#3
本物の王女が城を出奔し、その後……
王女の側仕えをあしらってから数時間経った頃、身代わりとなったシルフィは、ある事に気付かされたのです。
そう言えば、あの方の“ラペリング”―――随分と、こなれているように見受けられたけれど……
それに、あの方…王族なのだから、護身術は―――と、思っていたけれど……
実は“そう”じゃない?
そう…皆誰しもが曲解してしまう事実がそこに―――
それは、ご多聞にも漏れず、シェラザードも高貴な身分なのだから、武芸に関しては疎い―――と、思われがちだったのです。
しかし、それは―――……
エヴァグリム王国の城から、程近くある街―――と言えば、『マナカクリム』でした。
その街の近くの森にある、少々“こんもり”とした、落ち葉の山……
しかし、しばらくすると―――
「ぷっひゃあ~~もう朝かぁ―――よく寝たぁ~!♪ ん~~やっぱ、落ち葉の匂りって、イイよね~~♪ さぁ―――て、と、まずは水浴びをして、それから街へ直行よっ!♪」
なんとも…アグレッシヴにも程度があったようでして―――
なんと、この“元”王女様は、夜の闇へと紛れた後、落ち葉をかき集めての、簡易性の寝床を造り、そこで一夜を明かしていたのです。
そして、そこから近くの水辺で水浴びをし、棲んでいる魚や小動物を獲り、調理をするなどして―――と、中々に生き残り術のスキルにも心得があった事を知るのです。
一方その頃―――その街……マナカクリムにては。
#3;仲 間
「遅いなあ―――シルフィのヤツ…」
「昨日、同じエルフの王族から、ご招待があった―――と、聞かされていましたが……」
「―――に、してもだよ、もう昼前になるぞ?」
「(ふうむ…)彼女の事ですから、時間にルーズになったとは、思いたくないのですが……ね。」
『待合い喫茶』と呼ばれている場所で、仲間の一人を待っている、男女一組の冒険者―――
一人は男性で、名を【ヒヒイロカネ】と言い、【赫き衣の剣士】と呼ばれていました。
そしてもう一人は女性で、名を【クシナダ】と言い、【鬼道巫女】と呼ばれていました。
そして、この二人は―――『人族』……
『人族』は、この『魔界』に於いては最弱の存在であり、身体能力的にも、『亜人族』や『獣人族』に劣り、また魔力に関しても、他の種族より劣っていた…
ただ利点を挙げるとすれば、その数の多さ―――だけでした。
けれども、中にはこの二人の様に、突出して能力が高い者達も現れるなど、他の種族と比べても『特別変異率』が高く、事実“彼”と“彼女”が所属する『クラン』は、数ある冒険者たちの“集団”の中でも、先端を奔る者達として、持て囃されていたのです。
そして…『シルフィ』は、そんな彼らの一員―――
けれど“今”、彼女と言えば―――
そんな事とは露知らず、目的地に着いたシェラザードは、気が向くまま足が向くまま、街中を闊歩し―――
すると、そんな“彼女”を見かけた……
あ―――あれ?
あの後ろ姿…シルフィじゃねえか―――
なんだ?あいつ…オレ達との約束守らなかったばかりか……
仲間であるはずの自分達の事など、まるで眼中にない―――とでも言いたげに、
近くを通り過ぎていく、クランの内でも重鎮を担う女性エルフ……
だから男性剣士は―――
「おい―――ちょっと待てよ!」
「(は?)………誰だ?お前―――――」
「(は?)何言ってんだよ―――オレだよオレ!」
「オレオレ詐欺かあ?今時流行んないぞ、それ―――」
「なっ…何言ってんだよ!オレだよオレ!! お前と一緒のクランに所属してるヒヒイロカネだって!」
「(お??)おお~~~そういやそうだった―――カナ?! いや~~っはっはは―――ちょっと軽く記憶がフッ飛んじゃってさあ~~w」
「だっ―――大丈夫か? そういやお前…昨日エルフの王族に呼ばれた―――って…… もしかしてその帰りに?」
「(……)う―――うん…まあ、そんなとこ………」
いきなり背後ろから肩叩かれてビックリしちゃったんだけど………
こんな見ず知らずの私に対しても―――
…って、あ、そか、確か私の身代わりに仕立て上げた子って、冒険者だったよねぇ?
