缶コーヒー、それとメール会話。
更新遅くなりました!
「で、柊木…じゃなくて怜華はテスト勉強ちゃんとやってる?」
「んー、私は前の学校の方がやや進んでたから、今回は大丈夫そうだなー…」
「それはまた…。それはそうと、この学校でかれこれ3日経つけど、どう?」
「それなりに上手くやれてるかな。まあ奏のお陰が大きいけど…」
と、返答して、
「奏、随分お母さんみたいなこと聞いてくるね…というか、ほぼ同じ文面を昨日の夜お母さんから聞いた気がする…」
と、追加でコメントする。奏は「そんなに年取った覚えは無いんだけどね」と苦笑が漏れた。
現在、「勉強会」の翌日、放課後。濃野さん…こと未悠とは、昨日から一切話していない。というか、学校ではそもそも私に話しかけてこない。何故なのかは分からないけど、五十峰さん…こと奏曰く、何か「形容しがたい話しかけるなオーラ」を発しているそう。まあ、私から見ても若干近寄りがたい空気を感じる。屋上だとそんな雰囲気は…そこまで、無かった気がするけど。
昨日、タメ口で話す権利を頂けた私は、その勢いでお互い名前で呼び合おう、という事を提案し。やった、という上機嫌のままで五十峰さんにもその旨言ってみたら、難なく許可を頂けた。
正直、浮かれてる気が無いわけじゃないけど、まあ今の所失敗してないっぽいし、当面はこのままで大丈夫だと、思う。
「そういえばさ、怜華は今週末とか空いてる?」
「うわ、突然だね…。えっと、多分空いてたと思うよ?特に重要な用事は無かったと思う」
「お、それは良かった!えーっと、予定分かったら連絡して!」
「了解!」
そんなことがあって。
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「やっぱりここ暗くない?」
「そう?暗い方が集中できるらしいけどね」
そう言って未悠は少しスマホをいじり、画面を私に見せてきた。
「『映画館効果』…?ってこれ、スタンドライトとかある前提の話じゃん」
「あ、本当だ」
2日連続でこの廃ビル――何階かは分からないから、屋上マイナス1階とでも呼ぼう――に、私は来ている。
勉強机代わりに使っている廃棄されたものらしき机は開け放された窓から入り込んだ…砂?のようなものでザリザリしていて快適とは言えないけれど、なんか秘密基地みたいだな、なんて年甲斐もなく少しワクワクしてしまう。
それから、勉強会…なんて一応言ってはいるが、実際のところ一人で勉強するより効率は悪いと思う。それでもまあ学力面ではやや進んでいるわけだし、未悠との距離を縮めるに越したことはないから、私にとっては害はない。
――ただ、数合の短い会話がぽつぽつとあるだけで、そんなに距離が縮まったりしている印象は無いのが実情。後は、跡切れ跡切れにカリカリ、というシャーペンを走らせる音が聞こえる程度。雰囲気を例えるなら、図書館とでもいうか…なんて、思いながら机の上に置いてある青い缶のコーヒーをとる。
ていうか未悠、会った初日はあんなに怖がってたのに今はもはや素っ気ないくらいの態度になっているのは、適応力が意外と高いのかも知れない。なんて考えていると、
「そういえば、」
未悠がこちらに話を振ってきた。
「学校は大丈夫?」
缶を取り落しそうになった。慌てて感を机に置き直す。
「えっとさ、流行ってるのそれ?」
「流行って…?」
「いや、学校でほぼ同じ質問されたからさ…」
そういうと、未悠の返答は「そうなんだ」。
…ああ、会話が続かない!奏並みのコミュ力を誰か!なんて事を考えながらシャーペンを走らせていると、
「ちょっと上行ってくる」
「上って…ああ、了解!」
未悠が階段をのぼる音が途絶えたところで、大きく伸びをする。にしても、ここまで会話続かないもんですか…なんてひとりごちる。
と、携帯の着信音がした。見ると、未悠からだった。文面は[おーい]。
(なんでわざわざメールしてきたんだろ…?)
別に直接話せばよかったんじゃないかな…、と考えてあることに考え至る。
(ああ、未悠も気まずかったんだ)
そう考えて、でもいい返しが思い浮かばなかったから[何?]と返信する。我ながら素っ気ないと思う。
その後のやり取りはくだらない日常会話じみたものだった。例えば、どの授業は眠くなりやすいとか、そういった類のもの。でも過去最高で会話(?)が続いた。でも意外と時間が経つのは速いもので、気付いたときにはもう空は暗くなっていたり。
私も屋上に上がって、未悠に「じゃあね」と告げて廃ビルを後にした。「じゃあね」の返事はよく聞こえなかったけど。
そのまま帰路を辿っていると、3分程度歩いたところで携帯の着信音がした。未悠からで、文面は[じゃあね]。
まあ当面はこれでいいかな、なんて少し考える私だった。
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ちなみになんだけど、その夜は未悠と日付が変わるくらいまでメールし続けたために翌日寝不足になって奏に心配されたりした。
意外とこの体、睡眠時間は長くとらないとだめなのかも…