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樹海からの依頼2

 樹海のドライアドからの依頼を受けたニールとセルマ。


「あの、私はこのままの装備で大丈夫です。水と食糧を準備すれば直ぐにでも出発できますよ」


 セルマは軽鎧にサーベルを装備、手首には魔石の嵌められた腕輪をはめている。

 左の肩当ては取り外して小盾としても使えるらしい。

 最初から何か依頼を受けるつもりだったらしく、既に完全装備であり、本人が言うとおり後は水と食糧を準備するだけだ。

 ニールも装備は全て身に着けている。


「長丁場になるかもしれません。樹海ならば水も食糧も現地調達できると思いますが、念のため食糧と水は多めに持って行きます。少なくとも10日分は準備しましょう」

「あの、10日分も用意したら荷物が重くなります。すみませんが私、力は強くないので、あまり重い荷物は長く持っていられません」

  

 荷物が増えれば重くなり、その分体力を使う、当然のことだ。

 

「長丁場だけでなく、激しい戦闘も想定します。備えられることは備えて行きましょう。大丈夫です。今回は私の蟲達も強力な布陣で行きますし、移動の足や荷物運びにも蟲を使います」


 ギルド提携の店で10日分の水と食糧を買った2人は準備のためにニールの家に立ち寄った。

 ニールは家の中から鞍を2つといくつかの大きめの革のケースを引っ張り出してきた。


「あの、その鞍って?」


 不安そうに尋ねるセルマ。


「蟲に乗るための鞍ですよ」


 言いながらニールは指笛を鳴らした。

 ニールの指笛に応えて地中から這い出してきたのは芋虫とダンゴムシを混ぜたような蟲だった。

 全身に固い甲羅を纏い、頭部と尾にそれぞれ一対の角を持つ。

 その大きさは牛を3頭並べた程に巨大だ。


「ヒッ!」


 セルマが声にならない悲鳴をあげた。


「鉄甲地蟲です。大丈夫、見た目によらず大人しい蟲ですよ」


 説明しながらその背に2つの鞍を取り付けて、革のケースに何やら蟲を入れているニール。

 どうやらこの蟲は2人乗りのようだ。


 蟲に詳しくないセルマでもこの蟲は知っている。

 大人しい性格で、馬や牛よりも力が強いため、非常に珍しいが、馬車や牛車替わりに使役して運送業を生業としている者がいるからだ。

 しかし、大人しかろうが何だろうがセルマには関係ない。

 鉄甲地蟲のその風貌が本能的に受け入れられないのだ。


「こっ、この蟲に乗って行くのですか?」

「はい。普段は流石に目立ちますので連れて行けませんが、今回は人の居ない樹海ですからね。こいつなら樹海の中でも突き進みますし、戦闘でも役に立ちます」


 セルマの不安をよそにニールは革のケースやその他の荷物を鉄甲地蟲に取り付ける。 

 セルマはこの時になってほんの少しだけ、ニールとパーティーを組んだことを後悔した。


 そんなセルマをよそにニールは鉄甲地蟲の背中に乗り、セルマを見る。


「さあ、行きましょう。大丈夫、乗り心地は馬よりも滑らかですよ」


 セルマにとっては全然大丈夫ではないのだが、自分だけ歩いて行くわけにもいかない。

 覚悟を決めてニールの後ろの鞍に乗り込むと、鉄甲地蟲は西に向かって進み始めた。


 いざ出発してみれば鉄甲地蟲は馬車並みの速度で進み、その乗り心地は驚く程滑らかで、まるで地面を滑っているかのような感覚だ。

 体の下にある多数の脚のおかげだろう。

 このまま樹海に行けるならば、体力を温存できるし、荷物を運ばせることもできる。  

 ただ、街道でたまにすれ違う旅人等がギョッとしたような表情を見せるのが気になるところだ。


 それでも、樹海に近づくにつれて行き交う人の姿も無くなり、セルマも鉄甲地蟲に慣れてきて、ずっと背中に乗っていて感覚が麻痺してきたのか、可愛さすら感じつつある。

 乗り心地の良い鉄甲地蟲の背中に乗ったまま睡眠を取りながら夜通し進み続け、翌日の夜明け前には樹海の入口に到達した。  



 ニールは腰のポーチから10匹の風切蜂を放つ。

 樹海の進路の偵察のためだ。

 更に別のポーチから取り出したのは漆黒の体に強靭な顎を持つ百足に羽が生えたような蟲、黒蛇蜻蛉こくじゃとんぼ


「ニールさん、その蟲って森の迷わせ屋ですよね?」

 

 セルマはニールの腕に巻きついた黒蛇蜻蛉を覗き込んだ。

 セルマが言うとおり、黒蛇蜻蛉は森の中を漂い飛びながら獲物を待ち、森に入った獲物を森の奥に誘い込んで迷わせ、力尽きるのを待って襲う蟲だ。

 この蟲の厄介なところは、後を追えば誘い込まれるし、逃げようとすれば追い込まれ、結局は迷ってしまうということだ。

 尤も、それほど強い蟲ではないので狙われるのは新米冒険者や森に入った木こりや猟師、旅人等で、中級冒険者ならば隙を見せずに相手にしなければ襲われることはない。


「黒蛇蜻蛉は感覚器が鋭く、かなり広範囲の様子を探り、僅かな異変も見逃しません。風切蜂を偵察に出し、黒蛇蜻蛉に周囲の警戒をしてもらいます」


 腕を上げると黒蛇蜻蛉は羽を広げてふわりと浮かび上がり、ニールの頭上をヒラヒラと漂うように回り始めた。


「さて、それでは樹海に入りますか」


 ニール達を乗せた鉄甲地蟲は樹海へと分け入った。

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