…てことは、この男性が仲間―――
ふぅ~ん…これが『仲間』―――ってヤツなんだ……
イイもんね―――悪くないわ…
そ・れ・に、この“彼”…よく見ればイイ男じゃなぁい?♪
男性剣士にしてみれば、いつもとは違う仲間の有り様に対し、優しく接した―――つもりでした。
しかしそう……これは結果論でしかないのですが、今……ヒヒイロカネが話しかけた女性エルフは、
“全くの別人”―――
その“全くの別人”が、一人の男性に対し、次第に頬を紅潮らめて行く様に……
「ちょっとあなた―――!? 私のヒヒイロ様に、何を色目使ってんの!?」
「は?何言ってんだクシナダ…こいつ、シルフィ……」
「ヒヒイロ様は黙ってて――― ねえ…あなた、どう言うつもりなの?」
「そう言うあんたは誰―――? それに『私の』? ふぅぅ~~ん…つ・ま・り、このイケてる男性―――って、あんたの『所有物』なわけぇ?w」
「なっ―――なんてふしだらなことを~…… ヒ…ヒヒイロ様は、“モノ”ではありませんっ―――!」
「へっえぇ~~―――なるほどナルホド…… じゃ、つまり―――このイケてる男性…… 未だあんたの『男』じゃない―――ってことで、イインダヨネエ~~?w」
その変わり様をいち早く見咎めた者こそ、どうやらクランの仲間である男性剣士に、仄かな恋心を寄せつつある、巫女装束に身を包む女性だった……
しかも、『仄かな恋心を寄せつつある』―――と言う事は、自分の想いの丈を、告白した事など、ない――――――――のに、弾みとは言え、人々が沢山いる中で、告ってしまった―――……
ただ、哀しきは、『自覚がない』……
あるとすれば、いきなり現れた女性エルフに、想い人を寝取られる危機を抱いている、だけ……
しかも―――
「ちょっ…ちょっと待て、お前ら~~―――! だ…だだっ……大体、お前ら、仲間同士で争い合って、どう言うつもりなんだあ~??」
「ヒィ君…けど―――けどね?」
「それにクシナダ―――お前、シルフィとはあんなに仲良かったじゃないか! なのに…なんで……」
「待って?待ってよ―――ヒィ君…… そいつ、シルフィじゃないわよ?」
「は?いやだって―――シルフィじゃ……… ………そうなの?」
「はァ~~ヤレヤレ―――確かにそうダヨ。 私は、あんたたちのお仲間であるシルフィじゃない…。 私の名は、『シェラザード』―――よ。」
「(シェラザード………?!)その名前………エルフの王国である、『エヴァグリム』の『王女様』のお名前と同じ―――」
「ふぅ~ん―――中々いい勘してる…て、言ってあげたいところだけど、シェラザード―――って、結構エルフの中ではポピュラーなのよねえ~~ ざぁ~んねぇ~んでした―――w(ンベッw)」
自分達が仲間だと思っていた女性エルフ―――
しかし、本来の仲間であり、深い友誼を結んできた者により、立ち待ちのうちに看破られ―――は、するものの、そこはすでに想定通り………しかも、本来の名前を明かしたところで、実際に『シェラザード』と言う名前は、割とエルフ族の中ではポピュラーだったものと見え、二人は、自分達の前に立つこの女性エルフが、『本物の王女』であることに気付くのに、かなりな時間を要してしまうこととなるのです。
つづく