ノートの端、あと驚愕。
屋上再びです!
――放課後。私はあの屋上にいた。コーヒー缶はまだ落ちたままだった。母には「帰り遅くなる」とメールしておいたので、ある程度時間は大丈夫だろう。
「はぁ…」
それにしても、まさか「先輩」と同じクラスとは…。いや、まだ確証が得られているわけでは、もしかしたら双子とかかもしれないし…。まあ、あの反応を見れば、確証以上の物が得られたも同然だろう――
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「んー…!」
6時間目終了と同時に大きく伸びをする。そして、起立礼の後に勢いで椅子に座り込む。特に友達がいないわたしは、そのまま机に突っ伏してちらりと今日やってきた転校生――自己紹介していたが、よく聞いてなかったから名前は分からない――の方を見る。質問攻めの憂き目に…いや、憂き目ではないか?とにかく、質問攻めにあっているその転校生は、心做しかおろおろしている様にも見える。そのまま、見続けること数秒。
「…」
あ、目が合った。目を逸らす。そして、また数秒突っ伏してから突っ伏していても何もないか、なんて単純なことを考えて起き上がり、鞄を持ってふと机を見ると、折りたたんだノートの切れ端のようなものが置いてあることに気付く。
「…?」
教室内を見回す。わたしにこんなものを寄越してくるような友達はいないはず。と思うと、例の転校生が教室を出るところだった。もしかして、と思ってそっちを見ると、あっちもこちらを見てきた。何となくまた目を逸らし、照れ隠しと言うか、でノートの切れ端を開いて中を見る。そこには、やや丸っぽい文字でこう書かれていた。
[「先輩」へ。本日、あの屋上で。]
思わず立ち上がる。ガタ、と椅子がやや大きな音を立てるが、気にする余裕なんてない。転校生はもういない。走って今すぐ追いかけ、問い詰めたい衝動と、同程度の恐ろしさを感じる。
とりあえず、行くべきか?行かざるべきか?
わたしは、あの日の事を思い返していた。
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――どうしてこうなったの!?
と、叫びたい。さっきまでわたしの事を「先輩」と呼んできていた妙な少女が、現在目の前で倒れている。それだけでも大半の人は驚くだろが、その少女はわたしの命の恩人で、というかわたしが調子乗って柵の外側なんかに立ったりしてみたのが全ての原因で、というか少女が目を覚ます様子がない!
「おーい!」
揺さぶって声をかけてみても起きる気配は一切ない。
「と、とりあえず救急車…!」
近くに置いてある鞄を取って、中からスマホを取り出そうと…ない!?よく見てみても…やっぱりない。あ、家に忘れたんだった…!なんでこんな偶然が重なるの?
「どうしよ…」
助けを呼ばない選択肢はないけど、ここから離れるのも…十数秒の逡巡の末、わたしはとりあえず屋上から降りて助けを呼ぶことにした。
非常階段を転ばないよう気をつけながら駆け下り、半分ほど降りたとき。屋上から「ガタッ!」と大きな音がした。混乱の絶頂にいるわたしは、たったそれだけで「ひう!」と情けない悲鳴を上げてしまう。というか…音?あ、もしかして起きたとか?とそこまで考え、わたしはまた屋上に向かう。
屋上には…誰もいなかった。
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あの事は忘れようとしてたのに…。幻覚かなんかだと思ってたのに…。
まあ…よく考えると行かないという選択肢はない。なんか呪われたりしそうだし…。
わたしは自己ベスト更新並みの速度で荷物をまとめ、教室をでた。そのまま廃ビルまでの道をダッシュ…しようかと考えたけど、追いつくのも恐ろしい気がする…なんか今、めっちゃ臆病になってない!?とにかく、最善の手はあの屋上で手紙の主と会うことだろう。半ばあきらめたような心地で、わたしは道を進んでいった。
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現在、私の脳内には「?」が咲き乱れている。屋上で「先輩」を待っていたら、数分遅れてやってきた「先輩」がわたしを見た瞬間に「すいませんでした!」と言って深々と頭を下げてきたから。そのまま何分経ったのか…。体感的には5分ほど。ようやく「頭を上げてください!」と言うと、「ばっ!」って音がしそうな速度で頭を上げられた。オーバーリアクションなのかなこの人…。というか顔色が悪いような気が…。「大丈夫ですか?」と聞くと消え入りそうな声で「大丈夫です…」と返ってきた。大丈夫じゃないなこれ。
「とりあえず…そこ座って下さい」
何の目的で作られたのか分からない、コンクリートの出っ張りを指差す。私もよく椅子代わりにする場所。
それで…本題、じゃなくて。
「えっと…なんで急に謝ってきたんですか?」
尋ねると、「え?」という声。あ、もしかしてこれは。
「もしかして、私のこと、屋上で倒れた少女だと思ってます?」
またも「え?」。しかし、今回のは「違うの?」と問いかけて来るような「え?」だった。
「えーっと…まあ一応そうなんですけど…、とりあえず、あの後何があったのか教えてくれませんか?」
そうそう、これが本題。聞くと、「先輩」はぽつぽつと話してくれた。そういうことになってたのかー、と、私は少し驚いたりした。それと、聞くに、「先輩」は自分のせいで私が死んだと思っているようだった。
「あー…別に気にしてないですって…むしろこの体前よりいいくらいなので、感謝というか…」
と言って落ち着いてもらおうとしても、「でも」と言われて遮られてしまう。ああ、面倒臭いなこの人!
「ああもう、とりあえず、自己紹介してください!」
いらいら半分で「先輩」にそう言う。「先輩」からはボソっと「濃野 未悠です…」という声が聞こえた。もう「先輩」って呼ぶのやめたほうがいいかな。同学年だから。
「私の自己紹介は学校でしたから大丈夫ですよね?」
「え…?」
また顔色が悪くなる先輩。
この人との付き合いは大変になりそうだな…という予感を私は覚えるのだった。
キャラのネーミングセンスないの許してください…