#7
その依頼―――【黒キ魔女を討伐せよ】は
発注された当初、成功報酬の高さもあり、その“額”に目が眩んでしまった冒険者達が、殺到してしまった経緯と言うものがありました。
その報酬額―――実に1億リブル………
もし、この成功報酬額を手に入れることが出来たなら、後生なにもせず遊んで暮らせても、まだ有り余るだけの高額でもあった………
しかしながら、結果的には、その額は支払われることはなかった………。
以前にクシナダがシェラザードに説明したように、これまでにも成功例は一度足りとてなかった……
つまり、この事実が示すのはたった一つ―――
この依頼を受注した者の悉くを………
「(ム~~)暇ですねぇ――― まあ、この私が、挑戦者の方々を返り討ちにしてきたのですから…… 仕方がないのですけれどね。(ムヒ☆)」
『黒キ魔女』本人の証言通り、かの依頼を受注し、『黒キ魔女』を“討伐”する為に挑んできた者達を……
その悉くを―――“返り討ち”にしてきた……
だから現在に至っては、シェラザードの様な、新規の冒険者で、且つ“うっかりさん”でもない限りは、皆、畏れをなして依頼書自体に手を付ける事などなかったのです。
{*ここで―――では、黒キ魔女は、そんな新規冒険者達にも、情け容赦なかったか……と、思いたい処なのですが。 そんな者達に対しては、熟練者が差し止める傾向にあったのです。 では、なぜシェラザードは手にしてしまったか……それは、
“差し止める間もなく手にしてしまった”…… つまりは、“間に合わなかった”―――のです。}
その一方―――件の最難度依頼を、残すのみとなったシェラザード達は、この森で野宿をし、一夜を明かしていたのでした。
「それにしても……遭遇するの―――って、いつのタイミングになることやら……」
「ああ―――確かにな…… けど、黒キ魔女との遭遇率が高いのは、この森なんだ。」
「ふぅ~ん…(…………――――――)」
「どうしたの?」
「………うん―――ここから…… 直線距離にして1k先に、襲われている人が……いる?」
「(1k……)すげぇなあ―――あんた……」
「(……―――)ありがと」
「どうしたのです。」
これまで成功した例がない―――とは言え、黒キ魔女の実物を見ていないから、
自分達が“出来るか”“出来ない”かが、判らない……
シェラザードの期待感の現れ……と同時に、興味本位もあり、黒キ魔女の実物を見たい―――と言う欲求もあったのですが……
またも妬けてしまった―――
1k先で何が起きようとしているのか…… それが判るまでの優れた“索敵能力”。
本当に凄いわ―――あなたって……
昨日の身のこなしにしても、そう……
木々が乱立する“森”と言う戦場でも、障害にすらならない―――とでも言いたげに……
エルフの冒険者は、その身体能力の高さ故に、実に重宝されました。
事実クシナダ達も、自分達のクランに『シルフィ』と言う、女性エルフが所属している事もあり、その能力の高さを知っていた…の、でしたが。
そのシルフィにも増して、シェラザードの能力の高さが際立った……
しかも、その判断力も―――
#7;一人の少女と三人の冒険者
「ちょっと―――ギルドか、近くにいる冒険者達に伝えて…… ヤバいかも……。」
「ヤバい―――って?」
「“スター・キマイラ”が……5体―――いや10体??」
「(!!)それは、危険と言うレベルでは―――!?」
「だからお願い! 私はこの地点から『威嚇』を行うから、ヒヒイロカネはその地点まで急行して―――」
「“ここから”―――ですか?!」
「そうだよ! ここからなら、私達が近くにいるってことが知れる…… “魔獣”―――にも……“襲われている子”にも!!」
「なんだって?“子供”?? なぜそれを早く言わない―――!」
「ここで言い争っている場合じゃない! 私も初撃を発射させたら、その地点まで急行するから―――どうにか一人で凌いでて!」
単体でも、(討伐)難度『AA』の魔獣が―――10体……
それは最早、残された『SSS』の難度にも匹敵する難度にもなり得ていた為、その危険性は判ろうと言うもの……
しかも、追って加えられる情報として、その10体もの魔獣に囲まれ、まさに魔獣の養分になろうとしている『一人の子供』……
その事を、なぜもっと早くに伝えてくれなかったか……と、怒号が飛び交う中、言い争っている時間がもったいないからと、間もなくして標的に“当てない”程度の威嚇射撃が行われる……
そして―――現場に辿り着いた、ヒヒイロカネが見たものとは……
〔こちらヒヒイロ――― くっそう……なんてことだ! シェラの言ってたことが当たりやがった!〕
〔なんですって?!〕
〔スター・キマイラ10体に…… 恐らく10代前半の少女――― 『黒豹』の耳と尾を持つ、『獣人の少女』が襲われようとしている!〕
現場に辿り着き、〔PT内会話〕を使用して、状況のありのままを伝える『赫キ衣の剣士』。
その10数秒後―――最速で追いついてきた……
「少しでも散らすっ―――!」
〖焔の力よ、焼き尽くすものよ、我に力を与えよ〗! 〖ファイア・ボルテックス〗――――!
