#6
「ナァ~~ッハッハツハァ! 楽勝~楽勝~☆」
難度『A』でも、“簡単だ”と言い切った―――
最初は“ハッタリ”だと思っていましたが、いざ一緒に戦闘をこなしてみると……
「すげぇ……オレ達、苦労してやっとここまでなれたと言うのに…… なあ―――あんた、本当に冒険者するのが初めて…なのか? 本当は―――どこか大きな街の、それなりのクランに所属してたんじゃ……」
「ああ~~“こう言う事”するのは初めてだよ。 まあ~~なんてか、170年間やることないから、修錬ばっかしてた―――てのは、否めないわよねえ~。」
「(170年…)私達の10倍も―――」
「ま、それだけ長生きできれりゃ、イヤでもここまでは成れる―――てなもんよw 気にしなーい気にしない。」
自分達も、数々の依頼をこなしてきて、ようやく“ここまで”になった―――モノと思っていたのに、そんな自分達をも凌ぐスキルを修得している女性エルフを、次第に認めざるを得なくなってくる……
それは、半ば“嫉妬”“羨望”にも似た感情……
それに、シェラザードの能力の高さは、他の処でも発揮されてきたのです。
―――と、言うのも、シェラザードが同時に受けた、『採取系』の依頼でも、
エルフさながらの豊富な知識に任せ……
「ちょっとここらで休憩取ろうよ。」
「え?ああ―――そうだな…… じゃ、取り敢えず食材採ってくるわ。」
「では、私は火を熾します。」
「ダイジョブ―――ダイジョブw 森の事は私が詳しいからさ、お二人さんは待ってなって♪」
そう言うなり―――エルフは一人、深い森の奥に消えて行った……
―――と、思っていたら、モノの十数分経て……
「いょっ―――と…… ヘ~イ、お待ちどお!♪」
「(ン・ガ…)ちょっ―――ちょっとお??」
「まだ……十数分しか経ってませんよ? なのに……」
「アレ?獲り過ぎちった? いやァ~でもこれ、八分くらい抑制したんだけどなあ~~」
八分……獲ってきたきたんじゃなくて―――八分抑制?
つまり……二分でこの量?
なんっ……と言うか、嫌らしいというか、可愛げがないというか~~
しかし、それが彼女の真実と言うモノ―――
それに、別にシェラザードにしてみれば、遠慮をしたわけではなく、本当に“乱獲”しない程度に狩猟をしてきての量―――だったのです。
しかも、彼女の畏るべきところは、最早そこにはなく……
「(あ…れ?)おい―――コレ……って…… 今回の依頼対象の『マルゲリータ・シュリンプ』?」
「それにっ―――“こちら”は…… 見つけるのもかなり難しいとされている、『アルゲリータ・ダックの卵』?!」
「(はえ?)それ、そんなに珍しいの? 今回の狩猟で、そこら中にあったよ?」
“両方”とも、採取系では難度『A』……だったにも拘らず、苦も無く見つけてきた―――と言う体を見せる女性エルフ……
本来ならば、ともに喜び合って、讃え合ってもいいはずなのに……
どこか素直になれない―――
『こんなこと』がいけないこととは分かりつつも、だとしても“彼女”にしてみれば、『そんなもの』は、“どこ吹く風よ”―――とでも言いたげに……
「ん~~じゃ、ここで一旦腹ごしらえねッ☆」
「ああ―――じゃあオレ、水汲みに……」
「では、私は調理を……」
「いいから―――ってえ♪ 二人とも、この私にまかしときんしゃい~♪」
「えっ……でも―――――」
「遠慮すんなよ――― 私もさ、嬉しいんだ、“仲間”と一緒に、『何かを為す』―――って事が。 あのさ……二人とも、【緋鮮の記憶】って言う英雄譚、読んだことある?」
「ええ―――幼い頃は、何度となく読み返しましたが……」
「オレも……好きだぜ、あの物語―――」
「その中にさ、恐らく…だけど、私達の先祖と思われる人の記述があるのを、知ってる?」
