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二度目の人生は、屋上の秘密。  作者: 具流美あみ
序章 マーブル模様と準備期間。
3/7

自宅にて、失踪事件と好みの変化。

「ここが…?」


 新しい自宅(・・)に着いて、何度目かの既視感と、軽い頭痛。まあ予想はしてたけど。

 それと、一夜寝て起きて気が付いたのだが、段々、思考が楽観的というか、やや明るくなっていっている気がする。それは段々と思考が自分のものじゃなくなっていくような感覚で、嫌な感覚ではないが、少し不安になる。とか考えていると、


「ほらほら、入っていいんだよ?」


 と、母に促された。母からすれば私が家をぼけーっと眺めているように写ったのだろう。

 

 新しい家は2階建てのありきたりな、それでいて可愛らしい外見だった。玄関で靴を脱いで、階段を上って自室に向かう。部屋に入るとすぐ後から母も入って来た。


「どう?落ち着く?」


 私は一応意識不明の重体を負った身なので、母も心配してくれているようだ。


「うん…」


 私は部屋の奥に進んでベッドの上に座り、そのまま壁にもたれかかる。そして、他人の物に座っている様な若干の申し訳無さと、安心感に襲われえる。


(この感覚は当分慣れる事はなさそうだな…)


 まあ、二人の記憶が介在しているのだから、こういう相反する感情が同時に起こると言うのも自然なことだろう。慣れていくしかないか。

 新しい自室はそこまでファンシーな感じではなく、むしろ落ち着いた雰囲気だった。

 家具は、ベッド、クローゼット、階段型の棚、それと収納が付いた机に、椅子。それと、緑の丸いラグが床に敷いてある。可愛らしさを醸し出しているのは、枕元に置いてあるペンギンとアライグマのぬいぐるみだけ。

 キョロキョロと部屋を見渡していると、母に「やっぱり帰ってきて新しい家だと落ち着かないよね」と苦笑されてしまった。いや決してそういう訳では無いんだけど。そのまますぐ、母は家事をしに部屋を出ていった。

 現在時間は昼過ぎ。食事は外で済ませたため、夜まで時間がある。引っ越しをした後すぐに荷物の片付けなどは済ませていたようで、特にすることがない。というか、暇だ。手伝いを申し出てみたが、「怪我上がりなんだから安静にしてなさい」と断られてしまった。


「はあぁー…」


 ベッドに突っ伏して足をばたつかせている…と。


「いたっ!?」


 太腿の辺りに痛みが走った。そうだった。忘れていたが、階段から落ちたときに打ったのは頭だけではなく、骨折等はしていないが、それなりに安静にしなければいけないと念は押されていいたのだ。


「んー…!」


 こうもするともはや何をすればいいのか…。枕に顔を(うず)めてくぐもった声を上げる。その声が慣れ親しんだものと全然違っていて、今更ながら少し驚いたりする。さて、何をしますか…


(本も全部読んでるし…)


 というか今更気付いたけど、二人分の記憶量を同時に保持するって、相当に凄いんじゃないかな。学年の差はなかったし学力とかはそこまでじゃないけど、自分がいままでやったことのない趣味の記憶も受け継がれているようで、経験が2倍っていうのは…早死にしたりしないかな。うーん…


「…スマホやろ」


 数分考えた末、出した結論はなんとも現代っぽいものだった。少し確かめたいこともあるし、という思いで部屋を出て階段を降りる。


「同じ踏はみませんよーっと…」


 階段を降りるのは、手すりを持って慎重に。まあ、慎重にしたところで一階下に行くのに大した時間がかかるはずもなく、階段とリビングの間のドアを開け、すぐ左の棚の上に置いてあるスマホをとる。


(あ、ロック解除か…。他人のスマホを覗くのって普通ならマナー違反だよね…。)


 流石に少し申し訳ない気分になる。しかしそんな事を言っていられるほど普通の状況でもないので、僅かな良心を押さえつけてスマホのロックを解除する。そしてそのままブラウザを開き、ニュースを見る。

 数分間探して…ようやく目当ての情報が見つかった。


(高校生失踪事件…これかな?)


 場所はこの町なので、十中八九これが探していた事件だ。それにしても、失踪か…。まあ、一番面倒くさくさそうで良かった。死亡事故とかになってたら、あの屋上も使えなくなるかもしれないし。

 一応確認として、ニュースの詳細を見ると、案の定そこには私の名前が書いてあった。


(なんか、複雑な気分…)


 その後数分ニュースを見ていると、洗濯を終えたらしい母がきて、「おやつにしよっか」と言ってきた。

 今更かもしれないが、高校生にここまでフレンドリーに話しかけてくる親も珍しいのではないだろうか。まあ、個人的には仲が険悪とかよりはよっぽどマシなので、気にしないけど。

 私は一人暮らしだったから、こういうのも懐かしいな―なんて思いながらスマホを置いて、コップを取りに行きついで、冷蔵庫から麦茶を取ってテーブル置き、私も椅子に座る。


(こういう細かい所まで記憶に残っているのも複雑だな…)


 母はそんな私の心境など知らない様子で、にこにこしながらクッキーが入ったお皿を持ってきてくれた。私は深い考えなしにクッキーを一枚取って、口に入れた。


(あれ?なんか美味しい…)


 いや、甘いものが嫌いなわけじゃないんだけど、なんかこれは好き嫌いとかそういう問題じゃないレベルで、何というか味が細かく感じられると言うか…。数秒考えて、あることに思い至る。


(もしかしてこの体、五感が普通より敏感なのかな…?)


 そう思えば、昨夜からの違和感も納得がいく。まあ、やっぱり深く考えるほどのことでもないとは思うけど。

 母に、「美味しい」と伝えたら、どうやらクッキーは母の手作りだったようで、母はご満悦の様子だった。その後は、病院生活中に起こったこととかを話したり、テレビを見たりして過ごした。思えば、人とこんなに触れ合うこと自体がかなり久し振りかもしれない。

 その後、父が帰って来てから一緒に食事をした。食事が賑やかなのも久し振りで、やや胸が熱くなる思いをしたりした。

 そして私は、明日から始まる学校に期待と一抹の不安を残して眠りにつくのだった。


 余談だけど、眠りについたのは11時過ぎで、この体が疲れやすい訳ではないことに気付いて少し安心したりした。

次話から学校です!

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