「応援が来るまで、私達で守護るわよっ!」
またしても―――焔の力を付与した矢で、魔獣の1体を退け、その間隙を衝いて、獣人の少女の側まで駆け寄る、2人の冒険者達……
その―――“少女”が、“誰”であるかも知らずに……
まあ―――この方達、私を“助ける為”に?
ウフ……ウフフフ―――では、見させて頂きましょう……
この、“私”の目の前で……
ただ――― 一つ言えたこととは、今回に関して言えば、“被害者側”と言うのならば、この10体もの魔獣の方だった……
それと言うのも、この10体もの魔獣が、たった一人の獣人の少女を取り囲んだと言うのも、この少女が仕掛けた“奸計”にかかってしまったから―――
そう……『退屈しのぎ』にと、仕掛けた奸計に―――
そうとは知らずに、まるで蜘蛛の巣に誘われるように
かかってしまった蝶二匹……
黒豹人族の少女は、北叟笑む……
その、愛らしい容姿とは、裏腹に―――
そして、また……蝶が一匹―――
「救援は要請しました―――それに、ギルドの方も報告いたしました……」
「上出来ッ―――☆」
「それよりもどうした……何かあったのか―――」
「救援の要請はしました……が――― 早くとも到着するのに数時間はかかると…… それに、ギルドの方も対応があやふやで―――……」
当然でしょうねッ(ムヒッ☆)
大体、私がここへ居る事、お母上には判っている事でしょうし☆
それにしても……中々良い方々じゃありませんか……。
では、そろそろこの辺で―――(ムヒ)
“誰”であるかは知らない“自分”に対し、こうまで尽くしてくれる者達の事を、【天使】より血を分け与えられた『獣人の少女』は、気に入ってしまいました。
けれど、事情を知らない彼らにしてみれば、1体減ったとは言え、依然と窮地は変わるわけではなく……
「こ~~りゃ、ちょっとヤバいかも―――」
「えっ?! そりゃねぇーぜ?」
「あなた―――勝算があったんじゃなかったの?」
「いやぁ~~私もさ、援軍当てにしてたんだよォ~~ しかもそれ、到着するの~~って―――」
「数時間かかるそうですけど……」
「こっりゃ――― 一人か二人……果ては全員神殿送りになる覚悟した方がイイカモ……」
「シェラさん?あなたねえ?」
「ウフフ―――皆さんお困りのようですね(ムヒ☆)」
「ああ―――困った……てなもんじゃねえよ……。」
「では、私が何とか致しましょう。」
「『なんとか』~って……お嬢ちゃんが出来るの?」
「できますよ?(ムヒョ?) 私が形成する結界の外には、出ない様にして下さいね?」
「(結界…『陣』?)あなた―――ひょっとすると、『術師』なの?」
「そうですよ?」
〖我が言の葉に依りて、危険より回避せよ〗 〖エビジョン・アクセラレート〗―――!
“一方的な回避”を意味するその術式は、『通常』のモノとは言え、『第八階層』に位置する、かなり高度な魔法と言えました。
しかしながら……そんな高度な魔法を、行使・詠唱が出来ていたのは、『獣人の少女』―――
その不釣合いな事象に、気付いてくる者も出てきたのです。
つづく