「確か―――【美麗の森の民】……」
「でも―――あれ?確かその登場人物……」
「うん―――途中で…志半ばで倒れちゃうんだよね……。 それも、仲間の一人の身を庇って…… 私は―――さ…その人と同じになりたくは、ない……。 “死して英雄”になるよりは、“生きて英雄”になりたい――― その為に、過去を捨てて、新たに“冒険者として生きる事”を選んだの。」
#6;私は英雄に成りたい
なぜ―――この女性エルフが、頑なまでに冒険者になりたかったか……
どこか知れたような気がしました。
けれど、気になることも少なからず出てきたのです。
この人の目標―――最初に目についた時には、『なんて軽率なんだろう』……そう思っていた。
けれど今、改めて目標を聞いて、凄いと思ってしまった……
悔しい―――私は…… “凄い”と思わされるようになってしまって、非常に悔しい……。
今までは、漠然として活きてきた…… ただ、強くありたい―――と、そう願ってきた……
それだけでは足らなかったんだ…それだけでは、ダメだったんだ。
けれど、気になる処も同時に湧いてきてしまった……。
この人が言っていた『過去』―――って、なんだろう……
この人は当初、“ある事”を強く否定したけど、なぜか『過去』には、この人自身の事が含まれていそうな気がする……
シェラ…私は知りたい―――あなたの『過去』を……
ふとした“きっかけ”で興味が湧いてきてしまった……
シェラザードにしてみれば、現在になるまで至った心境を語っただけなのでしたが、クシナダは“そう”は取らなかった……
シェラザードと最初に会った時、彼女は、彼女と同じ名を持つ、エルフ王国の王女と同一であることを強く否定しました。
しかし、否定をした理由も、どことなく判ってしまったため、王女ではない―――と、思ってしまったのですが……
彼女の動機を聞いていくに及び、どうも過去の部分が、気になって仕方なかったのです。
―――と、それはそれで良かったのですが……。
彼女達が請け負った複数の依頼も、残すところは“あと一つ”のみ……
そう―――難度『SSS』の……
「―――と言うより、最後に『コレ』が残ってしまいましたか……」
「て言うかさあ…逆にここまで来て、全く出会わない―――てなことって、ある?? てか……あんた達ってさあ、冒険者になって、かなり経つのよねえ?」
「ああ―――まあな……」
「それじゃあさあ―――この……『黒キ魔女』って、どんな人なのか知ってるの?」
「いや―――詳しくは……知らないなあ。 ただ―――」
「そうよね―――その二ツ名に『魔女』を冠する辺り、冒険者の内でも最強の術者だとの噂も流れていますから。」
「ふぅぅ~~ん……『最強の術者』ねえ……どうしてなんだろ?」
「これも、噂の域は出ないんですが――― なんでもその方、【天使言語術】を操れるようですよ。」
「てっ……【天使言語術】?? は~~―――そりゃまた……」
『黒キ魔女』の“噂”―――
なぜ一介の冒険者が『討伐』の対象となってしまうのか……
その理由が判るような気がしました。
通常の、ギルドに所属する術師が扱える“魔法”―――と言えば
“地/水/火/風/闇/聖”の『元素魔法』
魔獣などを“召喚”する『召喚魔法』
“精霊”達に働きかける『精霊魔法』
少々取り扱いが高等になる『古代語魔法』………
と、様々にあるのでしたが。
その内でも、【神仙族】【天使族】【竜族】などが独自に開発した“術式”―――
それこそが【封神術】【天使言語術】【竜言語術】と称される、【超高等魔法】なのです。
つまりは、そう………『黒キ魔女』が、如何なる理由からかは判りませんが、『天使言語術』を操ることが出来ていた………。
それこそが、『冒険者最強の術者』―――と、讃えられた理由でもあったのです。
つづく