#1
―――ある世界に、“王国”というものがありました。
その“王国”には、数多くの民と、当然のことながら、その民達を治め、保護する“王族”も存在しえていました。
この“お話し”は、そんな王国……
『エヴァグリム』での出来事が発端となるのです。
#1;自由への嘱望
エヴァグリムと言う王国を統治する“王族”が住む“城”―――
そこには当然、統治者である『国王陛下』や、『臣下』『騎士』『兵士』などが詰め。
その中には、国王陛下の“娘”である『姫』―――或いは『王女』も住んでいました。
そして、この―――エヴァグリムは、“魔族”の一種族である『エルフ』という、単一の種族で構成をしていました。
それに、この“お話し”での、“エルフ”と言う種族の位置づけは……
他の“魔族”―――『亜人族』、『獣人族』、更には『人族』よりも、高貴にして高潔―――
言ってみれば、“彼ら”にしてみれば、『お高く留まって鼻持ちならない』―――と言う、種族の心象が強かった……。
それは、少なからず、同じく“魔族”には、『竜族』『天使族』『神仙族』などもおり、そちらに対しては腰が低かったのですから、そう思われても致し方のなかったようです。
さて、幾分か本題からは逸れましたが、実は……
この【エルフの王女様】が、ここ数年来なにやら患っているご様子で……
はあ~~あ・・・退屈―――だなあ・・・私も今年で172歳になっちゃたけど、生まれてこの方、『城から一歩も出ちゃダメ~~』って……
「つぅ~~まんないなぁ~~―――なんで私、『王女』なんかに生まれちゃったんだろ。」
彼女の思考に独り言……それは、“高貴な身分”の方々が、罹患すると言う、一種の“病”のようなもの―――
言わば、“富める者の病”と言って差し支えなかったのです。
けれどそれは、城下―――或いは他の町などに暮らしている者達からすれば、贅沢の何物でもなかった……
いつもお召しになる服飾の類も、1m四方で数万はすると言う、高級な布地を使用し。
{*しかもこの布地、エルフの織機技術の高さもあり、かなりな薄手でも汗をよく吸収―――暑い時期でも爽やかに感じ、また涼しい…… 寒い時期でもそんなに寒さを感じず、また温かい……とくれば、その価値の高さも判ろうと言うもの}
食事時に食卓へと昇る食材に関しても、その時期に採れる“旬”のものや、100g辺り数万はすると言われている獣の肉……だとか。
そんな料理が“皿”にしていくつも並べられる―――
そんな王族としての暮らしが―――“飽きた”??
とも、思われなくもなかった……
ただ―――『コレ』は、『独り』『言』でなければならない……
「王女様……今―――なんと?」
「(うえ゛っ?!)セセセ……『セシル』―――?! いっ……いつの間に―――それより、私の独り言……どこから聞いてたの……?」
「『つまんないなあ~なんで私、王女なんかに生まれちゃったんだろう』……と。」
最初っから―――カヨ……
「【シェラザード】様、お言葉ではございますが……」
そう―――つまり『王女の部屋』には、“もう一人”いたのです。
それが……王女の『側仕え』―――である、【セシル】と呼ばれた“男性エルフ”……
{*ここで一つ―――こうした『ファンタジー物』の物語などでよく出てくる、『エルフ』という“種族”に関して…… その容姿は“中性的”であり、“男”“女”を問わず『繊細』で『儚げ』、『嫋やか』な印象を持っているとされている。}
そして……このエルフの王女の名前こそが―――【シェラザード】と言いました。
それに、なんとも間の悪いことに、シェラザード王女様の独り言は、全て聞かれていた……
うわっちやあ~~なんつータイミングだよ……
まさか―――とは思いたいけど、私の“計画”……バレちゃいないわよ……ねぇ?
側仕えからの説教の最中、シェラザードは、密かに企ていた、“計画”が漏れたものかと、心ここに非ず―――の、状態でしたが、お説教を済ませた側仕えが部屋から出ると、そんな様子は感じられなかったので、取り敢えず……は―――
「はあぁぁ~~~―――(!んっぐ……っ!)」
―――――…………
たまったもんじゃないわよねぇ~~
独り言も言えないなんて、こんなキュ~クツな生活、真っ平ダヨ!
