上では黒蛇蜻蛉が警戒し、風切蜂が先行して偵察に当たっている。

 どちらも高い機動力と戦闘力を有する蟲ではあるが、しかし、これらの蟲は今回は斥候であり主力は別に連れてきているのだ。


 樹海の奥へと進んでいた時、突然ニールが鉄甲地蟲を止めた。

 まだ、周囲には木々が生い茂り、空気も澄んでいる。


「どうしました?」

「死体です」

「えっ、魔物のですか?」


 ニールが指差す方向を見てもセルマには分からない。


「ちょっと待ってください。蜂が調べています」


 ニールが鉄甲地蟲から降りたのでセルマもそれに習う。

 黒蛇蜻蛉も前進している。


「枯木?」


 風切蜂や黒蛇蜻蛉が飛び回る下には枯れ木が転がっている。


「木人、エントです」


 エントとは豊かな森に住むと言われる森の守り人である。

 樹木の身体を持ち、穏やかな性格と強い力を持つ亜人であるが、深い森の奥に住むので人との接点は殆どない。

 旅人が森で迷った時に会うことが出来れば幸運で、他の魔物から守ってくれながら安全な場所まで送ってくれるが、木こりが出会うと森の更に奥に連れ込まれてしまうといった言い伝えがある。

 尤も、これは森をむやみに荒らしてはいけないという戒めの話しであり、実際には乱獲さえしなければ木こりにも穏やかに接するし、森に住み、森の木々で家を作るエルフやホビットとも友好な関係だ。

 

 ニールは腰の鉈を抜いた。

 

「とりあえず危険はなさそうですが、気をつけましょう」


 エントの死体に近づくニール。

 セルマも一定の距離を保ちながらサーベルを抜いて後に続く。

 

 横たわるエントの死体は言われてみなければ枯れ木が倒れているだけのように見えるが、よく観察してみると手足があり、顔もある。


「エントの生態はよく分からないのですが・・・やはり枯れていますね。栄養が足りていなかったのか?いや、何かと戦って力尽きたようですね」


 ニールが指示するのはエントの右腕と右脚だ。  

 丸太のような腕や脚がへし折れている。


「これを折るとは、相当な力の持ち主です」


 セルマは黙ってニールの説明を聞いている。

 この手の情報収集や分析はニールに任せた方が良さそうだ。


「破片が落ちている方向に向かえば目的地。そう遠くはありませんね。ここからは私達も歩いて行きましょう。いつ敵に遭遇するかも分かりませんからね」


 ニールは鉈を収めて棍を手にすると鉄甲地蟲の鞍と蟲や荷物を入れたケースを下ろした。


「その前に、腹ごしらえをしておきましょう」


 ニールは水と携行食を取り出した。

 何時、戦闘に入るかも分からないから満腹になるわけにはいかないので蜂蜜団子と水で空腹を凌ぐ。

 

「この携行食は美味しいですね。通常の携行食とは大違いです」


 冒険者が普段持ち歩く干し肉やパンやビスケットの携行食に比べて蜂蜜味のニールの携行食は段違いに味が良い。


「まあ、蜂蜜と小麦粉と・・色々を混ぜて丸めて焼いただけですから、栄養に偏りはありますが、直ぐに力になりますからね。戦闘前に食べるには丁度いいんですよ」

「色々?」

「まあ、色々です。火が焚ければ干し肉やパンの方が食べ応えがありますけどね」

「はあ、まあそうですね。で、色々って?」

「大丈夫ですよ。結果的には栄養があるものですから」


 ニールは話題を逸らして水を一口飲むと立ち上がった。

 セルマも慌てて蜂蜜団子を水で流し込む。


「そろそろ行きましょう。ここから先は何が起きるか分かりません。慎重に進みましょう」

「分かりました。で、今度蜂蜜団子の作り方を教えてください。主に材料的なものを」

「それはまた、いずれ・・・」


 ニールはセルマに視線を合わせずに鉄甲地蟲から下ろしたケースを開いた。

 1つのケースから出てきたのは拳よりも大きな装甲蟻が数十匹、別のケースからは、やはり拳大の蜂が数十匹。

 

「装甲蟻と槍蜂です。どちらも戦闘力特化の蟲です」


 装甲蟻は蟻が持つ高い集団性と凶暴性、強靭な顎に加えて強固な装甲に身を包んだ蟻だ。

 槍蜂は毒こそ弱いが、尾から前方に向いて曲がった鋭い針を武器に目標に特攻する蜂だ。

 特攻の際には風切蜂を上回る速度で目標の体内に突っ込み、内側から食い荒らす肉食の蜂である。

 主に熊や大型の魔物を獲物としているが、人間程度ならば易々と貫通してしまう程の威力を持つ。

 そして、もう1つのケースから出てきたのは小型の犬程の大きさの1匹の蠍だ。


「ニールさん、その蠍って!」

「まだ若い個体で小さいですが、死蠍、デス・スコーピオン、私のとっておきの1匹です。エレメンタル・イーターに毒が効くかどうか分かりませんが、毒だけでなくハサミの攻撃力も確かです」


 デス・スコーピオンは冒険者ならば誰でも知っている恐ろしい蠍だ。

 最大で3メートル程の大きさになるが、更に進化すると10メートル級の凶蠍、マッド・スコーピオンになる個体もいる。


「紅孔雀蟷螂と死蠍に鉄甲地蟲、装甲蟻と槍蜂がそれぞれ30。私が一度に使役できる最大戦力で、大抵の敵ならば何とかなる布陣です。しかし、エレメンタル・イーター相手にどこまで通用するか・・・」

  

 風切蜂と槍蜂が先行し、装甲蟻と死蠍が続く、ニールの横には体を大きくした紅孔雀蟷螂が控え、後方を鉄甲地蟲が守る。

 

 ニール達はいよいよ死の森へと近づいていった。

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