“壁に耳あり、障子に目あり”―――とは、よく申したもので、厳しい目付け役がいなくなった途端の、大きなため息一つを取っても油断がならない……
つまり、シェラザード王女の“あの独り言”には、彼女なりの憂鬱が盛り込まれていたのです。
そして、ここで少なからず見えてきた、王女シェラザードの“患い”の正体……
それこそ、高貴な身分だったとしても、“束縛”を強要されることに疑問を抱き始めた王女の、【自由への嘱望】―――それだったのです。
しかしながら―――そうは言っても、自分一人がこの城から脱走をするわけにもいかない……
もし脱走を強行してしまえば、自分の“親”である、『エヴァグリム国王陛下』が黙ってはいないだろうし、何より―――シェラザードが生まれてこの方、彼女の側仕えをしている存在……セシルの目を欺かなければならない……
だからこその“人選”は、慎重……かつ秘密裡に行われていたのです。
そして―――この“計画”を立てて凡そ『10年』……
ようやく“その機会”が訪れようとしていました―――。
それは、王女の発案により、国中の庶民を城へと呼び、『晩餐会』を催してはどうか―――と言うものでした。
その事に関し、国の官のから多少の反発はありましたが―――
“子”に対して“甘い”のは、どこの世界―――どこの種族でも同じであろうか……
エヴァグリム国王陛下は、娘であるシェラザード王女の言を取り入れたのです。
まだ、この時点では、王女の父である国王陛下も、彼女が企んでいる事は一切知れていない……
それにまた、王女の側仕えも―――……
ただ―――…………
国家の財政は逼迫しつつある―――それはシェラザード様もご存じであるはず……
第一にあの方は、10年ほど前に財政難に陥りつつあるを知り、多くの官吏の罷免を提言されてこられた……
なのに―――??
……まさかとは思いたいですが、今日の「晩餐会」を開きたい一心で、その事に及んだ―――などと知れたりしたら……
王女がこの世に生を受けてより172年間―――彼女の面倒を見続けてきた『側仕え』セシル……
だから、王女の一挙手一投足の判別には自信を持っていた……
それに王女は、自分の利益の為だけに動きはしないことも、知っていた……
だからこそ―――……
だが―――おかしい……判らない……
この私の眼をもってしても……
シェラザード様―――あなたのお望みとは、一体……?
騙される―――
謀は、成る―――
王女の本当の狙いが知られないまま、“陰謀”の『晩餐会』は催され―――
かくて城には、エヴァグリム中のエルフの男女―――
それも、王女の年齢とさほど変わりがない者ばかりが、呼び集められる……。
そしてその中で―――
やがて、一人のエルフに、『白羽の矢』が突き立てられる……。
{*ちなみに……ではあるが、本来の『白羽の矢』とは、神に捧げる為に“贄”となる者に対して突き立てられるものである……と、言う事は―――?}
では―――その生贄の正体とは……?
「こんばんは―――」
「あ、はい! こんばんは…… (……って―――)お……王女様?!」
「あなた……イイわね―――」
「(え……)は―――はあ…… な、なにがイイのでしょうか……?」
「『全部』――― ウフフフ―――あとで、私の部屋にいらっしゃい……」
見つけた―――今回の私の計画に『必要な子』……
少しばかり派手にしちゃったけれど、まあいいわ―――
これで私は……ウフフ・フ・フ――――――
突如として―――王国の王女様に声を掛けられた女性のエルフ……
名を―――【シルフィ】と言いました……
しかも、この女性エルフは、どことなくシェラザード王女によく似ていた……
{*―――とは言え、エルフの容姿は個体差はある……ものの、誰しもがほぼ似通っていた為、“他”からは判別がつきにくかった模様。 しかもこの“実例”が、この後すぐに明らかとなってくるのです。}
そう―――もうここでお分かりになっただろうか……
シェラザードの企みの正体とは、『自分の“身代わり”“替え玉”を、見定めていた』―――と、言う事だったのです。
つづく